54.CIA・国防総省合同追跡チーム

文字数 1,029文字

マスムラの作戦指揮車は、厚生会総合病院に接近していた。

前方を1号車が先行し、2号車が作戦指揮薬の後に続く。

1号車の日系エージェント・田中から連絡が入る。

エージェント・マスムラ、レノックス博士の行き先は、厚生会総合病院のようです。政治家や各界の名士が使う、東京でも指折りの大病院です。驚きますね。
本当の悪党は、社会の中枢にいるものだ。アメリカでも、そうだろう?
コメントは控えさせてもらいます。
エージェント・タナカ、君はCIAで出世するぞ。私が太鼓判を押す。
(心の中で)CIAで出世しそこなった人に証明してもらっては、逆に不安になってしまう……
2号車のブラウンです。


病院の方向で、銃声がしました。まず3発連続で、つづいて1発の、合計4発です。

マスムラは、隣の席に座っている韓国系アメリカ人のリー工作員に話しかける。
エージェント・リー、超小型の偵察用ドローンを放って偵察するぞ。1号車・2号車は、現地点で停止して待機だ。
東京のど真ん中で、ドローンを飛ばしますか?
ドローンといっても、スズメ蜂サイズだ。周りの人間は恐がりはしても、ドローンとは思わないだろう。

しかし、万一、ドローンが捕獲されたら?
捕獲される危険は極めて小さい。

それより状況不明なまま銃撃戦に巻き込まれるリスクの方が、はるかに大きい。

わかりました。

何機飛ばしますか?

4機だ。病院の正面、右側面、左側面、背後に1機ずつ配置する。
了解です。
作戦指揮車からスズメ蜂にそっくりな超小型偵察用ドローン4機が飛び立つ。リーが巧みな手つきで4機のドローンを操作し、マスムラはドローンが送ってくる映像に目を凝らす。


病院の右側面に向かったドローンが、救急窓口の前で仁王立ちになった少女の背中を映す。マスムラの指示でリーがドローンを少女の前方に回りこませる。

これは、山科アオイだ。銃を手にして、いったい何をしているんだ?

エージェント・リー、ドローンを低空で飛ばして病院の中を映せるか?

やってみます。
ドローンが病院の入り口直前で急降下し、廊下に進入する。
転がって動かない人間が6人。アオイにやられたのだろう。

しかし、なぜ、アオイがここにいる? ミツキを助けに来たのか?

ドローンのマイクがチリチリチリというアラーム音を伝えてきた。火災報知機の音のようだ。
エージェント・リー、ドローンにアラームの出所を探らせたまえ。

1号車・2号車は、救急外来前に乗りつけて出撃に備えて待機だ。

(ドライバーに向かって)我々も、救急外来前に移動だ。

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登場人物紹介

山科アオイ(17歳) 

両親とドライブ中に交通事故に遭う。両親は即死。生き残ったアオイは、瀕死の状態でICUに運び込まれるが、何者かの手でそこから拉致され、アメリカ国防総省が日本に設置した人体改造研究所で、放電能力を持ち人間兵器に改造される。

謎のテロリスト集団に襲撃されて混乱に陥った人体改造研究所から、傷を負いながらも脱出。幸田と名乗る正体不明の男に助けられる。

幸田の力を借りてCIAの追っ手を振り切りながら、アオイは、自分をCIAに売り渡した謎の組織を突き止めようとする。

幸田(下の名前は不明、年齢40歳前後)

C人体改造研究所の近くで負傷しアオイを助けた謎の男。

英語に堪能、銃器の取り扱いに慣れ、格闘技にも優れている。

無職。アオイをCIAに売り渡した組織の正体を突き止めることに対して、何者かから報酬を得ているようである。

田之上ミツキ(17歳)

東京郊外X市の公園で不良に暴行されかけているところを、アオイに救われる。

その後、アオイと同じフリースクールに通い始め、アオイと親しくなっていく。

実は、アメリカ国防総省ががアオイを倒すために送り込んだ刺客。ターゲットの自律神経系を一瞬にしてマヒさせ、生命維持機能を失わせる力を持っている。

細田真一(9歳)

アオイが通うフリースクールの仲間。小学校で、ひどいイジメにあって、フリースクールに移ってきた。天才的な絵の才能を持っている。

フリースクールの他の子ども達がアオイを恐がったり、煙たがったりする中で、一人だけアオイになついていて、アオイからも可愛がられている。

太一先生(20代後半、独身)

アオイが通うフリースクールのまとめ役であり、教師でもある。

温かい愛情で小学校低学年から高校生までの生徒たちを見守っている。

いざとなれば、肚の座った、芯の強い人間。

アオイに、高卒認定試験を受けて、大学進学することを勧めている。

レノックス・慧子(37歳、独身)

アメリカ国防総省(ペンタゴン)で人間兵器を開発してきた科学者。放電能力を持つ2018シリーズ5基と、ターゲットの自律神経系を破壊する脳波を発する2019シリーズ1基を開発した。

職人気質で、組織との折り合いは悪い。

CIAから、山科アオイの逃亡を助けたのではないかと、疑われている。

田之上ミツキを使って山科アオイを抹殺する密命を帯びて日本で活動しているが、CIAのパトリック・マスムラに監視されている。

日本人の両親のもとで17歳まで日本で過ごした。母親がアメリカ人と再婚したためレノックス姓となったが、日本風にレノックス・慧子と呼ばれることを好む。

パトリック・マスムラ(55歳、日系四世のアメリカ人)

CIAのベテラン工作員。アジア諸言語に堪能なため、過去20年間、アジアでの工作活動に従事してきた。眠りが浅いと、自分が殺害してきた多くの人間が夢に現れるので、睡眠薬が手放せない。

田之上カスミ(霊魂)

田之上ミツキの妹。

ミツキと同時に人間兵器に改造される途中で、死亡する。

しかし、その魂がミツキに受け継がれ、ミツキと二人きりの時に、話しかけてくる。

ミツキが忘れてしまった出来事、ミツキが気づいていないミツキの心の葛藤に気づいている。

ミツキを深く愛している一方で、クールでニヒルな一面を備えている。

川野メグミ(年齢不詳)

フリースクールの高学年生徒に英語と数学を教えているボランティアの大学院生。

実は、アオイとミツキを監視するために送り込まれたCIA工作員。

カレン・ブラックマン(35歳、独身、離婚歴あり)

アメリカ国防総省の科学者。

山科アカネ逃亡事件の責任を問われて失脚したレノックス慧子に代わって、人間兵器開発チームのリーダーになる。

バランスの取れた組織人で、感情に流されることはない。人間として許せないと感じることでも、組織の決定には従う。

レノックス・慧子を尊敬しているが、目の上のタンコブとも感じている。

エル・リケルメ(おそらく偽名。年齢、国籍不明)

国際的な武器商人。

暗殺用人間兵器を、ブラックマーケットで売って、巨万の富を得ようとしている。

しかし、実態は、金の亡者というより、ニヒリストの変種。


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