61. 偽 装

文字数 1,351文字

アオイとミツキは、コンソールの陰に伏せて。
隠れても、すぐ見つかっちゃうぞ。
エージェント・マスムラは、あなた達二人がリケルメと一緒だと思い込んでいる。それを利用してマスムラ達をやり過ごす。だまされたと思って、言うとおりにして。


マスムラの思い込みについては、43. 「『禁断の兵器』、落とし前をつける」をご覧ください。

https://novel.daysneo.com/works/episode/11df05b9bc4226f30a2b548a6599b1bd.html

アオイさん、博士は、私たちの中で一番頭がキレます。博士に任せましょう。
ミツキがそう言うなら、あたしもつき合う。
二人とも、コンソールにへばりつくように、横になって・・・・・・そう、それでいいわ。今、死体をかぶせるから、じっとしてなさい。
慧子は、死体を引きずってきて、アオイとミツキの上にかぶせる。

一体だけでなく、二体を不自然にならないよう重ねて、少女達の身体が完全に見えないようにする。


よし、出来た。二人とも、じっとしてるのよ。
慧子は拳銃を自分の太ももに向けた。動脈を避けて狙いをつけ、引き金を引く。乾いた銃声が室内に響いた。
慧子、監視カメラ操作盤の前に移動し、マイクを手に取る。
慧子、何したんだ!
アオイ、私は大丈夫。動かず、じっとしていて。
慧子は脚から血を流しながらコンソール上のマイクを取り、スイッチを入れた。
エージェント・マスムラ、レノックスです。


今、扉を開けます。この部屋には、もう私しかいません。

慧子は扉をあけ、両手を上げる。しかし、追跡部隊はすぐには入ってこない。まず4人だけが廊下から援護を受けながら偵察に入ってきて、部屋の四方に散らばった。


室内に死体か行動不能な負傷者しかいないのを確かめ、廊下にいる仲間を呼ぶ。


マスムラが慧子に近づいてきた。

撃たれたようだな。

この部屋で乱戦になり、私は撃たれ、アオイとミツキは麻酔銃で眠らされて連れ去られた。
どういうことだ? 
私は、クルマで私を護送してきた連中を予定どおり麻酔ガスで眠らせて病院に突入した。しかし、見舞い客に化けて1階に潜んでいたリケルメの部下に捕まって、ここに連れてこられた。
それは、無様だな。で、ブラックマン博士とは会ったのか?
いいえ。ブラックマン博士は、リケルメと一緒に製造施設にいた。
なぜ、我々の到着を待たずに戦闘を始めたのだ?
私が見張りのすきをみて銃を奪ったら、アオイとミツキが、すぐに周りの連中を攻撃し始めた。それで、私も撃ちまくった。
そして、乱戦の中、君は脚を撃たれ、アオイとミツキは麻酔銃で眠らされ連れ去られた。ますます無様だ。
マスムラがあたりを見回した。
しかし、ともかく私たちをリケルメの元に導いてくれた。敵の数も、だいぶ減らしてくれたようだ。研究者にしては上出来と、評価してやった方が良いかもしれないな。

30分もしたら、CIA日本支部がリケルメ一味の生き残りを回収しにくるはずだ。君も一緒に回収してもらいたまえ。

エージェント・マスムラ。ここに、奥に通じる通路があります。武器商人一味はここを通って逃げたのでしょう。
よし、連中を追うぞ、急げ。
マスムラ率いる追跡部隊はオペレーション・ルームを出て、製造施設に移動していった。

慧子の口から安堵の息がもれた。

ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

山科アオイ(17歳) 

両親とドライブ中に交通事故に遭う。両親は即死。生き残ったアオイは、瀕死の状態でICUに運び込まれるが、何者かの手でそこから拉致され、アメリカ国防総省が日本に設置した人体改造研究所で、放電能力を持ち人間兵器に改造される。

