34. 隠れ家を移動

文字数 1,779文字

Mのスナックでオムライスを食べ終えたアオイ。
ご馳走様でした。ホント、美味しかったです。

もっと居たいけど、長居したら帰りたくなっちゃいそうなんで、これで、失礼します。

荷物になるけど、これを持って行ってくれる。
Mがパンパンに詰まった中型のバックパックを持ち出した。
あなたとミツキさんの着るもの。

幸田君のも、少し入っている。

うわー、助かります。

着た切り雀で、困ってたんです。国防総省の電子的監視網に見張られてると思うと、監視カメラが怖くて買い物もできなくて……

アオイ、バックパックを背負う。
じゃ、これで、失礼します。

ホントに、色々、ありがとうございました。

バーの通用口を出ようとするアオイを「M」が呼び止めた。
アオイさん。ちょっと待って。幸田君から緊急の連絡だわ。
アオイ、全身に緊張が走る。
幸田君が、隠れ家を移動したいと言っている。
CIAに嗅ぎつけられたんですか?
いいえ、そうではなくて念のためですって。

ミツキさんが、子どもを助けるためにイノシシを倒したところをスマホで撮影していた人がいたんですって。ミツキさんが直接撮られたわけではないけれども、安全サイドを取るそうよ。

イノシシを倒したのは、カスミじゃなくてミツキですか?
ミツキさんだと、幸田君は言っているわ。
ミツキも、やる時は、やるんだ……
これから新しい隠れ家を決めるから、ここで待っていて。あなたは、新しい隠れ家で幸田君たちと合流してください。
わかりました。
2時間後、アオイは、東京郊外のひなびた駅のベンチに腰掛けていた。

上り電車が入線し、バラバラと人が降りて来る。その中に、幸田とミツキの姿があった。幸田は、いつもどおり飄々としているが、ミツキは青ざめた顔をしていた。


ミツキがアオイに駆け寄って来る。

私のせいで、ごめんなさい。
何、言ってんだよ。幸田がビビりなだけだ。
でも、無用心に「力」を使っちゃいけなかった。
お姉ちゃん、なに言ってるんだ。あの男の子はイノシシに殺されそうになってた。お姉ちゃんは人として正しいことをした。
その通りだ。私がミツキ君の立場でも同じことをした。

(心の中で)とは言ったものの、私に、本当に出来るだろうか? できる自分でありたいが……

子どもを守るためだったんだろ。そういう時に、あたし達の「力」を使わなくて、いつ、使うんだ?

それでCIAに見つかるなら、仕方ない。

私も、全く、同意見だ。

禁煙のバス停で喫煙していた若造に放電してCIAに発見されるより、はるかに有意義だ。

受動喫煙の発ガン性は、能動喫煙より高いという説もあるんだぞ。知らないのか?
初耳だ。


ともかく、ミツキ君は、人としてするべき事をした。褒められる事はあっても、絶対に責められる事ではない。


話は、これくらいにして、隠れ家に移動しよう。

駅から15分近く、古びた一戸建てやアパートの間を右に曲がり、左に曲がりしてたどり着いたのは、比較的こざっぱりとした2階建てのアパートだった。

アオイ達の隠れ家は、このアパートの1階の角部屋だった。アオイがMから預かってきた合い鍵で、玄関をあけて、入る。

こりゃ、見事に、何もないな。


「M」さんが、布団替わりに使うようにって、寝袋をバックパックに詰め込んでくれた。寝袋で雑魚寝なんて、キャンプみたいで楽しいじゃん。
山小屋から麓の駅まで歩いて降りてきたので、腹が減っている。
えっ、クルマは、どうしたんだ?
あの辺は、クルマが通れる道は、限られている。万一、追手がかかっていた時に鉢合わせしたくなかった。
それで、クルマを置いて、歩いて山を降りてきたのか? まったく、大変なビビリだな。
確かに、お腹空きましたね。
駅前に寿司屋があったな。景気つけに、寿司でも食べるか?
あっ、お寿司、イイですね。
寿司は、満腹になる前に口の中が、生臭くなって、食べ飽きる。

中華屋もあった。あっちにしよう。

あゝ、そうですね。

山道でエネルギーを一杯使ったから、中華の方が元気回復できそうですね。

お姉ちゃんのウソつき!
ミツキの身体から、突然、カスミの声が飛び出し、アオイと幸田は驚く。
この人、本当は、お寿司が大好きなのよ。それなのに、アオイが中華だって言うと、調子を合わせようとする。イイ子ぶりっ子なんだ。
そうなんだ。
では、寿司にしよう。

