36.偵察

文字数 1,280文字

アオイ達が寿司とスイーツで腹を満喫した翌朝、多摩川に沿って東京都から山梨県に通じる街道に6台の黒塗りのSUVが連なって停まっていた。
残念だなぁ……紅葉の見ごろは過ぎちゃいました。
クルマを降りて周りの山々を見回していたチャン軍曹がため息をつく。
チャン技術軍曹、気を引き締めろ。人間兵器を追跡中だ。しかも、山科アオイと田ノ上ミツキの2機が相手と考える十分な根拠がある。
チャン技術軍曹がクルマの後部座席に戻ると、助手席のカレンが振り向いて尋ねた。
このあたりの別荘、山小屋、キャンプ場のロッジで、アオイかミツキが発見できた場所は、あった?
現在地から1キロ圏内では、発見できませんでした。

冬に向かう時期です。ほとんどの別荘、山小屋、ロッジは、無人です。

シーズンオフのおかげで助かったとも言える。観光客で溢れる夏休み時期だったら、ドローンを使ったシラミ潰し捜索は無理だった。

私たちに運がついているのよ。軍曹、ドローンのバッテリーは、まだ使える?

親機に10キロ分、子機に1キロ分の残量があります。
カレンが無線のマイクを手に取る。
指揮車から全車へ。現在の隊列を維持して、第2ブロックに移動。

カレンは多摩川から5キロ以内の別荘、山小屋、ロッジすべてを洗い出し、10のエリアに区分した。エリアごとに偵察用ドローンを使って、人の気配がする建物を探し出す。その上で、2018シリーズの放電型人間兵器を接近させ、ミツキの所在を確認させる。これがカレンの作戦だった。


多摩川から5キロ以内という想定は、正しいのだろうか?
アオイがミツキを連れて隠れ家に潜伏している場合、隠れ家に食糧備蓄がなければ、買い出しが必要。

商店は多摩川沿いの、この道路上にしかないから、隠れ家は多摩川から、遠くないところにあるはず。

だが、そうである確証は、何もない。仮定の話で、4機の放電型人間兵器、11人の特殊部隊員、6台の車両が動員されている

3ヶ月前にアオイの存在が確認され、直ちに抹殺命令が下りました。周到に作戦を練っていられるケースでは、ありません。少しでも手掛かりがあったら、直ちに動く。スピード勝負です。
第2ブロックに到着しました。
ドローン散開。偵察開始。

偵察用ドローンには、地上10メートル以上を飛行する親機と地上50センチから10メートルまでをカバーする子機の2種類がある。親機1機が子機3機を抱え、対象となる建屋に接近すると子機を放出する。親機は5機あるから、同時に5×3=15の建物を偵察できる。

10分後……
ヒットしました。

窓辺にミツキらしき少女が見える山小屋があります。

今の地点から2キロほど山の中に入ったところです。

他の14機のドローンは?
感触ありません。
少女の姿が見えた山小屋に移動。

山小屋の200メートル手前で車両を停止。ドローンを回収。

2018シリーズ4機が山小屋に接近してアオイの所在を確かめる。

6台のSUVが山中に分け入る砂利敷きの林道に突入していく。林道の左側は、路肩まで林が迫り、右側は1メートルほどの高さの崖で、その下を幅員5メートルほどの川が流れ、その対岸は森になっている。
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登場人物紹介

山科アオイ(17歳) 

両親とドライブ中に交通事故に遭う。両親は即死。生き残ったアオイは、瀕死の状態でICUに運び込まれるが、何者かの手でそこから拉致され、アメリカ国防総省が日本に設置した人体改造研究所で、放電能力を持ち人間兵器に改造される。

謎のテロリスト集団に襲撃されて混乱に陥った人体改造研究所から、傷を負いながらも脱出。幸田と名乗る正体不明の男に助けられる。

幸田の力を借りてCIAの追っ手を振り切りながら、アオイは、自分をCIAに売り渡した謎の組織を突き止めようとする。

幸田(下の名前は不明、年齢40歳前後)

C人体改造研究所の近くで負傷しアオイを助けた謎の男。

英語に堪能、銃器の取り扱いに慣れ、格闘技にも優れている。

無職。アオイをCIAに売り渡した組織の正体を突き止めることに対して、何者かから報酬を得ているようである。

田之上ミツキ(17歳)

東京郊外X市の公園で不良に暴行されかけているところを、アオイに救われる。

その後、アオイと同じフリースクールに通い始め、アオイと親しくなっていく。

実は、アメリカ国防総省ががアオイを倒すために送り込んだ刺客。ターゲットの自律神経系を一瞬にしてマヒさせ、生命維持機能を失わせる力を持っている。

細田真一(9歳)

アオイが通うフリースクールの仲間。小学校で、ひどいイジメにあって、フリースクールに移ってきた。天才的な絵の才能を持っている。

フリースクールの他の子ども達がアオイを恐がったり、煙たがったりする中で、一人だけアオイになついていて、アオイからも可愛がられている。

太一先生(20代後半、独身)

アオイが通うフリースクールのまとめ役であり、教師でもある。

温かい愛情で小学校低学年から高校生までの生徒たちを見守っている。

いざとなれば、肚の座った、芯の強い人間。

アオイに、高卒認定試験を受けて、大学進学することを勧めている。

レノックス・慧子(37歳、独身)

アメリカ国防総省(ペンタゴン)で人間兵器を開発してきた科学者。放電能力を持つ2018シリーズ5基と、ターゲットの自律神経系を破壊する脳波を発する2019シリーズ1基を開発した。

職人気質で、組織との折り合いは悪い。

CIAから、山科アオイの逃亡を助けたのではないかと、疑われている。

田之上ミツキを使って山科アオイを抹殺する密命を帯びて日本で活動しているが、CIAのパトリック・マスムラに監視されている。

日本人の両親のもとで17歳まで日本で過ごした。母親がアメリカ人と再婚したためレノックス姓となったが、日本風にレノックス・慧子と呼ばれることを好む。

パトリック・マスムラ(55歳、日系四世のアメリカ人)

CIAのベテラン工作員。アジア諸言語に堪能なため、過去20年間、アジアでの工作活動に従事してきた。眠りが浅いと、自分が殺害してきた多くの人間が夢に現れるので、睡眠薬が手放せない。

田之上カスミ(霊魂)

田之上ミツキの妹。

ミツキと同時に人間兵器に改造される途中で、死亡する。

しかし、その魂がミツキに受け継がれ、ミツキと二人きりの時に、話しかけてくる。

ミツキが忘れてしまった出来事、ミツキが気づいていないミツキの心の葛藤に気づいている。

ミツキを深く愛している一方で、クールでニヒルな一面を備えている。

川野メグミ(年齢不詳)

フリースクールの高学年生徒に英語と数学を教えているボランティアの大学院生。

実は、アオイとミツキを監視するために送り込まれたCIA工作員。

カレン・ブラックマン(35歳、独身、離婚歴あり)

アメリカ国防総省の科学者。

山科アカネ逃亡事件の責任を問われて失脚したレノックス慧子に代わって、人間兵器開発チームのリーダーになる。

バランスの取れた組織人で、感情に流されることはない。人間として許せないと感じることでも、組織の決定には従う。

レノックス・慧子を尊敬しているが、目の上のタンコブとも感じている。

エル・リケルメ(おそらく偽名。年齢、国籍不明)

国際的な武器商人。

暗殺用人間兵器を、ブラックマーケットで売って、巨万の富を得ようとしている。

しかし、実態は、金の亡者というより、ニヒリストの変種。


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