5.幸田、一瞬ミツキを疑う

文字数 1,053文字

帰ったぞ。
早いじゃないか?
遅くなると誰かさんがウルサイから・・・じゃなくて、その誰かさんに話したい、驚きの出来事があった。

あたしは、ビックリして腰を抜かすところだった。

鈍感力で生きている君が腰を抜かしそうになるとは、よほどの事だな。

何があった?

鈍感力は、余計だ。あたしは、デリケートで傷つきやすい17歳の乙女だ。

ビックリの中身だけど、きのう助けた女の子が、あたしのフリースクールに入ってきた。田之上ミツキ と名乗って、あたしと同じ17歳だと言ってる。

話したのか?
あたしは、話したくなかった。だけど、太一先生が同い年だから面倒見てやってくれ、なんて言うから、仕方ないじゃん。適当に相手したよ。
では、向こうがゆうべの事を覚えてないことを、確かめたか?

確かめる? どぉやって?

「ゆうべ、あたしと会ってないよね?」って訊くのか? そんなオマヌケな事、出来るわけない。

こっちからは何も尋ねない、向こうも何も言わなかった。


ただ、ビンタをかましてくれた。可愛い顔して、すっごい力だったから驚いた。

叩かれた? なんでだ?


その理由は、話したくない。

田之上ミツキは、CIAの刺客かもしれない。ゆうべは、君の前で襲われている芝居をして君の「力」を確かめたと考えられる。男たちはグルだ。CIAの工作員だろう。


……なわけ、あるもんか。刺客だったら、なぜ、あたしにビンタ張ったりするんだ?


うん?


ビンタ張ってる間に殺せばいい。あたしは、簡単に叩かれるくらい無防備だったんだぞ。

なるほど、それもそうだな。では、ミツキが入校してきたのは、単なる偶然という事か……
そうだ、偶然だよ。普通に考えてあり得ない偶然だったから、あたしは驚いたんだ。
アオイ、言葉の使い方が間違っているぞ。普通に考えて予想出来る事なら「偶然」とは言わない。考えても予見できないから「偶然」というのだ
出た! 理屈屋!
理屈ではない。国語の常識だ。

まぁいい。それより、なぜ叩かれたかが、気になる。

それは、絶対に言わない。
叩かれた話を私に聞かせておいて、私が叩かれた理由を尋ねても教えてくれないのか?
あたしは、幸田が一緒に驚いてくれたんで、気が済んだ。これ以上、話す必要はない。
それは、自分勝手すぎないか?
幸田、いい事を教えてやろう。人間ってのは、自分勝手な生き物なんだよ。
17歳にして、42歳の大人をコケにして居直るのか? 末恐ろしい娘だ。
勝手に言ってろ。あたしは疲れた。これから昼寝する。
アオイは、呆気に取られている幸田をダイニングキッチンに残して自分の部屋に消えていった。
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登場人物紹介

山科アオイ(17歳) 

両親とドライブ中に交通事故に遭う。両親は即死。生き残ったアオイは、瀕死の状態でICUに運び込まれるが、何者かの手でそこから拉致され、アメリカ国防総省が日本に設置した人体改造研究所で、放電能力を持ち人間兵器に改造される。

謎のテロリスト集団に襲撃されて混乱に陥った人体改造研究所から、傷を負いながらも脱出。幸田と名乗る正体不明の男に助けられる。

幸田の力を借りてCIAの追っ手を振り切りながら、アオイは、自分をCIAに売り渡した謎の組織を突き止めようとする。

幸田(下の名前は不明、年齢40歳前後)

C人体改造研究所の近くで負傷しアオイを助けた謎の男。

英語に堪能、銃器の取り扱いに慣れ、格闘技にも優れている。

無職。アオイをCIAに売り渡した組織の正体を突き止めることに対して、何者かから報酬を得ているようである。

田之上ミツキ(17歳)

東京郊外X市の公園で不良に暴行されかけているところを、アオイに救われる。

その後、アオイと同じフリースクールに通い始め、アオイと親しくなっていく。

実は、アメリカ国防総省ががアオイを倒すために送り込んだ刺客。ターゲットの自律神経系を一瞬にしてマヒさせ、生命維持機能を失わせる力を持っている。

細田真一(9歳)

アオイが通うフリースクールの仲間。小学校で、ひどいイジメにあって、フリースクールに移ってきた。天才的な絵の才能を持っている。

フリースクールの他の子ども達がアオイを恐がったり、煙たがったりする中で、一人だけアオイになついていて、アオイからも可愛がられている。

太一先生(20代後半、独身)

アオイが通うフリースクールのまとめ役であり、教師でもある。

温かい愛情で小学校低学年から高校生までの生徒たちを見守っている。

いざとなれば、肚の座った、芯の強い人間。

アオイに、高卒認定試験を受けて、大学進学することを勧めている。

レノックス・慧子(37歳、独身)

アメリカ国防総省(ペンタゴン)で人間兵器を開発してきた科学者。放電能力を持つ2018シリーズ5基と、ターゲットの自律神経系を破壊する脳波を発する2019シリーズ1基を開発した。

職人気質で、組織との折り合いは悪い。

CIAから、山科アオイの逃亡を助けたのではないかと、疑われている。

田之上ミツキを使って山科アオイを抹殺する密命を帯びて日本で活動しているが、CIAのパトリック・マスムラに監視されている。

日本人の両親のもとで17歳まで日本で過ごした。母親がアメリカ人と再婚したためレノックス姓となったが、日本風にレノックス・慧子と呼ばれることを好む。

パトリック・マスムラ(55歳、日系四世のアメリカ人)

CIAのベテラン工作員。アジア諸言語に堪能なため、過去20年間、アジアでの工作活動に従事してきた。眠りが浅いと、自分が殺害してきた多くの人間が夢に現れるので、睡眠薬が手放せない。

田之上カスミ(霊魂)

田之上ミツキの妹。

ミツキと同時に人間兵器に改造される途中で、死亡する。

しかし、その魂がミツキに受け継がれ、ミツキと二人きりの時に、話しかけてくる。

ミツキが忘れてしまった出来事、ミツキが気づいていないミツキの心の葛藤に気づいている。

ミツキを深く愛している一方で、クールでニヒルな一面を備えている。

川野メグミ(年齢不詳)

フリースクールの高学年生徒に英語と数学を教えているボランティアの大学院生。

実は、アオイとミツキを監視するために送り込まれたCIA工作員。

カレン・ブラックマン(35歳、独身、離婚歴あり)

アメリカ国防総省の科学者。

山科アカネ逃亡事件の責任を問われて失脚したレノックス慧子に代わって、人間兵器開発チームのリーダーになる。

バランスの取れた組織人で、感情に流されることはない。人間として許せないと感じることでも、組織の決定には従う。

レノックス・慧子を尊敬しているが、目の上のタンコブとも感じている。

エル・リケルメ(おそらく偽名。年齢、国籍不明)

国際的な武器商人。

暗殺用人間兵器を、ブラックマーケットで売って、巨万の富を得ようとしている。

しかし、実態は、金の亡者というより、ニヒリストの変種。


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