42.特殊部隊待ち伏せ事件、報道される

文字数 1,364文字

カレンは、ホテルのシングル・ルームのような部屋に移された。

ホテルのような……と言っても、ドアを内側から開けることはできないのだが。

他にすることもなくテレビのスイッチを入れたカレンの目に、衝撃的な映像が飛び込んできた。

ここは、激しい銃撃戦があったとみられる現場から100メートル離れた青梅街道です。

現場周辺は、規制線が張られ、立ち入ることはできません。

ただ、先ほど、ブルーシートで包んだ大きな積み荷を載せたトレーラーが3台、続けて現場方面から走ってきました。もしかしたら、車の残骸などを運び出していたのかもしれません。

相川アナウンサー、そちらでは、警察からの情報は得られていますか?
いいえ、全く、得られていません。

こうして私たちが取材している間にも、次々と警察車両とみられる車が規制線の中に入っていくのですが、規制線の中から出てくる警察官はいません。

わかりました。では、状況に変化があったら、伝えてください。


ここで、現場を通りかかった一般市民の方が撮影してインターネットで公開した映像を改めてご紹介します。

画面がニュースショーのスタジオから、画面の縦横比が異なり、画質の荒い映像に切り換わる。

天井を下に転倒してぶすぶすと黒煙を上げている2台の車両と、その周辺に倒れている人影が映る。

カメラがじりじりと人影に寄っていき、頭から血を流しているアラブ系の顔をした男性を映す。アブドゥラ軍曹だ。

カメラが移動して、戦闘服姿で倒れている二人の人間を捉える。二人とも戦闘服が黒ずんでいるのは、出血の痕と思われる。

まさか、こんな……
突然、ドアが開き、エル・リケルメが入ってくる。
SNSが普及したおかげで、警察が社会から隠しておきたい事件が暴露される機会が増えた。
ネットに投稿された画像は、本物のように見える。

放電型人間兵器の一体が映っていた。

もちろん、本物だ。私の部下が撮影して投稿したのだから。
こんな風に宣伝して警察を動かしてしまって、いったい、どうするつもり?
警察の目は、私たちより先に、アメリカさんに向く。アメリカの特殊部隊しか使わない銃器が大量に遺棄されているからな。

これで、国防総省もCIAも、日本の公安当局の目を恐れて、当分は動けなくなる。

日本は、アメリカの同盟国だわ。日本の警察が、アメリカの活動を妨害するはずがない。
同盟国……? 

実態は、アメリカの植民地だ。そう思っている日本人が多いようだ。警察上層部にも、そういう人間がいるらしい。

まさか!

アメリカの核の傘なしでは自国を守れない日本人が反米感情を抱くなど、信じられない。

君たちは、日本は同盟国だと言う。しかし、その同盟国に人間兵器の存在を明かしていない。しかも、日本人の少女を2人も拉致して人間兵器に改造し、彼女たちが脱走したら、日本政府に秘密で日本国内で捕獲作戦を遂行した。


その事を知ったら、これ以上は黙っていられないと思う警察官僚が現れても不思議はない。

まさか……あなたは、日本の警察上層部とコネを持っているの?

私は、世界中に友人を持っている。それも有力な友人をね。

(心の中で)特殊部隊員とスナイパー達が使い慣れた火器を使いたいがった時に、それを許してしまった私がいけなかった。だが、あの時、自分たちが死体と武器を現場に残すようなことになるなどとは、思いもしなかったのだ……
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登場人物紹介

山科アオイ(17歳) 

両親とドライブ中に交通事故に遭う。両親は即死。生き残ったアオイは、瀕死の状態でICUに運び込まれるが、何者かの手でそこから拉致され、アメリカ国防総省が日本に設置した人体改造研究所で、放電能力を持ち人間兵器に改造される。

