第77話 妻の両親

文字数 526文字

 まだ家庭が崩壊せず、狂気の妻の言動に耐えながら、育児をしていた頃のこと。
 義母が家に来て、私に話したことがある。
「私は弟がいるんやけど、親の遺産相続でもめて、もう実家へは行けなくなったんです。これは、ともちゃんには言わんといて。怒られるから。」
 突然、血のつながらない私に話す理由がまったく理解できない。ただの家庭の恥でしかない。
 妻の精神状態やその両親の実態を知ったあとでは、発言の意図は理解できないが、そうなった原因は推察できる。
 妻の職場の駐車場で大騒ぎになって、大勢の人が集まる中でのこと。
「娘のところへ連れて行ってください」
 懇願する私に、義父はわざわざ野次馬から見える場所へ行き、大声で答えた。
「警察が来てからです!」
 恥を恥とも思わない義父を見て、狂った人間の本性を知った。
「親が死んだんなら、もらうものはもらわんと損や!」
 親の世話をしていた弟夫婦に「遺産を寄こせ」とごねて、実家へ出入り禁止になった友子の両親。弟から縁を切られた友子の母。
 娘の夫である私を、名前ではなく「旦那さん」と呼んでいた義父。表向きの卑屈さと相反する、心の裏側に隠された傲岸不遜な欲望。
 妻を生み育てた家庭環境の闇は、暗く根深い。
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