60. リケルメ一味は追跡部隊に追わせる

文字数 1,209文字

リケルメ一味を追って人間兵器製造施設に突入しようとするアオイの背中に、慧子が厳しい声を投げる。
アオイ、戻りなさい。
戻れって、リケルメの一味を逃がしていいのか? 
今の爆音は、追跡部隊がこの階に突入してきたのだと思う。リケルメ一味を深追いすると、動きにくい製造施設の中でリケルメ達とと追跡部隊の挟み撃ちに遭う。
クソッ、もう一歩なのに! 本当に追跡部隊が来てるのか? あたしが廊下を見てくる。
アオイがオペレーション・ルームと廊下を隔てる扉に向かって駆け出す。廊下の様子をうかがうつもりだ。
アオイ、出口に近づかないで!


廊下には監視カメラがある。扉を閉めて、この部屋から様子を見る。


扉の開閉スイッチはどこでしょう?
ミツキがコンソールの間を探し始める。
ミツキさん、私に任せて。あった、これだ。
慧子がコンソール上のパネルを操作して、オペレーション・ルームと廊下の間の扉を閉じる。
廊下の映像は、これね。
慧子がパネルを操作すると、コンソール上のディスプレイに廊下の映像が現れた。

追跡部隊が非常階段の出口を爆破して入ってきた。10人いる。軽機関銃を携行。衣服のふくらみ具合からして、防弾ベストを着用、手榴弾も隠し持っていそう。

アオイとミツキが慧子の隣に来てディスプレイをのぞく。
あっ、マスムラさんもいる。
エージェント・マスムラが指揮官なのよ。

慧子、扉をあけ廊下に出て闘おう。


連中は、一列縦隊で迫ってくる。先頭の正面は二人だけだ。あたし達3人が並んで出ていけば、正面戦力ではこっちが有利だ。

えっ、それって危険じゃないですか?
その方が安全なんだよ。ミツキ、廊下の幅を覚えてるだろ?
割と狭かったですね。人と人が肩を触れ合わずに行きかうのがやっとの感じでした。
廊下が狭いから、追跡部隊は2人か3人を正面に立てて、一列縦隊で進んでくる。ミツキと慧子とあたしが横一列に並んで迎え撃つ。あたしが敵の正面3人に放電して、討ちもらしをミツキの脳破壊と慧子の銃撃で始末する。
それを繰り返せば、10人の追跡部隊には、十分勝てるわね。でも、そうするわけにいかない理由がある。
その理由って、なんだ?
私たちが追跡部隊を倒してしまうと、追跡部隊がリケルメを捕らえてブラックマン博士を取り戻すことができなくなる。
リケルメの手元にブラックマン博士がいれば、リケルメが別の場所で人間兵器を作ることが出来てしまいます。
国防総省がブラックマン博士を取り戻したら、また人間兵器を作らせるぞ。あたし達みたいな犠牲者が増える。
リケルメに人間兵器を作らせたら、世界中に売るぞ。あたし達みたいな危ないのがそこら中に広がったら、困る。
カスミ、意識が戻ったのね。大丈夫?
もう大丈夫だ。リケルメとブラックマンを追跡部隊に捕まえさせよう。
わかった。それはいいとする。

だけど、あたし達が、追跡部隊とリケルメ一味の間にいるんだぞ。どうやって追跡部隊を先に行かせるんだ?

それなら、私にアイディアがある。
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登場人物紹介

山科アオイ(17歳) 

両親とドライブ中に交通事故に遭う。両親は即死。生き残ったアオイは、瀕死の状態でICUに運び込まれるが、何者かの手でそこから拉致され、アメリカ国防総省が日本に設置した人体改造研究所で、放電能力を持ち人間兵器に改造される。

謎のテロリスト集団に襲撃されて混乱に陥った人体改造研究所から、傷を負いながらも脱出。幸田と名乗る正体不明の男に助けられる。

幸田の力を借りてCIAの追っ手を振り切りながら、アオイは、自分をCIAに売り渡した謎の組織を突き止めようとする。

幸田(下の名前は不明、年齢40歳前後)

C人体改造研究所の近くで負傷しアオイを助けた謎の男。

英語に堪能、銃器の取り扱いに慣れ、格闘技にも優れている。

無職。アオイをCIAに売り渡した組織の正体を突き止めることに対して、何者かから報酬を得ているようである。

田之上ミツキ(17歳)

東京郊外X市の公園で不良に暴行されかけているところを、アオイに救われる。

その後、アオイと同じフリースクールに通い始め、アオイと親しくなっていく。

実は、アメリカ国防総省ががアオイを倒すために送り込んだ刺客。ターゲットの自律神経系を一瞬にしてマヒさせ、生命維持機能を失わせる力を持っている。

細田真一(9歳)

アオイが通うフリースクールの仲間。小学校で、ひどいイジメにあって、フリースクールに移ってきた。天才的な絵の才能を持っている。

フリースクールの他の子ども達がアオイを恐がったり、煙たがったりする中で、一人だけアオイになついていて、アオイからも可愛がられている。

太一先生(20代後半、独身)

アオイが通うフリースクールのまとめ役であり、教師でもある。

温かい愛情で小学校低学年から高校生までの生徒たちを見守っている。

いざとなれば、肚の座った、芯の強い人間。

アオイに、高卒認定試験を受けて、大学進学することを勧めている。

レノックス・慧子(37歳、独身)

アメリカ国防総省(ペンタゴン)で人間兵器を開発してきた科学者。放電能力を持つ2018シリーズ5基と、ターゲットの自律神経系を破壊する脳波を発する2019シリーズ1基を開発した。

職人気質で、組織との折り合いは悪い。

CIAから、山科アオイの逃亡を助けたのではないかと、疑われている。

田之上ミツキを使って山科アオイを抹殺する密命を帯びて日本で活動しているが、CIAのパトリック・マスムラに監視されている。

日本人の両親のもとで17歳まで日本で過ごした。母親がアメリカ人と再婚したためレノックス姓となったが、日本風にレノックス・慧子と呼ばれることを好む。

パトリック・マスムラ(55歳、日系四世のアメリカ人)

CIAのベテラン工作員。アジア諸言語に堪能なため、過去20年間、アジアでの工作活動に従事してきた。眠りが浅いと、自分が殺害してきた多くの人間が夢に現れるので、睡眠薬が手放せない。

田之上カスミ(霊魂)

田之上ミツキの妹。

ミツキと同時に人間兵器に改造される途中で、死亡する。

しかし、その魂がミツキに受け継がれ、ミツキと二人きりの時に、話しかけてくる。

ミツキが忘れてしまった出来事、ミツキが気づいていないミツキの心の葛藤に気づいている。

ミツキを深く愛している一方で、クールでニヒルな一面を備えている。

川野メグミ(年齢不詳)

フリースクールの高学年生徒に英語と数学を教えているボランティアの大学院生。

実は、アオイとミツキを監視するために送り込まれたCIA工作員。

カレン・ブラックマン(35歳、独身、離婚歴あり)

アメリカ国防総省の科学者。

山科アカネ逃亡事件の責任を問われて失脚したレノックス慧子に代わって、人間兵器開発チームのリーダーになる。

バランスの取れた組織人で、感情に流されることはない。人間として許せないと感じることでも、組織の決定には従う。

レノックス・慧子を尊敬しているが、目の上のタンコブとも感じている。

エル・リケルメ(おそらく偽名。年齢、国籍不明)

国際的な武器商人。

暗殺用人間兵器を、ブラックマーケットで売って、巨万の富を得ようとしている。

しかし、実態は、金の亡者というより、ニヒリストの変種。


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