7.田之上ミツキ という人間兵器
文字数 1,808文字
ミツキは、アオイを平手打ちした事で動揺したまま、フリースクールから歩いて15分ほどの戸建て住宅に帰り着く。
ミツキとアオイを人間兵器に改造した科学者、レノックス慧子が居間から廊下に現れ、ミツキに話しかけてくる。
フリースクール初日は、どうだった? 山科アオイに会った?
会いました。アオイさんが、フリースクールを「傷モノのたまり場」と言ったから、叩いちゃいしました。
はい、ビンタって言うんですか? こうやって、手のひらでほっぺたを。
ミツキ、右の手のひらで自分の右ほほを叩いてみせる。手のひらにアオイを叩いた時の痛みがよみがえる。
そんなことして、アオイから放電されたら、どうするつもりだったの!
博士は、おっしゃました。山科アオイは、周りに人がいる時は巻き添えを恐れて非接触放電しないと。私たちの周りには子どもたちがいました。
ミツキは、アオイと二人きりの場面でアオイを平手打ちしたことは隠す。
私があなたに勘違いさせてしまったようね。2年前までのアオイは、非接触放電するのを恐れていた。しかし、2年間の逃亡生活があの子を変えていても不思議はない。まして、急にあなたから平手打ちされて、反射的に放電してこなかったのは、あなたが幸運だったとしか言いようがない。
すみません。不注意でした。
(心の中で)ウソをつき続けるのは辛いから、アオイさんを叩いたことまでは、話した。でも、あの時ふたりだけだったことは、言わない。そうでなくても、使い物にならないのではないかと疑われている。これ以上、つつかれたくない。
CIA の工作員、パトリック・マスムラが慧子の後ろから顔を見せた。
アオイさんは、自分がひどいことを言ったと認めて、世界中のフリースクールの仲間に、謝ってくれました。私は、あの人は、そんなに悪い人じゃないと思いました。
ミツキ君、勘違いしてはいけない。君は、山科アオイが悪人だから始末するわけではない。仮に山科アオイが天使のように素晴らしい人間だったとしよう。だが、そのアオイがアメリカ合衆国に敵対する国家やテロリストの手に落ちたら、どうなると思う? アオイを模倣した人間兵器が作られ、それがアメリカ人を襲ってくる。それだけは、絶対に避けなければならない。だから、君はアオイを抹殺するのだ。
ミツキは、山科アオイを抹殺するために差し向けられた刺客だった。
NSA(国家安全保障局)の電子的監視網がアオイが若者に非接触放電する監視カメラの映像を捉えていた。国防総省はミツキとレノックス博士に、アオイ抹殺指令を出し、二人はCIAアジア太平洋局のスペシャルエージェント/パトリック・マスムラのサポートを得て作戦行動に入っていた。
アオイさんがアメリカの敵の手に渡るのを防ぐだけなら、生きたまま捕らえてCIAに連れ戻せば済むことです。それを抹殺してしまうのは、「見せしめ」なのではないですか? 「CIAに逆らってみろ。血の果てまで追って殺してやる」――CIAは、他の人間兵器にそれを見せつけたいのです。
ミツキ君、それは誤解だ。相手が人間なら、武器を取り上げ拘束すれば無害化できる。だが、人間兵器は身体そのものが兵器だ。破壊してしまう以外、無害化する方法がないのだ。
ということは、もし、私がアオイさんを殺すのと拒んだら、私も破壊されるということですか?
あなたが脱走さえしなければ、すぐにあなたを破壊したりはしない。しかし、いつまでも暗殺任務を拒み続けると、合衆国への反逆者とみなされて廃棄処分される可能性がゼロではない。
君は、普通の人間ではない。人間兵器だ。兵器が期待した機能を果たさないなら、廃棄処分するしかない。
ミツキとアオイが、また偶発的に衝突するのが心配です。エージェント・マスムラ、フリースクールにCIAの工作員を送り込んでください。ミツキとアオイを観察させ、アオイを殺せるベストタイミングで、ミツキに暗殺実行を指示させましょう。
私は、もう疲れました。部屋に行って、休んでいいですか?
ええ、ゆっくりお休みなさい。そして、明日からは、アオイと穏やかに接して、アオイにあなたのことを信頼させるように。わかったわね。
わかっています。アオイさんに私を信用させてから、鮮やかに裏切ってみせます。
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