104. ミツキ、カスミ、幸田にどう伝える?

文字数 1,256文字

これで、この場にいるメンバーは合意できた。だが、問題が残っている。
ミツキさん、カスミさん、幸田君にどのように伝えるか……ですね。
ミツキ君とカスミ君を「シェルター」に受け入れる交換条件として、アオイ君とレノックス博士には「シェルター」の用心棒になってもらう―ーと、3人に言えるかどうか?
それはダメ。そんな事を聞いたら、ミツキは負い目を感じてしまう。「シェルター」に入らないと言い出すかもしれない。
カスミさんは、どう反応するかしら?
カスミは、自分も用心棒をすると言いそうだ。だけど、それはミツキの身体を借りないとできないわけだから、結局、ミツキも用心棒に付き合うと言い出して……
それはダメ。ミツキは用心棒稼業には向かない。あの子を巻き込みたくない。
幸田君が一番難しいかもしれない。彼は頼めば快く用心棒を引き受けるはず。だけど、そこにミツキさんを巻き込むことはNOに違いない。結局、消去法的に、彼は、ミツキさんとカスミさんを連れて「シェルター」から出て行く道を選ぶはず。
ここは、アオイ君と博士も、ミツキ君と同じく「シェルター」の庇護のもとで人里離れた雪深い山奥に隠れ住むと、ウソをつくしかないだろう。
えっ、ミツキとカスミは「人里離れた雪深い山奥」に隠れ住むのか?

そんな事、聞いてないぞ。いつ、決まったんだ。

ミツキ君が幸田君に、そうして欲しいと頼んでいるのだ。もう二度と、自分のせいで周りの人間に迷惑がかからないよう、社会から隔絶された場所で暮らしたいと考えているのだ。
えっ、そんな話、あたしは聞いてないぞ。あいつ、水臭い!
水臭いのではなく、気を遣ったのだと思う。
どういう意味だ?
アオイさんが大学進学について幸田君と相談していたことを、ミツキさんは知っていた。だから、アオイさんを山ごもりに巻き込む気になれないのだと思う。
ミツキの阿呆が!余計な気を遣いやがって。国防総省から狙われている限り、あたしだって、いつ、周りの人が人質に取られやしないかと心配で、呑気に大学になんか通ってられない。普通に世間づきあいできないのは、あたしと慧子だって、同じだ。
アオイが怒るのは分かる。一方、ミツキは、いかにも彼女らしい発想をしている。
慧子、ここで、理屈をこねるか? 


考えるな! 感じろ!

はい……(心の中で)今のセリフ、どこかで聞いたような気が。
一同、黙り込んで重苦しい沈黙が続く。
やはり、アオイ君と博士も山ごもりするとウソをつくしかなさそうだな。
ちょっと待て。ウソはダメだ。あたしはウソが苦手だから、顔や態度に出て、まずカスミに気づかれる。すぐに、ミツキもあたしがウソついてることに気づく。
ウソをつかないで、うまく切り抜ける方法があるかしら?
ちょっと待て、せかすな。


いま、頭ん中に考えが浮かんできてる。もう、額の裏側あたりまで来てる。

目をつぶり、うつむいてじっと考えるアオイ。

慧子、M、「長老」の3人がじっとアオイを見つめる。

アオイが目を開き、立ち上がった。



よっしゃ、いい考えが浮かんだ!


ウソをつかずに、うまく説明できるシナリオだ。

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登場人物紹介

山科アオイ(17歳) 

両親とドライブ中に交通事故に遭う。両親は即死。生き残ったアオイは、瀕死の状態でICUに運び込まれるが、何者かの手でそこから拉致され、アメリカ国防総省が日本に設置した人体改造研究所で、放電能力を持ち人間兵器に改造される。

謎のテロリスト集団に襲撃されて混乱に陥った人体改造研究所から、傷を負いながらも脱出。幸田と名乗る正体不明の男に助けられる。

幸田の力を借りてCIAの追っ手を振り切りながら、アオイは、自分をCIAに売り渡した謎の組織を突き止めようとする。

幸田(下の名前は不明、年齢40歳前後)

C人体改造研究所の近くで負傷しアオイを助けた謎の男。

英語に堪能、銃器の取り扱いに慣れ、格闘技にも優れている。

無職。アオイをCIAに売り渡した組織の正体を突き止めることに対して、何者かから報酬を得ているようである。

田之上ミツキ(17歳)

東京郊外X市の公園で不良に暴行されかけているところを、アオイに救われる。

その後、アオイと同じフリースクールに通い始め、アオイと親しくなっていく。

実は、アメリカ国防総省ががアオイを倒すために送り込んだ刺客。ターゲットの自律神経系を一瞬にしてマヒさせ、生命維持機能を失わせる力を持っている。

細田真一(9歳)

アオイが通うフリースクールの仲間。小学校で、ひどいイジメにあって、フリースクールに移ってきた。天才的な絵の才能を持っている。

フリースクールの他の子ども達がアオイを恐がったり、煙たがったりする中で、一人だけアオイになついていて、アオイからも可愛がられている。

太一先生(20代後半、独身)

アオイが通うフリースクールのまとめ役であり、教師でもある。

温かい愛情で小学校低学年から高校生までの生徒たちを見守っている。

いざとなれば、肚の座った、芯の強い人間。

アオイに、高卒認定試験を受けて、大学進学することを勧めている。

レノックス・慧子(37歳、独身)

アメリカ国防総省(ペンタゴン)で人間兵器を開発してきた科学者。放電能力を持つ2018シリーズ5基と、ターゲットの自律神経系を破壊する脳波を発する2019シリーズ1基を開発した。

職人気質で、組織との折り合いは悪い。

CIAから、山科アオイの逃亡を助けたのではないかと、疑われている。

田之上ミツキを使って山科アオイを抹殺する密命を帯びて日本で活動しているが、CIAのパトリック・マスムラに監視されている。

日本人の両親のもとで17歳まで日本で過ごした。母親がアメリカ人と再婚したためレノックス姓となったが、日本風にレノックス・慧子と呼ばれることを好む。

パトリック・マスムラ(55歳、日系四世のアメリカ人)

CIAのベテラン工作員。アジア諸言語に堪能なため、過去20年間、アジアでの工作活動に従事してきた。眠りが浅いと、自分が殺害してきた多くの人間が夢に現れるので、睡眠薬が手放せない。

田之上カスミ(霊魂)

田之上ミツキの妹。

ミツキと同時に人間兵器に改造される途中で、死亡する。

しかし、その魂がミツキに受け継がれ、ミツキと二人きりの時に、話しかけてくる。

ミツキが忘れてしまった出来事、ミツキが気づいていないミツキの心の葛藤に気づいている。

ミツキを深く愛している一方で、クールでニヒルな一面を備えている。

川野メグミ(年齢不詳)

フリースクールの高学年生徒に英語と数学を教えているボランティアの大学院生。

実は、アオイとミツキを監視するために送り込まれたCIA工作員。

カレン・ブラックマン(35歳、独身、離婚歴あり)

アメリカ国防総省の科学者。

山科アカネ逃亡事件の責任を問われて失脚したレノックス慧子に代わって、人間兵器開発チームのリーダーになる。

バランスの取れた組織人で、感情に流されることはない。人間として許せないと感じることでも、組織の決定には従う。

レノックス・慧子を尊敬しているが、目の上のタンコブとも感じている。

エル・リケルメ(おそらく偽名。年齢、国籍不明)

国際的な武器商人。

暗殺用人間兵器を、ブラックマーケットで売って、巨万の富を得ようとしている。

しかし、実態は、金の亡者というより、ニヒリストの変種。


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