謎のテロリスト集団に襲撃されて混乱に陥った人体改造研究所から、傷を負いながらも脱出。幸田と名乗る正体不明の男に助けられる。

幸田の力を借りてCIAの追っ手を振り切りながら、アオイは、自分をCIAに売り渡した謎の組織を突き止めようとする。

幸田(下の名前は不明、年齢40歳前後)

C人体改造研究所の近くで負傷しアオイを助けた謎の男。

英語に堪能、銃器の取り扱いに慣れ、格闘技にも優れている。

無職。アオイをCIAに売り渡した組織の正体を突き止めることに対して、何者かから報酬を得ているようである。

田之上ミツキ(17歳)

東京郊外X市の公園で不良に暴行されかけているところを、アオイに救われる。

その後、アオイと同じフリースクールに通い始め、アオイと親しくなっていく。

実は、アメリカ国防総省ががアオイを倒すために送り込んだ刺客。ターゲットの自律神経系を一瞬にしてマヒさせ、生命維持機能を失わせる力を持っている。

細田真一(9歳)

アオイが通うフリースクールの仲間。小学校で、ひどいイジメにあって、フリースクールに移ってきた。天才的な絵の才能を持っている。

フリースクールの他の子ども達がアオイを恐がったり、煙たがったりする中で、一人だけアオイになついていて、アオイからも可愛がられている。

太一先生(20代後半、独身)

アオイが通うフリースクールのまとめ役であり、教師でもある。

温かい愛情で小学校低学年から高校生までの生徒たちを見守っている。

いざとなれば、肚の座った、芯の強い人間。

アオイに、高卒認定試験を受けて、大学進学することを勧めている。

レノックス・慧子(37歳、独身)

アメリカ国防総省(ペンタゴン)で人間兵器を開発してきた科学者。放電能力を持つ2018シリーズ5基と、ターゲットの自律神経系を破壊する脳波を発する2019シリーズ1基を開発した。

職人気質で、組織との折り合いは悪い。

CIAから、山科アオイの逃亡を助けたのではないかと、疑われている。

田之上ミツキを使って山科アオイを抹殺する密命を帯びて日本で活動しているが、CIAのパトリック・マスムラに監視されている。

日本人の両親のもとで17歳まで日本で過ごした。母親がアメリカ人と再婚したためレノックス姓となったが、日本風にレノックス・慧子と呼ばれることを好む。

パトリック・マスムラ(55歳、日系四世のアメリカ人)

CIAのベテラン工作員。アジア諸言語に堪能なため、過去20年間、アジアでの工作活動に従事してきた。眠りが浅いと、自分が殺害してきた多くの人間が夢に現れるので、睡眠薬が手放せない。

田之上カスミ(霊魂)

田之上ミツキの妹。

ミツキと同時に人間兵器に改造される途中で、死亡する。

しかし、その魂がミツキに受け継がれ、ミツキと二人きりの時に、話しかけてくる。

ミツキが忘れてしまった出来事、ミツキが気づいていないミツキの心の葛藤に気づいている。

ミツキを深く愛している一方で、クールでニヒルな一面を備えている。

川野メグミ(年齢不詳)

フリースクールの高学年生徒に英語と数学を教えているボランティアの大学院生。

実は、アオイとミツキを監視するために送り込まれたCIA工作員。

カレン・ブラックマン(35歳、独身、離婚歴あり)

アメリカ国防総省の科学者。

山科アカネ逃亡事件の責任を問われて失脚したレノックス慧子に代わって、人間兵器開発チームのリーダーになる。

バランスの取れた組織人で、感情に流されることはない。人間として許せないと感じることでも、組織の決定には従う。

レノックス・慧子を尊敬しているが、目の上のタンコブとも感じている。

エル・リケルメ(おそらく偽名。年齢、国籍不明)

国際的な武器商人。

暗殺用人間兵器を、ブラックマーケットで売って、巨万の富を得ようとしている。

しかし、実態は、金の亡者というより、ニヒリストの変種。


ビューワー設定

背景色
  • 生成り
  • 水色