第25話 はじめての虐待

文字数 1,649文字

「ひとつ、ふたつ、ちょうだい」
 アンパンマンチーズが食べたい時はいつも、二歳の娘は覚えたての言葉を繰り返す。
 夕食前、娘がアンパンマンチーズをほしがったため、いつものように二つだけ冷蔵庫から取り出した。
「御飯の前だから、お母さんに内緒だよ」
 包みを開けて手渡した。
 突然、リビングに入ってきた妻が娘の前に座った。
「何を食べてるの!」
 娘の頬を片手でつかんで口を開けさせ、チーズを吐き出させようとした。
「かわいそうなことをするな!」
 あわてて妻を制止した。

 その後の夕食で、私が娘の隣に座って、食事を食べさせようとすると、妻は
「もう何を食べさせていいんか分からんわ!」
 と言いながら、急に娘の茶碗を取り上げたため、娘が大声で泣き出した。
 あまりにかわいそうで、すぐに妻の実家に電話し、義母に伝えた。
「今、嫁さんが娘の御飯を取り上げて、娘が泣いているんで、あまりにひどくて、かわいそうなんで、実家に連れて帰ります」
「今すぐに行きますので、それまで帰らんといてください」
 義母の到着を待った。

 娘が御飯をほしがるのを見て、妻が尋ねた。
「何がほしいの」
「トマト」
「そうか、トマトがほしいの」
 皿に山盛りのミニトマトを出した。
「他に何がほしいの」
「ごはん」
 娘の前に、子供用の茶碗に山盛りにして、いつもの三倍以上の御飯を置いた。おなかをすかせた娘は、訳も分からず、嬉しそうに食べ始めた。
 その姿があまりにかわいそうで、実家に連れて帰ることを決心した。

 状況を聞いた義母は、土下座をして謝った。妻はそれを見て少し反省したのだろうか。
「私は下で寝るから、二人は寝室で寝て。私が一緒じゃないなら、ここにいても大丈夫やろ」
 それを聞いて、ひとまず実家に帰るのをやめた。
 しかし、翌朝、娘を連れて一階に降りると、娘の朝食の用意はなかった。
「何を準備したらいいか分からんわ。教えてや」
 昨晩と同じことを繰り返す。
 実家に連れて帰ることを告げると、「私が実家に帰る」と妻は着替えをバッグに詰め始めた。
 夕方、保育園から戻った娘を連れて、実家に帰った。妻の実家に電話をして、しばらく妻も家に帰ってゆっくり考えてもらうようにお願いしたが、妻はそれから二週間、家に残り続け、私は実家から娘を保育園に送った。

 これがすべてのきっかけだった。
 こういう人は注意しても叱責しても絶対に治らない。人間の持って生まれた本質は変わらない。
 こういう人とは絶対に結婚しないほうがいい。結婚前に少しでも変だと思ったら、相手が泣いて謝っても許したらダメだ。子の成長とともに変わってくれるなんて期待したら、裏切られるだけだ。
 こういう人が家庭に入ると、結局は、問題が大きくなる。問題は水際で止めたほうがいい。絶対に結婚してはいけない。これ以上、被害者を増やさないための最善の策だ。
 かわいそうだけど、本人が心から変わろうとしない限り、治ることなんてない。自分を守るために平気で嘘をつくし、それを悪いと思う良心を持っていない。気の毒な人だけど、それが、こういう人の本質なのだ。

 そして家庭裁判所の裁判官も調査官も、これが現実の出来事だと理解してほしい。この家庭事情を見て、それでも母親が主たる監護者だったと判断できるなんて、頭がどうかしている。組織の事情より、世間の常識に従ったほうがいい。今は、妻のような人間が現実に存在する。それを理解したほうがいい。
 判例よりも、双方の主張をしっかり吟味して、しっかりと事実を見極めたほうがいい。ただ判例だけで判断するなら、今の時代、コンピュータにでもできる。人間以上に正確で優秀なコンピュータ裁判官を製造することも可能だろう。判例検索も瞬時に行ってくれる。機械でもできることをする、機械以下の人間なんて危険すぎる。前例に従っているだけの自発的な意思も理想もないロボットに高給を払い続けるなんて、税金の無駄遣いでしかない。
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