24.ミツキとカスミ、激しく言い争う

文字数 1,829文字

話がついたところで、腹が減った。ここには食べ物はないのか?
食料の備蓄はない。他にもいろいろ足りないものがある。買い出しに行きたいが、君をミツキと二人だけで残すのが心配だ。
心配するな。あたしの放電で完全にノックアウトしてやった。目が覚めても、あたしを襲ってくるパワーは残ってないさ。
楽観的だな。
楽観的? とんでもない。あたしは、絶望しかけてる。このままあんたと2人でミツキを見張ってたら、ミツキが目覚める前に、あたしが飢えて死ぬ。
今度は、大げさだ。

こうしよう。急いで、今日と明日の食料だけ買ってくる。コンビニ飯になるが、我慢しろ。

大歓迎だ。幸田の料理より、コンビニ飯の方がうまい。
今、私の努力を否定したな。
努力は認める。だけど、成果がないのも事実だ。

スイーツを忘れるなよ。17歳の乙女が2人いるんだからな。

わかった。ミツキには、くれぐれも気をつけるんだぞ。
「もち、もち、もちの重ね餅」だ。
幸田が食料買い出しに出かける。

それから間もなくして、ミツキが意識を取り戻す。

う、うーん。

あっ、アオイさん。大丈夫ですか?

それは、こっちが訊くことだ。あんた、大丈夫か?
頭がまだボヤーっとしていますが、大丈夫みたいです。
それなら良かった。

そうだ、喉が渇いただろう。とりあえず水道の水しかないけど、持ってくる。

アオイが部屋を出ていく。


ミツキの頭の中にカスミが現れ、ミツキに話しかける。

お姉ちゃん、身体を借りるぞ。今度こそ、アオイを始末する。

ダメ、絶対に貸さない!

ミツキ、歯を食いしばり、全身の力を振り絞ってカスミに抵抗する。
お姉ちゃん、邪魔すんな! アオイは、今、油断しきってる。絶好のチャンスだ。
アオイさんは、私たちを殺さなかった。生かして、こうして連れてきてくれた。
力不足で殺せなかっただけだ。

お姉ちゃんを連れてきたのは、拷問してCIAの内情を訊きだすつもりだからだ。

アオイさんは、そんな人じゃない。
そんなこと、どうして言えるんだ?
感じるのよ。アオイさんは「まっとう」な人だって、全身で感じる。
「まっとう」って、なんだ?

「まっとう」っていうのは、他の人に真直ぐ向き合うこと。他人を自分の都合で利用しないこと。

お姉ちゃん、いつからアオイのことをそんな風に思ってたんだ?

フリースクールで会った初日から……

いいえ、公園で助けてもらった時から……

どの口が言ってる!

だったら、なんで、フリースクールであたしに身体を貸した?

あたしがアオイを殺す気なのを知ってて、お姉ちゃんはあたしと入れ替わったんだぞ!

それは……あの時は、カスミの勢いに負けて……
興奮するカスミ。ミツキの口を借りて、カスミの声が飛び出す。

はぁ!

あたしのせいにしないでくれる!

お姉ちゃんは、アオイのことを信じてなんか、いなかった。アオイに殺されると、本気で恐れていた。でも、自分で殺す自信がなかったから、あたしに身体を貸した。お姉ちゃんが、アオイを殺したかったんだよ。


カスミのせいにするつもりは……
お姉ちゃんは、これからどうするつもり?

アオイと一緒にいたら、国防総省から裏切り者と見られるよ。お姉ちゃんを殺しに、別の人間兵器が送られてくる。今なら、アオイはお姉ちゃんに油断しきってる。アオイを殺して国防総省に帰る方が、よほど簡単で安全だ。

水の入ったグラスをトレイに載せてやってきたアオイ。

ドアの中からカスミの声が聞こえてくる。足を止めるアオイ。

イライラするミツキ。ついに、声が出る。
カスミ、いい加減にして!

私は、疲れているの! お腹ペコペコなの。

あなたと言い争っている元気なんか、ない。

室内の言い合いにじっと耳を澄ますアオイ。
お姉ちゃん、前にも言ったけど、あたしは、お姉ちゃんと心中する気はないからね。
ともかく、絶対にアオイさんに手を出さないで!
アオイ、室内の言い合いが止まった瞬間を見計らって、ドアをノックする。
お水持ってきた。
あ、はい、どうも。
ミツキは、まだ、動揺している。
腹減ったな。幸田が、今、買い出しに行ってる。帰りが待ち遠しいよ。
幸田さん?
そっか、ミツキは、まだ幸田に会ってなかったな。幸田はあたしの相棒だ。信頼できる奴だ。
その時、クルマが近づく音が聞こえた。

