第68話 正直すぎるメイちゃん

文字数 671文字

 冬のことだった。
 裁判が始まった冬なのか、それとも強制執行と戦い続けていた冬なのか、記憶がはっきりしない。
「行儀が悪いから、保育園に来なくていいと言われた」と泣いて嫌がる娘を少しでもお友達がいる場所に馴染ませようと、図書館のクリスマス会に連れて行った。
 けれど、みんなが並ぶ保育園的な雰囲気を嫌がって、結局すぐに泣いて、演劇の途中で娘を連れて退席。
 それで遊びに連れて行ったのが、実家から近い児童館。まだすごく小さかった記憶がある。なので、裁判が始まった二歳の冬だと思う。
 土曜の午後、小学校低学年のお姉ちゃんを追いかけたり、同じ年の同じ名前の女の子と恥ずかしそうに黙って向かい合っていたり。保育園を嫌がる話を児童館の保育士さんに伝えてあり、もう一人のメイちゃんも一人っ子で、恥かしがり屋さんで、本当はみんなと遊びたいけど、なかなか仲間に加われないみたいで、本当はうちのメイちゃんとも一緒に遊びたいらしい。
 週末二回ほど通って、帰りに先生から渡された焼き芋二つ。
 娘は黙ったまま受け取り、私が「ありがとうございます」。
「メイちゃん、ありがとうは?」と言っても、恥ずかしそうに黙ったまま。
 初めての焼き芋を娘は食べず、代わりに私が食べた。
 次に児童館へ行った日のこと。
 玄関へ入り、先生から「こんにちは!」と言われた瞬間、
「あのやきいも、黒くて食べれなかったよ!」
 と元気に挨拶。
「こげてたのが嫌だったみたいで、私が食べました」
 私はとっさにフォロー。
 家に帰って、母と、正直すぎるメイちゃんの話で笑い合った。
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