今日、人助けをしたのは、ミツキ君だからな。

賛成。寿司だ、寿司! ムラムラ、食欲がわいてきたぞ!
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登場人物紹介

山科アオイ(17歳) 

両親とドライブ中に交通事故に遭う。両親は即死。生き残ったアオイは、瀕死の状態でICUに運び込まれるが、何者かの手でそこから拉致され、アメリカ国防総省が日本に設置した人体改造研究所で、放電能力を持ち人間兵器に改造される。

謎のテロリスト集団に襲撃されて混乱に陥った人体改造研究所から、傷を負いながらも脱出。幸田と名乗る正体不明の男に助けられる。

幸田の力を借りてCIAの追っ手を振り切りながら、アオイは、自分をCIAに売り渡した謎の組織を突き止めようとする。

幸田(下の名前は不明、年齢40歳前後)

C人体改造研究所の近くで負傷しアオイを助けた謎の男。

英語に堪能、銃器の取り扱いに慣れ、格闘技にも優れている。

無職。アオイをCIAに売り渡した組織の正体を突き止めることに対して、何者かから報酬を得ているようである。

田之上ミツキ(17歳)

東京郊外X市の公園で不良に暴行されかけているところを、アオイに救われる。

その後、アオイと同じフリースクールに通い始め、アオイと親しくなっていく。

実は、アメリカ国防総省ががアオイを倒すために送り込んだ刺客。ターゲットの自律神経系を一瞬にしてマヒさせ、生命維持機能を失わせる力を持っている。

細田真一(9歳)

アオイが通うフリースクールの仲間。小学校で、ひどいイジメにあって、フリースクールに移ってきた。天才的な絵の才能を持っている。

フリースクールの他の子ども達がアオイを恐がったり、煙たがったりする中で、一人だけアオイになついていて、アオイからも可愛がられている。

太一先生(20代後半、独身)

アオイが通うフリースクールのまとめ役であり、教師でもある。

温かい愛情で小学校低学年から高校生までの生徒たちを見守っている。

いざとなれば、肚の座った、芯の強い人間。

アオイに、高卒認定試験を受けて、大学進学することを勧めている。

レノックス・慧子(37歳、独身)

アメリカ国防総省(ペンタゴン)で人間兵器を開発してきた科学者。放電能力を持つ2018シリーズ5基と、ターゲットの自律神経系を破壊する脳波を発する2019シリーズ1基を開発した。

職人気質で、組織との折り合いは悪い。

CIAから、山科アオイの逃亡を助けたのではないかと、疑われている。

田之上ミツキを使って山科アオイを抹殺する密命を帯びて日本で活動しているが、CIAのパトリック・マスムラに監視されている。

日本人の両親のもとで17歳まで日本で過ごした。母親がアメリカ人と再婚したためレノックス姓となったが、日本風にレノックス・慧子と呼ばれることを好む。

パトリック・マスムラ(55歳、日系四世のアメリカ人)

CIAのベテラン工作員。アジア諸言語に堪能なため、過去20年間、アジアでの工作活動に従事してきた。眠りが浅いと、自分が殺害してきた多くの人間が夢に現れるので、睡眠薬が手放せない。

田之上カスミ(霊魂)

田之上ミツキの妹。

ミツキと同時に人間兵器に改造される途中で、死亡する。

しかし、その魂がミツキに受け継がれ、ミツキと二人きりの時に、話しかけてくる。

ミツキが忘れてしまった出来事、ミツキが気づいていないミツキの心の葛藤に気づいている。

ミツキを深く愛している一方で、クールでニヒルな一面を備えている。

川野メグミ(年齢不詳)

フリースクールの高学年生徒に英語と数学を教えているボランティアの大学院生。

実は、アオイとミツキを監視するために送り込まれたCIA工作員。

カレン・ブラックマン(35歳、独身、離婚歴あり)

アメリカ国防総省の科学者。

山科アカネ逃亡事件の責任を問われて失脚したレノックス慧子に代わって、人間兵器開発チームのリーダーになる。

バランスの取れた組織人で、感情に流されることはない。人間として許せないと感じることでも、組織の決定には従う。

レノックス・慧子を尊敬しているが、目の上のタンコブとも感じている。

エル・リケルメ(おそらく偽名。年齢、国籍不明)

国際的な武器商人。

暗殺用人間兵器を、ブラックマーケットで売って、巨万の富を得ようとしている。

しかし、実態は、金の亡者というより、ニヒリストの変種。


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