48. 偵察報告と作戦決定

文字数 2,039文字

よし、これで一通りの小火器とロボットが揃ったな。ただ、「M」の偵察結果によっては、装備を変える必要がある。
大丈夫だ。備蓄庫にある物は全部チェックしたから、入れ替えは簡単だ。
幸田、あんた、ニセ救急隊員から取り上げた実弾入りの拳銃を持ってるか?
持ってるが、どうした?
人は血を見ると震え上がる。敵を負傷させて怯えさせるために実弾入りの銃もあった方がいい。
(心の中で)えぇっ! アオイさんったら、なんて恐ろしいことを!
そうだな。持っていこう。
(心の中で)えっ、えっ、ええ~っ。
ちょうど、そこに「M」が戻ってきた。
偵察してきた。今から作戦会議をしていると寝るのが遅くなってしまう。明日の朝にする?
う~ん、図太いあたしでも、明日の作戦が決まってないと、寝つきが悪そうだ。
私もです。大枠だけでも、今、決めましょう。
わかりました。では、まず、偵察結果を報告するわね。
アオイ、ミツキ(カスミ)、幸田が身を乗り出す。
病院は地下1階がMRIやCTなどの検査室。1階から3階までが外来診察室。4階から9回までが入院病棟。入院病棟の小児病棟の大部屋を見て回ったけど、伸一君はいませんでした。部屋番号を間違えたふりをして個室を全部開けてみました。そこにも、伸一君はいませんでした。
病院外に監禁しているのでしょうか?
その可能性はある。
だとすると、厄介ですね。
ただ、院内にいると考えても良さそうな気配がありました。
なんだ? あ、言い方を間違えた。なんですか?
地下一階から地下二階に行くエレベーターがあるのだけど、指紋認証でプロテクトされていた。
「M」がスマホを取り出し、小型偵察ロボットが地下2階で撮影した映像を見せた。
臭いですね。地下二階には何か秘密がありそうです。
伸一君を人質にとった連中と、CIAの追跡部隊を壊滅させて2018型の4人とレノックス博士を連れ去った連中は同じと考えていいのですよね。


(注)アオイ、ミツキ(カスミ)、幸田は、2018シリーズの4人が殺害されたことは知らない。また、拉致されたのはブラックマン博士ではなくレノックス慧子だと思っている。

そう考えるのが妥当だと思う。
ってことは、その病院の地下二階で慧子に人間兵器を作らせようとしてるんじゃないの?
だから、地下一階と地下二階を結ぶエレベーターは指紋認証でロックしていると考えられる。
伸一君が地下二階に監禁されている可能性も高いということですね。
あたしが救急外来の受付で時間を稼ぐから、その間に、ミツキ、カスミ、幸田の3人で伸一君を助け出せ。
アオイさん一人で敵に立ち向かうなんて、危険すぎます。
いや、こいつなら大丈夫だ。アオイ、あんたも、たまにはイイことを思いつくんだな。
「たまに」は失礼だ。あたしは名案が湧き出る泉だ。
私も、アオイさんの案に賛成です。アオイさんが救急外来で敵の注意を引き付けている間に、私たちは正面エントランスから入って地下一階に降りる。そこで火災報知機を誤作動させ、地下二階から様子を見に上がってくる人間と入れ違いに地下二階に降りる。
良い作戦だと思います。ただ、「M」は私たちが伸一君を助け出すまで、地下一階で待機していてください。伸一君を確保した後に戦闘状態になったら、伸一君をミツキ君、カスミ君に任せて地下一階に上げます。ミツキ君、カスミ君と一緒に伸一君を守って安全な場所まで逃げてください。
幸田、あたしをバカにするな。あたしは史上最強の戦闘少女だ。あたしも、あんたと地下二階にとどまって敵と闘う。
(心の中で)史上最強? あたしに負けたんじゃなかったっけ?
君が史上最強の戦闘少女だから、伸一君を連れて逃げてくれと頼んでいる。伸一君に万一のことがあったら、この作戦は台無しだ。「M」と一緒に伸一君を守り通してくれ。
そういう事ならわかるが……幸田、あんたは大丈夫か?
私のことは心配いらない。こう見えても、一応この道のプロだ。
アオイ、お前、幸田をしっかり守れよ。幸田に何かあったら、あたしが許さないからな。
そんなん、あんたから言われなくても当たり前じゃん。変なことを言う奴だな。


