17.アオイ、カスミに身体を乗っ取られたミツキと激突

文字数 1,481文字

ミツキは、アオイが思いげず簡単に戦闘態勢に入った事に驚く。
(心の中で)アオイさん、私達は、友達じゃないですか。本当に、命のやり取りをするつもりですか?
ミツキの頭の中で、カスミが叫ぶ。
お姉ちゃん、シッカリしろ!

アオイは、本気だ。お姉ちゃんも本気でいかなきゃ、殺される!

でも……
お姉ちゃん、身体を貸せ!
カスミがミツキの身体を乗っ取る。

ミツキの表情が引き締まり、身体の震えも止まる。

アオイの意識が飛び、アオイの身体からミツキに向けて稲妻が走る。

ギャッ!
カスミに乗っ取られたミツキの身体が後ろに飛び、壁にぶつかる。ミツキが横倒しに床に落ちる。

部屋のあちこちで、電気の配線からバチバチと火花が飛んでいる。

アオイが意識を取り戻す。
うわっ、なんだ、これ! 何が起こったんだ?


ミツキはどうなった? 

アオイ、ミツキが床に倒れているのに気づく。慌ててミツキに駆け寄り、首筋に指を当てる。

(独り言)大丈夫だ、生きてる。何があったか分かんないけど、ともかく、幸田と打ち合わせたとおりにしよう。

アオイは、今朝幸田から渡されたスマホを取り出し、LINEで用意してあったの10個のスタンプから1つを選んで幸田に送る。ミツキと衝突して自分が勝ったという合図だ。
太一先生が備品庫に飛び込んで来る。
これは、いったい?
ミツキが急に気を失って、倒れて。何がなんだか、わかりません。


(心の中で)本当に、何が何だか分からない! あたしはミツキの腕をつかみ接触放電で気絶させるつもりだっ。どうして、こんなことになったんだ?

ともかく、救急車を呼ばないと。
太一先生が自分のスマホで119番にコールする。
消防署ですか。17歳の少女が、突然気を失って、倒れました……えっ、呼吸は?
太一先生、脈はあります。
脈は、あります。

「意識はどうか?」ですか……

意識は、ありません。
意識はありません。

はい、動かさないようにします。


住所は……「フリースクールあすなろ園」で、わかりませんか?


そうです。ポプラ並木通りから狭い路地を入った奥です。

私が入り口で待ってます。青いカーディガンを着た30代の男性が、私です。

太一先生が青ざめた顔でアオイを見る。
僕は、ミツキ君の病院について行かなきゃならない。

後を、イズミ先生に頼んでくる。

(心の中で)イズミは、もう、とっくに逃げ出してるだろう。
太一先生が備品庫を出て行く。

「イズミ先生、イズミ先生」と声をかけながらスクールの中を探し回る。

しかし、イズミを見つけられなかったと見え、困り切った顔で備品庫に戻ってくる。

参った。

こういう肝心な時に、イズミ先生がいない。

(心の中で)やっぱり、ミツキに命令して、自分は逃げたんだ。


太一先生、ミツキには、私が付き添います。
アオイ君が?

そうは行かない。僕には、スクール長としての責任がある。

スクール長は、おチビちゃん達にも責任があります。太一先生が行ってしまったら、おチビちゃん達の面倒は、誰が見るんですか?
低学年の子たちは心配だが……
私は17歳で、半分大人です。ミツキとも仲良しです。この場合、私がミツキに付き添った方がベターです。


もちろん、太一先生への報告は欠かしません。

わかった。

ミツキ君の付き添いは、アオイ君に任せる。僕は、救急車を迎えに表に出ている。

太一先生が立ち去ると、アオイは、またスマホを取り出して、別のLINEスタンプを幸田に送る。

ミツキを助けに来る救急車に同乗するという意味だ。

(心の中で)幸田は、あたしが救命病棟から国防総省の研究所に運ばれた時のように、ニセ救急車が来るだろうと言ってた。乗り込んで、ニセ救急車かどうか、確かめてやる。
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登場人物紹介

山科アオイ(17歳) 