アオイは、寝室の窓のカーテンをすこしめくって、外をうかがう。

やがて、クルマが山小屋の前に停まる。中からコンビニの袋を3つかけた幸田が出てくる。

幸田が帰ってきた。思ったより早かったな。ミツキ、これで飢え死にしないですむぞ。
アオイがミツキに微笑みかけた。
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

山科アオイ(17歳) 

両親とドライブ中に交通事故に遭う。両親は即死。生き残ったアオイは、瀕死の状態でICUに運び込まれるが、何者かの手でそこから拉致され、アメリカ国防総省が日本に設置した人体改造研究所で、放電能力を持ち人間兵器に改造される。

謎のテロリスト集団に襲撃されて混乱に陥った人体改造研究所から、傷を負いながらも脱出。幸田と名乗る正体不明の男に助けられる。

幸田の力を借りてCIAの追っ手を振り切りながら、アオイは、自分をCIAに売り渡した謎の組織を突き止めようとする。

幸田(下の名前は不明、年齢40歳前後)

C人体改造研究所の近くで負傷しアオイを助けた謎の男。

英語に堪能、銃器の取り扱いに慣れ、格闘技にも優れている。

無職。アオイをCIAに売り渡した組織の正体を突き止めることに対して、何者かから報酬を得ているようである。

田之上ミツキ(17歳)

東京郊外X市の公園で不良に暴行されかけているところを、アオイに救われる。

その後、アオイと同じフリースクールに通い始め、アオイと親しくなっていく。

実は、アメリカ国防総省ががアオイを倒すために送り込んだ刺客。ターゲットの自律神経系を一瞬にしてマヒさせ、生命維持機能を失わせる力を持っている。

細田真一(9歳)

アオイが通うフリースクールの仲間。小学校で、ひどいイジメにあって、フリースクールに移ってきた。天才的な絵の才能を持っている。

フリースクールの他の子ども達がアオイを恐がったり、煙たがったりする中で、一人だけアオイになついていて、アオイからも可愛がられている。

太一先生(20代後半、独身)

アオイが通うフリースクールのまとめ役であり、教師でもある。

温かい愛情で小学校低学年から高校生までの生徒たちを見守っている。

いざとなれば、肚の座った、芯の強い人間。

アオイに、高卒認定試験を受けて、大学進学することを勧めている。

レノックス・慧子(37歳、独身)

アメリカ国防総省(ペンタゴン)で人間兵器を開発してきた科学者。放電能力を持つ2018シリーズ5基と、ターゲットの自律神経系を破壊する脳波を発する2019シリーズ1基を開発した。

職人気質で、組織との折り合いは悪い。

CIAから、山科アオイの逃亡を助けたのではないかと、疑われている。

田之上ミツキを使って山科アオイを抹殺する密命を帯びて日本で活動しているが、CIAのパトリック・マスムラに監視されている。

日本人の両親のもとで17歳まで日本で過ごした。母親がアメリカ人と再婚したためレノックス姓となったが、日本風にレノックス・慧子と呼ばれることを好む。

パトリック・マスムラ(55歳、日系四世のアメリカ人)

CIAのベテラン工作員。アジア諸言語に堪能なため、過去20年間、アジアでの工作活動に従事してきた。眠りが浅いと、自分が殺害してきた多くの人間が夢に現れるので、睡眠薬が手放せない。

田之上カスミ(霊魂)

田之上ミツキの妹。

ミツキと同時に人間兵器に改造される途中で、死亡する。

しかし、その魂がミツキに受け継がれ、ミツキと二人きりの時に、話しかけてくる。

ミツキが忘れてしまった出来事、ミツキが気づいていないミツキの心の葛藤に気づいている。

ミツキを深く愛している一方で、クールでニヒルな一面を備えている。

川野メグミ(年齢不詳)

フリースクールの高学年生徒に英語と数学を教えているボランティアの大学院生。

実は、アオイとミツキを監視するために送り込まれたCIA工作員。

カレン・ブラックマン(35歳、独身、離婚歴あり)

アメリカ国防総省の科学者。

山科アカネ逃亡事件の責任を問われて失脚したレノックス慧子に代わって、人間兵器開発チームのリーダーになる。

バランスの取れた組織人で、感情に流されることはない。人間として許せないと感じることでも、組織の決定には従う。

レノックス・慧子を尊敬しているが、目の上のタンコブとも感じている。

エル・リケルメ(おそらく偽名。年齢、国籍不明)

国際的な武器商人。

暗殺用人間兵器を、ブラックマーケットで売って、巨万の富を得ようとしている。

しかし、実態は、金の亡者というより、ニヒリストの変種。


ビューワー設定

背景色
  • 生成り
  • 水色