第3話 妻の性格

文字数 801文字

 交際中も、結婚後も、妻は怒りっぽい性格だった。
 性格というか、人間の本質というものは、よほどのことがない限り変えられるものではないのだと、今あらためて思う。

 結婚前、仕事が終わったあと、妻の住むS市まで会いに行ったことがある。待ち合わせのショッピングセンターまで、会社から車で三十分。そこから、自宅に帰るのに、一時間の距離だった。
 駐車場に停めた車内で三十分ほど話をしたあと、「そろそろ帰る」と話すと、彼女は「なんで」と不機嫌そうな顔をする。晩御飯は自宅で食べるつもりであることを告げると、「なんで、もう帰るの」と怒り始める。
「ごめん。でも、親が食事の準備をして待っているから」と答えても、「なんで帰るの」と凍りついた目でにらむばかりで、一切こちらの言い分は通らない。なんど謝っても許してくれそうもない。
 一時間以上、「なんで帰るの」に対する謝罪を繰り返したあと、怒ったままの彼女に車から降りてもらい、ぐったりとした精神状態のまま、一時間、車を走らせた。
 ささいな一言で、彼女が怒り出し、同じ言葉を繰り返して責めるということは、度々あった。レストランで怒り出し、二時間近く、同じ言葉を繰り返して、叱責を続けたこともある。ふだんは大人しくて、物静かな女性だったが、いったん怒り出すと、冷たい目でにらみながら、同じ言葉を繰り返して責めた。こういう性格なのだと認めれば、これはこれで仕方がないことのように思えて、なんとか我慢できた。

 もっと長い目で見れば、もっと性格の良い人はいくらでもいると思う。それでも、結婚したのは、心のどこかで、これも縁なのだと信じたからだ。
 三十代後半という自分の年齢を思うと、最初で最後の縁という感じもあった。焦っていたという訳ではない。なぜか説明できないが、「縁」だと感じたのだ。
 確かに縁だったと思う。良縁だけが、縁ではない。
 悪縁も、「縁」なのだ。
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