両親とドライブ中に交通事故に遭う。両親は即死。生き残ったアオイは、瀕死の状態でICUに運び込まれるが、何者かの手でそこから拉致され、アメリカ国防総省が日本に設置した人体改造研究所で、放電能力を持ち人間兵器に改造される。

謎のテロリスト集団に襲撃されて混乱に陥った人体改造研究所から、傷を負いながらも脱出。幸田と名乗る正体不明の男に助けられる。

幸田の力を借りてCIAの追っ手を振り切りながら、アオイは、自分をCIAに売り渡した謎の組織を突き止めようとする。

幸田(下の名前は不明、年齢40歳前後)

C人体改造研究所の近くで負傷しアオイを助けた謎の男。

英語に堪能、銃器の取り扱いに慣れ、格闘技にも優れている。

無職。アオイをCIAに売り渡した組織の正体を突き止めることに対して、何者かから報酬を得ているようである。

田之上ミツキ(17歳)

東京郊外X市の公園で不良に暴行されかけているところを、アオイに救われる。

その後、アオイと同じフリースクールに通い始め、アオイと親しくなっていく。

実は、アメリカ国防総省ががアオイを倒すために送り込んだ刺客。ターゲットの自律神経系を一瞬にしてマヒさせ、生命維持機能を失わせる力を持っている。

細田真一(9歳)

アオイが通うフリースクールの仲間。小学校で、ひどいイジメにあって、フリースクールに移ってきた。天才的な絵の才能を持っている。

フリースクールの他の子ども達がアオイを恐がったり、煙たがったりする中で、一人だけアオイになついていて、アオイからも可愛がられている。

太一先生(20代後半、独身)

アオイが通うフリースクールのまとめ役であり、教師でもある。

温かい愛情で小学校低学年から高校生までの生徒たちを見守っている。

いざとなれば、肚の座った、芯の強い人間。

アオイに、高卒認定試験を受けて、大学進学することを勧めている。

レノックス・慧子(37歳、独身)

アメリカ国防総省(ペンタゴン)で人間兵器を開発してきた科学者。放電能力を持つ2018シリーズ5基と、ターゲットの自律神経系を破壊する脳波を発する2019シリーズ1基を開発した。

職人気質で、組織との折り合いは悪い。

CIAから、山科アオイの逃亡を助けたのではないかと、疑われている。

田之上ミツキを使って山科アオイを抹殺する密命を帯びて日本で活動しているが、CIAのパトリック・マスムラに監視されている。

日本人の両親のもとで17歳まで日本で過ごした。母親がアメリカ人と再婚したためレノックス姓となったが、日本風にレノックス・慧子と呼ばれることを好む。

パトリック・マスムラ(55歳、日系四世のアメリカ人)

CIAのベテラン工作員。アジア諸言語に堪能なため、過去20年間、アジアでの工作活動に従事してきた。眠りが浅いと、自分が殺害してきた多くの人間が夢に現れるので、睡眠薬が手放せない。

田之上カスミ(霊魂)

田之上ミツキの妹。

ミツキと同時に人間兵器に改造される途中で、死亡する。

しかし、その魂がミツキに受け継がれ、ミツキと二人きりの時に、話しかけてくる。

ミツキが忘れてしまった出来事、ミツキが気づいていないミツキの心の葛藤に気づいている。

ミツキを深く愛している一方で、クールでニヒルな一面を備えている。

川野メグミ(年齢不詳)

フリースクールの高学年生徒に英語と数学を教えているボランティアの大学院生。

実は、アオイとミツキを監視するために送り込まれたCIA工作員。

カレン・ブラックマン(35歳、独身、離婚歴あり)

アメリカ国防総省の科学者。

山科アカネ逃亡事件の責任を問われて失脚したレノックス慧子に代わって、人間兵器開発チームのリーダーになる。

バランスの取れた組織人で、感情に流されることはない。人間として許せないと感じることでも、組織の決定には従う。

レノックス・慧子を尊敬しているが、目の上のタンコブとも感じている。

エル・リケルメ(おそらく偽名。年齢、国籍不明)

国際的な武器商人。

暗殺用人間兵器を、ブラックマーケットで売って、巨万の富を得ようとしている。

しかし、実態は、金の亡者というより、ニヒリストの変種。


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