第138話 神・様・の・言・う・と・お・り

文字数 2,775文字

 引き渡し前、こちらから手順を書類にまとめて提案した。
 少しずつ、娘を母親に慣らす計画だ。ここまでしても、自分を神だと信じる裁判官や神様発言の調査官は、母親の依頼があれば、強制執行しかねない。
 子の福祉を最優先しない人たちは、頭の中に春の花々が咲き乱れている本当に幸せな人たちだと思う。子供が傷つくことなど、何とも思っていないのだ。

 裁判官は、九月の引き渡しを急かせる。
 引き渡したあと、どうやって娘の安全を確認するのか尋ねた。
「引き渡しと同時に、離婚と面会を決めれば、その後は、娘さんに会うことができます」
 裁判官の言葉だ。引き渡しの条件として、面会を確約させた…はずだった。

 宿泊面会までは約束させられず、一度は、裁判所で母と娘を会わせ、そこから近くのデパートや公園に遊びに出かけた。二度目は、当方弁護士の事務所へ、住居侵入弁護士と母親が迎えに来た。

 延ばしに延ばして、最後の審判が九月末になった。私の努力も、ここが限界だった。
 九月十一日が審判で、それと同時に引き渡せという、脳内花畑の家庭裁判所の勝手な都合に必死の抵抗を試み、二十日間だけは頑張って延長できた。
 そこから、私の父母と娘と四人で、最後の思い出作りに奔走した。
 ディズニーランドとディズニーシーは、二泊三日で二回も旅行した。東京スカイツリーでは、妖怪ウォッチのグッズを買った。
 二度通った岐阜のモンキーセンターでも、妖怪ウォッチのイベントでグッズを買いまくった。
 ディズニーランドでは、神様の町で買ったジバニャンの青いTシャツを着ていた娘は、スタッフのお兄さんに、「妖怪ウォッチのTシャツ、かっこいいね」と褒められた。
 アルバムの中のたくさんの写真とともに、私の中の大事な大事な思い出になっている。

 最後の家族旅行の思い出は、いつまで娘の記憶に留まるのだろうか。
 ばあちゃんの孫娘の思い出は、ディズニーランドだった。
「メイちゃんは、いつも『またディズニーランド行こう! ディズニーランドは近いよ。寝てるあいだに、すぐ着くんだから』と言ってたね」
 そう言って、ばあちゃんは笑う。
 娘が寝ているあいだ、車は東名自動車道を走り続けていた。早朝、浦安に到着。娘の着替えは、いつもコンビニに停めた車の中だった。

 雨の中、ディズニーシーでは、嬉しそうに赤いレインコートを着て歩いた。頭には、ミニーのカチューシャ。花火まで待てずに眠ってしまった娘は、私の背中でずっしりと重かった。この背中の重さを感じられるのも、これが最後になる。
 責任の重さを失ったあと、軽くなった私の足はどこへ羽ばたくのだろう。あるいは、ちゃんと立っていられるのだろうか。

 平成二十六年九月三十日、この物語の始まりの日だ。
 裁判官との最後の戦いの日だった。

 引き渡しの期日が決まった。十月九日。
 それが決まった途端、女裁判官が言った。
「それでは、今後は別の裁判官に代わって、離婚と面会の調停が進んで行くことになります。」
 このアホが! また嘘をつきやがった。
「引き渡しと同時に、離婚と面会が決められると、あなたが言ったんですよ!!
 約束を守ってください!!」
 ふてぶてしく言い逃れしようとする。
「私は、そんなこと言っていません。」
 裁判官という奴は、いったいどこまで嘘をつくんだろう。職業病か、労災適用できる何かの精神疾患か。
「言いましたっ!!
 あなたが、自分の口で言ったんです!
 自分が言ったことを守りなさいっ!!
 そこで、一旦退室を求められた。相手方に話すためだった。

 控室で待った。
 もはや伝書鳩でしかない弁護士が呼ばれ、また戻ってきた。
 今日、あの女裁判官の名前で、調停条項がまとめられることになった。
 月一回の面会を確保し、養育費はまた後日ということでまとめてよろしいかと、伝書鳩弁護士が裁判官の言葉を伝えた。
「いいですよ。
 神様の言うとおり、ですよね…」
 グッタリして、力なく答えた。
「それを言われると、つらいんですが…」
 苦笑いをして、裁判官の元へ向かう。いくら頭の悪い伝書鳩でも、「神様の言うとおり」までは伝えないだろう。
 私の激怒の際も、弁護士センセイは無言だった。我が子の将来に使えたはずの百万を、司法のドブに捨ててしまった。

 以上で、オールラスト。
 これが、娘と私に起こったすべてだ。

 こんな役所に、離婚や子供の問題を任せてもいいのか。
 せいぜい少年非行の問題が、彼らの能力の限界だろう。それさえも、まともにこなせているのかどうか分からない。
 いくら結婚相手に嫌気が差しても、突然連れ去って、離婚訴訟以外に仕事のない弁護士の口車に乗って、DVをでっち上げて、問題をこじらせないことをお勧めしたい。
 あとあと、何の得もない。
 監護権と親権を確保したら、養育費もガッポリ取ってやる!は勘違いだ。その場しのぎの弁護士の嘘でしかない。
 相手がちょっと頑張るだけで、裁判官が決めた算定表通りの金額にしかならない。監護権も養育費も、弁護士の能力によるものではなく、出来レースの結果でしかない。
 子の福祉を考慮しない家庭裁判所が、「母親が監護権がほしいと言うから、監護権は母親に!、養育費はお子さんのことを思えば多いに越したことはないけど、面会もできてないのに無理も言えないから、算定表が限度かなぁ…」と何の知恵もなく決まっただけだ。

「裁判所で争ってやる! 嘘をついても裁判所が認めれば法律の正義だ!」なんてクソくだらない親失格の姿勢ではなく、根本に戻って、親として我が子にとっての最善を考えてみてはどうだろう。
 何度も言うけど、裁判所はこの程度の関与をするだけで、我が子の精神状態はもちろん、将来にも一切配慮しない。たくさん給料もらっている国家公務員特別職だから、子供と連れ去り親、もとい親権者だけ特別に最大限の配慮をしてくれるなんて思ったら、大きな間違いだ。
 じっくり、親として子供と向き合い、子の思いに配慮して、我が子が一番幸せになれる方法を考えてみてはいかがでしょうか。
 親が不幸なら、子も不幸なんていう決めつけは、我がまま勝手に子供から片親を奪い、子供を不幸にする親の身勝手でしかない。我が身の幸せより、我が子の幸せを考えてあげてください。
 まずは、聴いてみたら。我が子の思いを。
 じっくり我が子の言葉に耳を傾けてみたら。暴走する我が身の怒りに任せて、連れ去りを決行する前に。
 きちんと子の声を聴くなんてことは、裁判官も調査官もしないし、できないし。彼らに、そこまでの能力はない。期待してはいけない。
 それをできるのは親だけで、それが大切な親の務めだから。
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み