おわりに

文字数 1,617文字

 あれは何だったんだろう。
 結婚から育児、裁判を振り返って、元妻の精神構造が理解できないままです。
 慌ただしい異常な時間が流れたけど、その中心にあった彼女の心は、人の理解が及ばない真っ暗な穴のように感じられます。
 発達障害、人格障害、愛着障害など、病名をつければ、少し理解できた気になるけれど、本人は至って正常と思い込んでいる以上、治る可能性などなく、治る見込みのないものに病名をつけることも無意味で、ある種の極端な性格の歪みを表現した分類名でしかありません。
 結婚当時は、ようやく築いた家庭を守るため必死でした。元妻のことをキレやすい人と理解して我慢していました。
 裁判が始まって、嘘まみれの申立書を読み、家庭に戻りたい云々といった、それまでの不安定な彼女の言動はすべて、私を騙すための演技だったと気づかされました。
 結婚生活を振り返ってみると、ただ娘のために私が耐えていただけで、元妻は人として完全に壊れていたと思います。
 自分の都合のよいように周囲を騙すために嘘が常態化していて、嘘が悪いという意識はなかっただろうし、嘘が常態化していると嘘をついているという意識すらなかったかもしれません。
 精神的に壊れた人には、正常という状態を理解するのが難しいと思います。本人が嘘をついている自覚がないのに、嘘を問い詰めても逆切れするだけだし、本人は責められている理由が分からないかもしれません。おそらく意味不明なことで叱られているような感覚だと推察します。
 精神的におかしいのですが、本人にはその状態が正常で、おかしくないと思っているので、心理カウンセリングも効かないし、治るつもりもない以上、治しようがないのです。本人が生まれ持った本質なので、かわいそうですが救いようがありません。
 以上が、私自身、元妻のことで悩みぬいた末にたどり着いた結論です。
 本人にとっては、あの状態が正常で、快適で、都合の良い状態なのです。人の良い誰かが都合よく隷属している間は優しく穏やかな人の演技もするけれど、自分の意思に背くようなことがあれば、嘘で周囲を味方につけて、責めた相手を追い込んでいきます。

 今も疑問は残ります。
 異常な結婚生活と異常な裁判を経て、我ながら貴重な経験をしたと考える私は、いつしか人生を目的論で考えるようになりました。
 経験は本人だけのものなので説明しづらいですが、正確な理由や目的は不明だけど、確かに「経験が成長を促した」という結果から、「すべての経験は成長のためだった」と感じられるのです。
 成長については内面の変化なので触れませんが、具体的な状況を挙げると、
 例えば…
 彼女がいたからこそ、今この文章を書いている。
 理不尽な家事審判を経験したから、その理不尽さについて書ける。
 調査官や裁判官の発言の異常さをリアルに伝えられる。
 など、当初は目的そのものを知るすべはないのですが、あの異常な経験が今の行動を創り出すのに役立っていると感じられるのです。
 為すすべがなく今に至ったという結果論ではなく、今の成長のために行動や経験があったと感じます。すべての苦難は、諸々の成長のためだったのではないかと。

 目的論から感じる疑問があります。
 彼女は、私の成長変化のために、狂った存在として私の前に現れた。これは、私の目から見て、私の苦しみを都合よく解釈したものです。
 では、彼女本人にとって、あの行動の目的は何なのだろう。親との間で十分な愛情を築けなかった彼女が、老いた親に負担を掛けながら、シングルマザーとして娘を育てていくことで、親子三代ともどもに愛情の築き直しをしているのだろうか。
 自分で文章を綴りながら、疑問を疑問のままに書き出すことで、今ふと自分の疑問に答えることができたような気がします。

                                神代崇司
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