第1~8章のあらすじ①/逃げる者たち

文字数 2,877文字

『アメリカ国防総省/人間兵器番号20185 山科アオイ』は、アメリカ国防総省の手でテロリスト暗殺用の人間兵器に改造された17歳の少女2人が自由を求めて、国防総省とCIAの追っ手から逃がれる物語。

第8章まで進んでおり、ここからクライマックスの突入しますので、登場人物が自らの口でここまでの経緯を語ります。個々の人物は自分の立ち位置でしか事態を見られないので、人物の間で現状認識に食い違いが生じています。


あたしは、山科アオイ。17歳。放電型人間兵器。

 交通事故で瀕死の重傷を負ったあたしは、アメリカ国防総省が日本に設置した秘密研究所で放電型人間兵器に改造された。国防総省の放電型人間兵器2018シリーズの5号機だから、20185という兵器番号で登録されてる。

 放電型人間兵器は、ターゲットから20メートルの距離まで近づいて放電でターゲットを感電死させる。アメリカ政府が殺害に関与した証拠が残らないから、国防総省からCIAにレンタルされて欧米に潜入したテロリスト狩りの切り札として使われてる。

 ところが、あたしは実戦演習で標的を1人に定められなかった。ターゲットの周囲5メートル以内の人間を皆殺しにしちまうんだ。そのせいで実戦に使われないまま11歳から15歳まで秘密研究所に閉じ込められてた。

 15歳の時、秘密研究所が謎の一味に襲撃された。どさくさ紛れにあたしは研究所を脱走。ケガをしたあたしは、研究所の外で幸田と名乗る40代の男性に助けられ、そのまま幸田に守られて2年間、国防総省とCIAから身を隠してた。

 でも、3ヶ月前にチンピラ相手を感電させたところを映した監視カメラ映像を国防総省に発見されちまった。あたしに、追っ手がかかった。

 最初の追っ手は、なんと、あたしと同い年の女の子で、あたしが通うフリースクールに現われた。それが田之上ミツキ。ミツキは妹のカスミと一緒に人間兵器への改造手術を受けたけど、途中でカスミが死んでしまい、霊魂になってミツキに取り憑いてる。

 ミツキとあたしは仲良しになって、ミツキはあたしを攻撃できなくなった。それでカスミがミツキの身体を乗っ取って2回攻撃してきたけど、撃退してやった。その時気づいたんだけど、あたしは、いつの間にかターゲットを選んで放電できるようになってるみたいだ。

 結局、今は、あたしとミツキ(カスミ)、そして幸田の3+1人で国防総省から逃げてる。

 ミツキがあたしと合流したので、国防総省は、あたしと同じ放電型人間兵器も含む10名以上の追跡部隊を放ったみたいだ。

 ところが、ネットへの投稿映像とTVニュースを見ると、この部隊はなぞの武装集団の待ち伏せに遭って壊滅したらしい。

 あたしは、追跡部隊を待ち伏せしたのは国際的な武器商人だろうと思ってる。武器商人は、あたしを追ってきた4人の放電型人間兵器と彼らに同行していたはずの人間兵器開発者レノックス慧子をさらって、人間兵器をレンタルしたり製造販売したりする目論見だと思う。

私は、田之上ミツキ。17歳。脳破壊型人間兵器。

 私は、アメリカで交通事故で死にかけていたところを、国防総省の手で脳破壊型人間兵器に改造されました。ターゲットから20メートル以内に接近して私の脳を興奮させると、ターゲットの脳が私の脳の10倍の強さで共振して自律神経が破壊されて亡くなってしまいます。今のところ、脳破壊型人間兵器は私だけです。

 放電で感電死させるより自然死に近い形の暗殺ができるので、国防総省は私に大いに期待したらしいのですが、私はどうしても人を殺すことができず、テロリスト狩りには使われていません。今回、アオイさんの暗殺者として日本に送り込まれたのが、初めての実戦でした。私に妹カスミの霊魂が取り憑いていることを、国防総省は知りません。

 妹カスミの霊魂と私は、他の人に知られないように頭の中で会話できます。カスミは私の声帯を使って声を出すこともできるので、アオイさん、幸田さんとも、よく話をしています。

 カスミは、はじめは私がアオイさんと一緒に逃げることに反対していました。アオイさんを殺して国防総省に戻らないと私の命が危ないと心配していたのです。

 でも、アオイさんに2回撃退され、アオイさん、幸田さんと行動をともにするうちに、カスミも打ち解けてきて、今ではアオイさんを攻撃する気はないと思います。

 私は、幸田さんに用意してもらった隠れ家の近くで、子どもを襲いかけたイノシシを脳破壊で倒しました。その映像がネットに投稿されて国防総省に見つかってしまい、追跡部隊が送り込まれたようですが、私達は一足先に隠れ家を変えたので、出会っていません。

 どうやら追跡部隊は国際的な武器商人に待ち伏せされて壊滅したらしく、私は、部隊に同行していたと思われる放電型人間兵器とその開発者レノックス・慧子博士が武器商人にさらわれたのではないかと、心配しています。

私は、幸田幸一郎。42歳。表向きの職業は、翻訳。

 私は、この2年間、アオイをC国防総省とCIAから守ってきた。それが、私の本当の仕事だ。なぜそれを仕事にすることになったのかは、ここでは話せない。世間向けには、アオイの母方の弟で、両親を失ったアオイを引き取ったことにしてある。

 私はミツキが現れた時に国防総省の殺し屋ではないかと疑ったが、アオイがミツキと親しくなったことを知り、ミツキが殺し屋ではないことを祈るようになった。

 しかし、驚いたことに、アオイの亡くなった妹カスミの霊魂がミツキの身体を乗っ取ってアオイを攻撃してきた。アオイがミツキ撃退したあと、アオイと意識不明のミツキを連れて山奥の隠れ家に逃げ込んだ。その隠れ家でもカスミがアオイをが攻撃してきたが、これもアオイが撃退した。

