43.特殊部隊待ち伏せ事件、ミツキの推測

文字数 1,969文字

アオイたちが寿司とチョコケーキで一息入れた翌日の朝、10時ころ。

あぁ、食った、食った。久しぶりに美味いもん食って、朝の寝覚めが絶好調だよ。

幸田、おっは~。
スマホに見入っている幸田。
どうした? 今日は不調か?


あたしは、今、絶好調だから、幸田に守ってもらわなくても大丈夫だ。


具合悪いなら、ゆっくり、休め。

休めるもんなら、休みたい。ゆうべ、君たちが盛り上がるのに反比例して、私は沈んだからな。


だが、休めない事情がある。これを見ろ。



幸田がスマホを寄越す。


画面には、カレンが率いる部隊が襲撃された後の映像。ネットにアップされ、テレビのニュースでも使用され、慧子が目にしたのと同じものだ。

なに、これ、映画の予告編か何か?


ずいぶん、リアルっぽいじゃん。

「リアルっぽい」じゃない。リアルなんだ。


ネットを騒がせ、テレビでも報じられているそうだ。それは、MがLINEで送ってくれた画像だ。

Mって、あの新宿の……じゃあ、これは、ホンモノ……
ホンモノと見て、間違いないだろう。


ミツキ君も呼んできたほうがいい。君たち2人、いや、カスミ君も入れて3人に関わることだ。

アオイ、ミツキ、幸田の3人で幸田のスマホを囲む。
私がネットにアクセスしないでも見られるよう、Mがネットから映像をダウンロードして送ってきてくれた。ネットには動画映像が氾濫しているそうだ。テレビでも報じられたが、不思議なことに、今のところ、警察から公式発表がない。そこから想像できることは?
襲撃されたのは、私を追ってきたCIAの人たちだってことですか?
えっ、まさか!


そうなの、幸田?

画像の中に自動小銃が映っている。拡大して見たが、米軍特殊部隊の制式装備品だ。闇の武器マーケットで手に入るものではない。


こんな物を使うなんて、圧勝する自信があったのだろう。

それは、あたしに失礼じゃん。


脅威の放電少女をナメんなと言いたい。

うぬぼれるな!

破壊された車両が3台も映っている。一台に4人乗っていたとしても、12人の武装した人間が追ってきたんだぞ。その中には、アオイと同じ2018型の放電人間兵器もいたかもしれない。

彼らとぶつかっていたら、今ごろ、あの世にいたかもしれない。

ほら、ごらん。あたしが止めたのに、お姉ちゃんがイノシシを殺したりするから。
カスミ、あんた、また出てきたのか。

イノシシは、もう済んだ話だ。

ミツキは、人として正しいことをした。

そうだ、ミツキ君は、何も間違ったことはしていない。

元はと言えば、アオイが不用心に放電してCIAの監視網に引っかかったせいだ。

それがなければ、ミツキ君が日本に送られてくることもなかった。

あたしが、悪いんか?


う~ん……幸田の言いつけを守らなかった。不用心だった。それは、認める。

ミツキにも、悪いことをした。

いや、私こそ悪かった。起こった事を蒸し返しても意味がなかった。それより、問題は、今の状況だ。


CIAの追跡部隊を待ち伏せして殲滅した連中がいる。これは、いったい、何者だ? こいつらの狙いは、なんだ?


幸田さん、いいですか?
もちろん。
もし、CIAの追跡部隊にアオイさんと同じ2018型の人たちが加わっていたとしたら?


その場合、2018型の人たちを拉致することが追跡部隊を襲った者たちの狙いだったと考えられます。

まさか!

だって、もし、2018の仲間が来ていたとしても、それをCIAと国防総省以外の人間が知るわけないじゃない。

私たちを追跡している部隊の動向は、本当なら、CIAと国防総省しか知りえないはずです。


でも、追跡部隊は、こうして襲撃を受けた。CIAか国防総省の中に、この襲撃者たちに内通している人間がいたとしか考えられません。

私も、そう思う。


2018シリーズが動員されていた。そのことを襲撃者たちは、知っていた。

彼らの狙いは、2018シリーズを国防総省から奪い去ることだった。

すると、襲撃者は、アメリカに敵対する勢力?
国際的な武器商人という可能性もある。

その方が、もっと、恐ろしい。人間兵器が世界中に拡散しかねない。

アオイさんと他の2018シリーズ同士がぶつかる作戦だったとすると、レノックス博士が同行していた可能性が高いと思います。
慧子が、……慧子が襲撃されたということか?
アオイの顔から血の気が引くのを幸田は見逃さなかった。
(心の中で)アオイはレノックス博士の身を案じているのではないか? アオイは、私の前ではレノックス博士を悪くしか言わないが、決して憎しみだけとも取れない微妙な感じがあった。もしかしたら、アオイは博士に愛情のようなものを抱いているのではないか? 11歳から15歳までの多感な時期を一緒に過ごした相手だからな。
人間兵器の創造者と、彼女が生んだ人間兵器が、同時に武器商人の手に渡ったとしたら……
世界の破滅ね。
それっきり、誰ひとり、言葉を発しなかった。
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登場人物紹介

