第40話 ボーダーライン

文字数 1,114文字

 妻のカウンセリングについて、精神保健福祉センターに相談に行った。
 妻が激昂しやすく、突然家を出て離婚調停を出したり、直前になって調停を取り下げて帰りたいと言ったり、離婚調停を取り下げたりして、行動が支離滅裂で不安定であることを伝えた。
 この頃は、まだ騙されているなんて思わなかったから、本当に精神的に不安定なんだと信じて、問題解決の方法を真剣に模索していた。
 娘に「ザクザクに切れてしまいね」と言ってハサミを渡したこと。寝かしつけのためにドライブに出た際に、私が娘を抱いて後部座席にシートベルトを着けずに座っているにも関わらず、八十キロ以上の速度で暴走したこと。それに対して、妻が「私はおかしくない。ハサミで手が切れることはしつけだし、事故を起こすかもしれないとわかっていてスピードを出した」と言っていたことを話すと、精神保健福祉センターの担当者は一言。
「その理屈そのものがおかしいですよね」
 妻は病気なのかどうか尋ねた。病気なら治ると心のどこかで信じていた。
「精神病と神経症の中間の可能性があります。もし旦那さんがいなかったら、児童相談所の問題になっていたと思います」
 私立大学附属心理臨床センターか医療機関か、どちらでカウンセリングを受けるか、精神保健福祉センターの専門医と検討して、また連絡をもらうことになった。
 その翌週、担当者から電話で連絡があり、カウンセリングには時間と費用がかかることもあって、私立大学附属心理臨床センターでカウンセリングを受けるように勧められた。
 精神科で薬の服用が必要な場合は、心理臨床センターの判断で適切な医療機関を紹介されることになると説明を受けた。この二か月後、私立大学附属心理臨床センターではなく、病院にしておけばよかったと大いに後悔する羽目になる。
 もともと心理学や精神病理学の知識がなかったから、「精神病と神経症の中間」というキーワードを頼りに、すぐにネット検索を始めた。
 答えはすぐ見つかった。
「境界性人格障害」
 ボーダーライン・パーソナリティ・ディスオーダー、略してボーダーラインとも呼ぶそうだ。
 それから、図書館で境界性人格障害の本を借りまくった。治せるものと期待していた。娘のために家庭を維持することができるはずと信じていた。
 たった二か月で、私の期待は裏切られ、家庭裁判所による一方的な魔女裁判に突入する。
 子の監護権という大事な審判なはずなのに、裁判官の顔を見たのは、たった一回。審判結果は直接言い渡すこともなく、封書で送ってくるという、ずさんなもの。しかも調査官は、大事な調査報告書に嘘を書く始末。それに対する弁護士の反論もなかった。
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