第80話 調査官を叱らなかった後悔

文字数 1,495文字

 言わなかったことの後悔は、今も残る。
 平成二十五年一月十日の家裁での調査でのこと。
 若い男性調査官 から、妻がカウンセリングを中断してしまったことを知らされた瞬間、「なんで…」と、心の中でうめいた。
 前年末、妻から監護権の審判の申立てがあった時、家裁に電話して、書記官に「今、カウンセリングを受けているから、配慮してください」とお願いしていたはずなのに。
 まだ家庭を維持したいという儚い思いがあったからだ。
 今ははっきりと痛いほどに理解している。
 家裁が家庭破壊所である以上、そんな夢は絶対に叶わないことを。

 当日の様子。
 調査の終わり頃、妻がカウンセリングを中断したと若い調査官が告げた。書記官にお願いしたのに、完全に裏切られた形だった。
「なんでですか!」
 あわてて聞き返した怒った表情に、若い調査官も焦ったのだろう。ごまかそうとしてヘラヘラ笑った顔で、何のフォローにもなっていない弁解の一言。
「カウンセリングなんて効果ないから、いいじゃないですか」
 以上「第55話 たった一度の審判」から抜粋。

 今の私なら、その場で調査官を絶対に怒鳴りつける。
「人の家庭を何やと思うてるんやっ!」
 調査官にとって、他人の家庭なんてどうでもいいのだろう。他人の家庭が壊れても、自分の給料や立場に影響はない。その程度の人種だ。
 でも、今は思う。こういうヤカラは、思いっきり怒鳴りつけてやらないといけない。人の世の道徳を、こいつの恥知らずな心に、しっかりと痛いほどに叩き込んでやらなけらばならない。
 一生、忘れられない記憶にしてやらなければならなかった。家裁調査官に、正しい人の道、「道徳」を教えてあげられなかったことを、今も心から悔いている。

 残念ながら、それでも裁判は変わらない。
 この異常で理不尽な家事審判は、調査官を怒鳴りつけて、道徳を心に刻んでやったところで変わるものではない。彼らは、自分の給料と立場を守るために、組織の意向に従っているだけだ。

 今も家事審判を戦っている方々は、家庭裁判所の理不尽さを目の当たりにして、苦しみ続けているだろう。
 なぜ、家裁は中立ではないの?
 なぜ、家裁は公平ではないの?
 なぜ、家裁は公正ではないの?
 なぜ、家裁は一方の嘘だけを認めるの?
 なぜ、私が娘の世話をしていた事実を無視するの?
 なぜ、娘の思いや意思、実際に話した本人の声を無視するの?
 なぜ、家裁は真剣に子の福祉を考えないの?
 なぜ、なぜ、なぜ……
 なぜ、何も嘘を言っていないのに、通らないのか。

 不思議に感じて当然だ。
 正義を踏みにじり、真実から目を背ける家庭裁判所の裁判官と調査官たち。
 彼らは何に従い、こんな理不尽な悪行を貫けるのか。
 理不尽さの理由は、裁判の最後に、五十代の女性調査官の一言で明らかになる。その言葉は、目の前で聞かされた私にとって、心からゾッとする驚愕の一言だった。
 その瞬間、目の前に座る四十代の女性裁判官を、思いっきり怒鳴りつけた。それまで、「(たとえ嘘や不備があったところで)過去の裁判には遡りません」と強弁していた裁判官は、顔を伏せ「二度と言いません…」と謝罪した。
 その時、私は心に決めた。
 言うべきことは、絶対に言わなければならない。
 間違ったことには、間違っていると言わなければならない。
 これ以上、公的機関の嘘や不道徳を許してはならない。
 たとえ、それが国家機関であっても、いや、それが国家機関だからこそ。
 じゃないと、国家的な不正がまかり通る。
 歪んだ国が出来上がる。
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