山科アオイ(17歳) 

両親とドライブ中に交通事故に遭う。両親は即死。生き残ったアオイは、瀕死の状態でICUに運び込まれるが、何者かの手でそこから拉致され、アメリカ国防総省が日本に設置した人体改造研究所で、放電能力を持ち人間兵器に改造される。

謎のテロリスト集団に襲撃されて混乱に陥った人体改造研究所から、傷を負いながらも脱出。幸田と名乗る正体不明の男に助けられる。

幸田の力を借りてCIAの追っ手を振り切りながら、アオイは、自分をCIAに売り渡した謎の組織を突き止めようとする。

幸田(下の名前は不明、年齢40歳前後)

C人体改造研究所の近くで負傷しアオイを助けた謎の男。

英語に堪能、銃器の取り扱いに慣れ、格闘技にも優れている。

無職。アオイをCIAに売り渡した組織の正体を突き止めることに対して、何者かから報酬を得ているようである。

田之上ミツキ(17歳)

東京郊外X市の公園で不良に暴行されかけているところを、アオイに救われる。

その後、アオイと同じフリースクールに通い始め、アオイと親しくなっていく。

実は、アメリカ国防総省ががアオイを倒すために送り込んだ刺客。ターゲットの自律神経系を一瞬にしてマヒさせ、生命維持機能を失わせる力を持っている。

細田真一(9歳)

アオイが通うフリースクールの仲間。小学校で、ひどいイジメにあって、フリースクールに移ってきた。天才的な絵の才能を持っている。

フリースクールの他の子ども達がアオイを恐がったり、煙たがったりする中で、一人だけアオイになついていて、アオイからも可愛がられている。

太一先生(20代後半、独身)

アオイが通うフリースクールのまとめ役であり、教師でもある。

温かい愛情で小学校低学年から高校生までの生徒たちを見守っている。

いざとなれば、肚の座った、芯の強い人間。

アオイに、高卒認定試験を受けて、大学進学することを勧めている。

レノックス・慧子(37歳、独身)

アメリカ国防総省(ペンタゴン)で人間兵器を開発してきた科学者。放電能力を持つ2018シリーズ5基と、ターゲットの自律神経系を破壊する脳波を発する2019シリーズ1基を開発した。

職人気質で、組織との折り合いは悪い。

CIAから、山科アオイの逃亡を助けたのではないかと、疑われている。

田之上ミツキを使って山科アオイを抹殺する密命を帯びて日本で活動しているが、CIAのパトリック・マスムラに監視されている。

日本人の両親のもとで17歳まで日本で過ごした。母親がアメリカ人と再婚したためレノックス姓となったが、日本風にレノックス・慧子と呼ばれることを好む。

パトリック・マスムラ(55歳、日系四世のアメリカ人)

CIAのベテラン工作員。アジア諸言語に堪能なため、過去20年間、アジアでの工作活動に従事してきた。眠りが浅いと、自分が殺害してきた多くの人間が夢に現れるので、睡眠薬が手放せない。

田之上カスミ(霊魂)

田之上ミツキの妹。

ミツキと同時に人間兵器に改造される途中で、死亡する。

しかし、その魂がミツキに受け継がれ、ミツキと二人きりの時に、話しかけてくる。

ミツキが忘れてしまった出来事、ミツキが気づいていないミツキの心の葛藤に気づいている。

ミツキを深く愛している一方で、クールでニヒルな一面を備えている。

川野メグミ(年齢不詳)

フリースクールの高学年生徒に英語と数学を教えているボランティアの大学院生。

実は、アオイとミツキを監視するために送り込まれたCIA工作員。

カレン・ブラックマン(35歳、独身、離婚歴あり)

アメリカ国防総省の科学者。

山科アカネ逃亡事件の責任を問われて失脚したレノックス慧子に代わって、人間兵器開発チームのリーダーになる。

バランスの取れた組織人で、感情に流されることはない。人間として許せないと感じることでも、組織の決定には従う。

レノックス・慧子を尊敬しているが、目の上のタンコブとも感じている。

エル・リケルメ(おそらく偽名。年齢、国籍不明)

国際的な武器商人。

暗殺用人間兵器を、ブラックマーケットで売って、巨万の富を得ようとしている。

しかし、実態は、金の亡者というより、ニヒリストの変種。


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