 今度は、隠れ家近くでミツキがイノシシを倒すところをスマホで撮影された。また隠れ家を変えたおかげでミツキの映像を発見して出動してきた国防総省の追跡部隊とは行き違いになったようだ。

 私は、国防総省の追跡部隊は武器商人に襲われたと考えている。追跡部隊に人間兵器とその開発者が加わっていて武器商人の手に落ちていたら、人類にとって危機的な状況だと案じている。

私は、M。50歳。スナックのママ。

 私はスナックのママをしながら、アオイさんと幸田君を後方支援しています。

 少しネタバレな話をすると、私は、理不尽な理由で政府・大企業・暴力団などの組織から追われている個人をかくまい、守るグループの一員です。

 アオイさんと幸田君を含む6人の面倒を見てきましたが、アオイさんと幸田君が国防総省とCIAに追われ始めた上に、カスミさんという危険な霊魂が合流したので、これからは、アオイさん・ミツキさん(カスミさん)・幸田君の3+1人のサポートに専念するつもりです。

 私の務めはアオイさん達を守ることだけでは、ありません。万一アオイさん達にマズイことが起こっても、その影響を私のところで食い止めて、絶対に私の属するグループに危険が及ばないようにすること。それも私の大切な務めです。


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登場人物紹介

山科アオイ(17歳) 

両親とドライブ中に交通事故に遭う。両親は即死。生き残ったアオイは、瀕死の状態でICUに運び込まれるが、何者かの手でそこから拉致され、アメリカ国防総省が日本に設置した人体改造研究所で、放電能力を持ち人間兵器に改造される。

謎のテロリスト集団に襲撃されて混乱に陥った人体改造研究所から、傷を負いながらも脱出。幸田と名乗る正体不明の男に助けられる。

幸田の力を借りてCIAの追っ手を振り切りながら、アオイは、自分をCIAに売り渡した謎の組織を突き止めようとする。

幸田(下の名前は不明、年齢40歳前後)

C人体改造研究所の近くで負傷しアオイを助けた謎の男。

英語に堪能、銃器の取り扱いに慣れ、格闘技にも優れている。

無職。アオイをCIAに売り渡した組織の正体を突き止めることに対して、何者かから報酬を得ているようである。

田之上ミツキ(17歳)

東京郊外X市の公園で不良に暴行されかけているところを、アオイに救われる。

その後、アオイと同じフリースクールに通い始め、アオイと親しくなっていく。

実は、アメリカ国防総省ががアオイを倒すために送り込んだ刺客。ターゲットの自律神経系を一瞬にしてマヒさせ、生命維持機能を失わせる力を持っている。

細田真一(9歳)

アオイが通うフリースクールの仲間。小学校で、ひどいイジメにあって、フリースクールに移ってきた。天才的な絵の才能を持っている。

フリースクールの他の子ども達がアオイを恐がったり、煙たがったりする中で、一人だけアオイになついていて、アオイからも可愛がられている。

太一先生(20代後半、独身)

アオイが通うフリースクールのまとめ役であり、教師でもある。

温かい愛情で小学校低学年から高校生までの生徒たちを見守っている。

いざとなれば、肚の座った、芯の強い人間。

アオイに、高卒認定試験を受けて、大学進学することを勧めている。

レノックス・慧子(37歳、独身)

アメリカ国防総省(ペンタゴン)で人間兵器を開発してきた科学者。放電能力を持つ2018シリーズ5基と、ターゲットの自律神経系を破壊する脳波を発する2019シリーズ1基を開発した。

職人気質で、組織との折り合いは悪い。

CIAから、山科アオイの逃亡を助けたのではないかと、疑われている。

田之上ミツキを使って山科アオイを抹殺する密命を帯びて日本で活動しているが、CIAのパトリック・マスムラに監視されている。

日本人の両親のもとで17歳まで日本で過ごした。母親がアメリカ人と再婚したためレノックス姓となったが、日本風にレノックス・慧子と呼ばれることを好む。

パトリック・マスムラ(55歳、日系四世のアメリカ人)

CIAのベテラン工作員。アジア諸言語に堪能なため、過去20年間、アジアでの工作活動に従事してきた。眠りが浅いと、自分が殺害してきた多くの人間が夢に現れるので、睡眠薬が手放せない。

田之上カスミ(霊魂)

田之上ミツキの妹。

ミツキと同時に人間兵器に改造される途中で、死亡する。

しかし、その魂がミツキに受け継がれ、ミツキと二人きりの時に、話しかけてくる。

ミツキが忘れてしまった出来事、ミツキが気づいていないミツキの心の葛藤に気づいている。

ミツキを深く愛している一方で、クールでニヒルな一面を備えている。

川野メグミ(年齢不詳)

フリースクールの高学年生徒に英語と数学を教えているボランティアの大学院生。

実は、アオイとミツキを監視するために送り込まれたCIA工作員。

カレン・ブラックマン(35歳、独身、離婚歴あり)

アメリカ国防総省の科学者。

山科アカネ逃亡事件の責任を問われて失脚したレノックス慧子に代わって、人間兵器開発チームのリーダーになる。

バランスの取れた組織人で、感情に流されることはない。人間として許せないと感じることでも、組織の決定には従う。

レノックス・慧子を尊敬しているが、目の上のタンコブとも感じている。

エル・リケルメ(おそらく偽名。年齢、国籍不明)

国際的な武器商人。

暗殺用人間兵器を、ブラックマーケットで売って、巨万の富を得ようとしている。

しかし、実態は、金の亡者というより、ニヒリストの変種。


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