謎のテロリスト集団に襲撃されて混乱に陥った人体改造研究所から、傷を負いながらも脱出。幸田と名乗る正体不明の男に助けられる。

幸田の力を借りてCIAの追っ手を振り切りながら、アオイは、自分をCIAに売り渡した謎の組織を突き止めようとする。

幸田(下の名前は不明、年齢40歳前後)

C人体改造研究所の近くで負傷しアオイを助けた謎の男。

英語に堪能、銃器の取り扱いに慣れ、格闘技にも優れている。

無職。アオイをCIAに売り渡した組織の正体を突き止めることに対して、何者かから報酬を得ているようである。

田之上ミツキ(17歳)

東京郊外X市の公園で不良に暴行されかけているところを、アオイに救われる。

その後、アオイと同じフリースクールに通い始め、アオイと親しくなっていく。

実は、アメリカ国防総省ががアオイを倒すために送り込んだ刺客。ターゲットの自律神経系を一瞬にしてマヒさせ、生命維持機能を失わせる力を持っている。

細田真一(9歳)

アオイが通うフリースクールの仲間。小学校で、ひどいイジメにあって、フリースクールに移ってきた。天才的な絵の才能を持っている。

フリースクールの他の子ども達がアオイを恐がったり、煙たがったりする中で、一人だけアオイになついていて、アオイからも可愛がられている。

太一先生(20代後半、独身)

アオイが通うフリースクールのまとめ役であり、教師でもある。

温かい愛情で小学校低学年から高校生までの生徒たちを見守っている。

いざとなれば、肚の座った、芯の強い人間。

アオイに、高卒認定試験を受けて、大学進学することを勧めている。

レノックス・慧子(37歳、独身)

アメリカ国防総省(ペンタゴン)で人間兵器を開発してきた科学者。放電能力を持つ2018シリーズ5基と、ターゲットの自律神経系を破壊する脳波を発する2019シリーズ1基を開発した。

職人気質で、組織との折り合いは悪い。

CIAから、山科アオイの逃亡を助けたのではないかと、疑われている。

田之上ミツキを使って山科アオイを抹殺する密命を帯びて日本で活動しているが、CIAのパトリック・マスムラに監視されている。

日本人の両親のもとで17歳まで日本で過ごした。母親がアメリカ人と再婚したためレノックス姓となったが、日本風にレノックス・慧子と呼ばれることを好む。

パトリック・マスムラ(55歳、日系四世のアメリカ人)

CIAのベテラン工作員。アジア諸言語に堪能なため、過去20年間、アジアでの工作活動に従事してきた。眠りが浅いと、自分が殺害してきた多くの人間が夢に現れるので、睡眠薬が手放せない。

田之上カスミ(霊魂)

田之上ミツキの妹。

ミツキと同時に人間兵器に改造される途中で、死亡する。

しかし、その魂がミツキに受け継がれ、ミツキと二人きりの時に、話しかけてくる。

ミツキが忘れてしまった出来事、ミツキが気づいていないミツキの心の葛藤に気づいている。

ミツキを深く愛している一方で、クールでニヒルな一面を備えている。

川野メグミ(年齢不詳)

フリースクールの高学年生徒に英語と数学を教えているボランティアの大学院生。

実は、アオイとミツキを監視するために送り込まれたCIA工作員。

カレン・ブラックマン(35歳、独身、離婚歴あり)

アメリカ国防総省の科学者。

山科アカネ逃亡事件の責任を問われて失脚したレノックス慧子に代わって、人間兵器開発チームのリーダーになる。

バランスの取れた組織人で、感情に流されることはない。人間として許せないと感じることでも、組織の決定には従う。

レノックス・慧子を尊敬しているが、目の上のタンコブとも感じている。

エル・リケルメ(おそらく偽名。年齢、国籍不明)

国際的な武器商人。

暗殺用人間兵器を、ブラックマーケットで売って、巨万の富を得ようとしている。

しかし、実態は、金の亡者というより、ニヒリストの変種。


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