(心の中で)まさか、カスミと幸田が「できてる」? いやいや、そんな阿呆なことはあり得ない。

これで作戦の大枠は決まったわね。いったん休んで、細部は明日詰めなおしましょう。
せっかくここまで決めたんだ。細かいところまで、決めちゃおうぜ。
アオイ、ミツキ(カスミ)、「M」、幸田は夜の更けるのも忘れて、作戦を練り続けた。
いいえ、一眠りして新鮮な頭で見直した方がいいわ。
…………
ミツキ、幸田が疲れ切った顔をしているのに気づく。
そうですね。私も疲れました。ひと眠りしましょう。
そうだ、睡眠タイムだ!
なんだよ~、スタミナのねぇ連中だなぁ。しょうがない、あたしも寝るか。
アオイ、ミツキ(カスミ)、「M」、幸田の4人+1人は、寝袋にもぐりこんだ。幸田以外の3人+1人にはたちまち眠りが訪れた。幸田は一時間ほどもぞもぞしていたが、幸運にも眠りにつくことができた。
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登場人物紹介

山科アオイ(17歳) 

両親とドライブ中に交通事故に遭う。両親は即死。生き残ったアオイは、瀕死の状態でICUに運び込まれるが、何者かの手でそこから拉致され、アメリカ国防総省が日本に設置した人体改造研究所で、放電能力を持ち人間兵器に改造される。

謎のテロリスト集団に襲撃されて混乱に陥った人体改造研究所から、傷を負いながらも脱出。幸田と名乗る正体不明の男に助けられる。

幸田の力を借りてCIAの追っ手を振り切りながら、アオイは、自分をCIAに売り渡した謎の組織を突き止めようとする。

幸田(下の名前は不明、年齢40歳前後)

C人体改造研究所の近くで負傷しアオイを助けた謎の男。

英語に堪能、銃器の取り扱いに慣れ、格闘技にも優れている。

無職。アオイをCIAに売り渡した組織の正体を突き止めることに対して、何者かから報酬を得ているようである。

田之上ミツキ(17歳)

東京郊外X市の公園で不良に暴行されかけているところを、アオイに救われる。

その後、アオイと同じフリースクールに通い始め、アオイと親しくなっていく。

実は、アメリカ国防総省ががアオイを倒すために送り込んだ刺客。ターゲットの自律神経系を一瞬にしてマヒさせ、生命維持機能を失わせる力を持っている。

細田真一(9歳)

アオイが通うフリースクールの仲間。小学校で、ひどいイジメにあって、フリースクールに移ってきた。天才的な絵の才能を持っている。

フリースクールの他の子ども達がアオイを恐がったり、煙たがったりする中で、一人だけアオイになついていて、アオイからも可愛がられている。

太一先生(20代後半、独身)

アオイが通うフリースクールのまとめ役であり、教師でもある。

温かい愛情で小学校低学年から高校生までの生徒たちを見守っている。

いざとなれば、肚の座った、芯の強い人間。

アオイに、高卒認定試験を受けて、大学進学することを勧めている。

レノックス・慧子(37歳、独身)

アメリカ国防総省(ペンタゴン)で人間兵器を開発してきた科学者。放電能力を持つ2018シリーズ5基と、ターゲットの自律神経系を破壊する脳波を発する2019シリーズ1基を開発した。

職人気質で、組織との折り合いは悪い。

CIAから、山科アオイの逃亡を助けたのではないかと、疑われている。

田之上ミツキを使って山科アオイを抹殺する密命を帯びて日本で活動しているが、CIAのパトリック・マスムラに監視されている。

日本人の両親のもとで17歳まで日本で過ごした。母親がアメリカ人と再婚したためレノックス姓となったが、日本風にレノックス・慧子と呼ばれることを好む。

パトリック・マスムラ(55歳、日系四世のアメリカ人)

CIAのベテラン工作員。アジア諸言語に堪能なため、過去20年間、アジアでの工作活動に従事してきた。眠りが浅いと、自分が殺害してきた多くの人間が夢に現れるので、睡眠薬が手放せない。

田之上カスミ(霊魂)

田之上ミツキの妹。

ミツキと同時に人間兵器に改造される途中で、死亡する。

しかし、その魂がミツキに受け継がれ、ミツキと二人きりの時に、話しかけてくる。

ミツキが忘れてしまった出来事、ミツキが気づいていないミツキの心の葛藤に気づいている。

ミツキを深く愛している一方で、クールでニヒルな一面を備えている。

川野メグミ(年齢不詳)

フリースクールの高学年生徒に英語と数学を教えているボランティアの大学院生。

実は、アオイとミツキを監視するために送り込まれたCIA工作員。

カレン・ブラックマン(35歳、独身、離婚歴あり)

アメリカ国防総省の科学者。

山科アカネ逃亡事件の責任を問われて失脚したレノックス慧子に代わって、人間兵器開発チームのリーダーになる。

バランスの取れた組織人で、感情に流されることはない。人間として許せないと感じることでも、組織の決定には従う。

レノックス・慧子を尊敬しているが、目の上のタンコブとも感じている。

エル・リケルメ(おそらく偽名。年齢、国籍不明)

国際的な武器商人。

暗殺用人間兵器を、ブラックマーケットで売って、巨万の富を得ようとしている。

しかし、実態は、金の亡者というより、ニヒリストの変種。


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