31.アオイ狩りメンバーの到着

文字数 1,108文字

昼下がりの米軍横田基地。

慧子、カレンの2人は、それぞれ、平服のまま米軍専用旅客機の到着を待つ。マスムラはCIAの日本支部に呼び出されたため、ここにはいない。

2人の他に、家族を迎えに出ている軍服姿の兵士が数人いた。


旅客機が到着し、空軍基地である横田基地で目立たないよう空軍の制服を身にまとった20181、20182の2名の放電型人間兵器が下りてくる。

20181号機、元サイード大尉がカレンにまず敬礼し、続けて手を差し伸べる。2人は握手を交わす。


サイード大尉、よく来てくれました。
20182号機、元サレハ少尉もカレンに敬礼して手を差し出す。握手する二人。


サイード大尉とサレハ少尉は米陸軍の特殊部隊に属していたアラブ系アメリカ人で、国防総省から人間兵器の候補として選抜され、本人の同意の上で放電型人間兵器に改造されていた。


これは、レノックス博士、こちらにいらしていたとは……
私も、アオイ狩りに加わるようブラックマン博士から命じられました。
そうですか。では、失礼。
サイード大尉が申し訳のように小さく敬礼して立ち去る。

アブドゥラ少尉は慧子には目もくれず、歩き去っていく。

あら、二人とも、自分の生みの親に冷たいわね。
例の噂のせいでしょう。サイード大尉とアブドゥラ少尉は、私の事を信用していない。
あなたが、アオイが国防総省の秘密研究所から脱走するのを助けたという噂の事?

DCIS(国防総省犯罪捜査局)の捜査で、あなたの潔白は証明されたじゃない。

人の頭に一度浮かんだ疑惑は、簡単には消えない。特殊兵器開発局長も私を疑い続けた。だから、彼は人間兵器開発チームのリーダーを私からあなたに替えた。

ケイコの被害妄想が、また出た。いえ、被害妄想というより自己の能力への過信ね。特殊兵器開発局長は、あなたより私の方が能力があると判断したからリーダーを替えたのよ。いたって合理的な判断だわ。

私は社会的能力ではあなたに劣ると認めるけど、エンジニアとしてあなたに劣るとは思わない。
ケイコ、チームを率いるリーダーには、社会的能力が必要なの。私とあなたの違いは、私には社会的能力があり、あなたにはないということ。
なるほど。私も合理的、冷静に考えると、それは認めるしかないわね。
脳破壊型人間兵器1機を使う小規模作戦なら、脳破壊型人間兵器を熟知しているあなたに指揮を任せても良かった。でも、放電型人間兵器2機とCIAの特殊部隊を動員した大規模な作戦は、あなたには任せられない。これも、合理的な判断でしょ。
同意するしかないわね。
20181、20182とあなたの間の感情的なもつれは、私が間に立って調整する。あなたは、私の作戦参謀に専念してちょうだい。
わかった。
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登場人物紹介

山科アオイ(17歳) 

両親とドライブ中に交通事故に遭う。両親は即死。生き残ったアオイは、瀕死の状態でICUに運び込まれるが、何者かの手でそこから拉致され、アメリカ国防総省が日本に設置した人体改造研究所で、放電能力を持ち人間兵器に改造される。

謎のテロリスト集団に襲撃されて混乱に陥った人体改造研究所から、傷を負いながらも脱出。幸田と名乗る正体不明の男に助けられる。

幸田の力を借りてCIAの追っ手を振り切りながら、アオイは、自分をCIAに売り渡した謎の組織を突き止めようとする。

幸田(下の名前は不明、年齢40歳前後)

C人体改造研究所の近くで負傷しアオイを助けた謎の男。

英語に堪能、銃器の取り扱いに慣れ、格闘技にも優れている。

無職。アオイをCIAに売り渡した組織の正体を突き止めることに対して、何者かから報酬を得ているようである。

田之上ミツキ(17歳)

東京郊外X市の公園で不良に暴行されかけているところを、アオイに救われる。

その後、アオイと同じフリースクールに通い始め、アオイと親しくなっていく。

実は、アメリカ国防総省ががアオイを倒すために送り込んだ刺客。ターゲットの自律神経系を一瞬にしてマヒさせ、生命維持機能を失わせる力を持っている。

細田真一(9歳)

アオイが通うフリースクールの仲間。小学校で、ひどいイジメにあって、フリースクールに移ってきた。天才的な絵の才能を持っている。

フリースクールの他の子ども達がアオイを恐がったり、煙たがったりする中で、一人だけアオイになついていて、アオイからも可愛がられている。

太一先生(20代後半、独身)

アオイが通うフリースクールのまとめ役であり、教師でもある。

温かい愛情で小学校低学年から高校生までの生徒たちを見守っている。

いざとなれば、肚の座った、芯の強い人間。

アオイに、高卒認定試験を受けて、大学進学することを勧めている。

レノックス・慧子(37歳、独身)

アメリカ国防総省(ペンタゴン)で人間兵器を開発してきた科学者。放電能力を持つ2018シリーズ5基と、ターゲットの自律神経系を破壊する脳波を発する2019シリーズ1基を開発した。

職人気質で、組織との折り合いは悪い。

CIAから、山科アオイの逃亡を助けたのではないかと、疑われている。

田之上ミツキを使って山科アオイを抹殺する密命を帯びて日本で活動しているが、CIAのパトリック・マスムラに監視されている。

日本人の両親のもとで17歳まで日本で過ごした。母親がアメリカ人と再婚したためレノックス姓となったが、日本風にレノックス・慧子と呼ばれることを好む。

パトリック・マスムラ(55歳、日系四世のアメリカ人)

CIAのベテラン工作員。アジア諸言語に堪能なため、過去20年間、アジアでの工作活動に従事してきた。眠りが浅いと、自分が殺害してきた多くの人間が夢に現れるので、睡眠薬が手放せない。

田之上カスミ(霊魂)

田之上ミツキの妹。

ミツキと同時に人間兵器に改造される途中で、死亡する。

しかし、その魂がミツキに受け継がれ、ミツキと二人きりの時に、話しかけてくる。

ミツキが忘れてしまった出来事、ミツキが気づいていないミツキの心の葛藤に気づいている。

ミツキを深く愛している一方で、クールでニヒルな一面を備えている。

川野メグミ(年齢不詳)

フリースクールの高学年生徒に英語と数学を教えているボランティアの大学院生。

実は、アオイとミツキを監視するために送り込まれたCIA工作員。

カレン・ブラックマン(35歳、独身、離婚歴あり)

アメリカ国防総省の科学者。

山科アカネ逃亡事件の責任を問われて失脚したレノックス慧子に代わって、人間兵器開発チームのリーダーになる。

バランスの取れた組織人で、感情に流されることはない。人間として許せないと感じることでも、組織の決定には従う。

レノックス・慧子を尊敬しているが、目の上のタンコブとも感じている。

エル・リケルメ(おそらく偽名。年齢、国籍不明)

国際的な武器商人。

暗殺用人間兵器を、ブラックマーケットで売って、巨万の富を得ようとしている。

しかし、実態は、金の亡者というより、ニヒリストの変種。


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