第94話 強制執行に注意! 家災が子供を奪いに来る‼

文字数 2,103文字

 監護権の審判に負けると、執行官が自宅に何度もやって来た。
 平成二十五年は、四回。二十六年は、最後の一回。もちろん、家にいなくて執行不能も回数に含まれる。間接強制では差し押さえの費用を払っているようだから、きっと強制執行も執行官に毎回の手間代を払っているのだろう。

 最初は、自宅にいなくて、執行不能。
 次が実家。そう、この日が、コヤブ弁護士が、執行官が執行不能と帰ろうとした直後に登場し、「嘘をついても、裁判所が認めれば、法律の正義です」と胸を張った日。私にとって、平成二十五年三月二十九日は、「嘘をついても法律の正義」記念日。司法試験を頑張った弁護士と一般社会の人間との認識が大きく異なることが分かり、衝撃的だった。
 この年は、ハーグ条約に批准した代わりに、最高裁が同胞の子が国外へ連れ出されないように、執行の基準を弱めた年。
 基準もゆるゆるで、自宅以外は執行不能。店舗も道路も、執行不能。
 子供が抵抗したり、家族にしがみついて離れなかったら、執行不能。
 もちろん、子供本人がいなければ執行不能で、債務者(裁判で負けた人)がいなければ執行不能。
 二重基準では国際的に問題になるから、国内向けの強制執行の基準も弱めたせいで、こんなことになったのだろう。
 執行官も子供の連れ去りなんて、本当はやりたくないのだろう。裁判所から「行け」と言われたから行くだけで。
 その執行官からの忠告。
「今は、弁護士が増えて、仕事がなくて、金のためなら、どんなことでもするから気をつけてください」
 直後に現れた弁護士に注意した。
「私が無職無収入だったことはないし、生活費を妻に出してもらったことも一度もない。無職無収入なら、保育園も入れない」
 そこで出た弁護士の名言。いや迷言。
「嘘をついても、裁判所が認めれば、法律の正義です」
 だから娘を引き渡してほしいと言うが、弁護士の嘘や調査官の嘘に鵜呑みにした裁判官の決定に従ってほしいなんて言われても、そんなくだらない理由で、娘の思いは裏切れない。
 嘘が正義になるのは裁判所と弁護士だけで、そこからこじれにこじれて、強制執行計五回。
 最後は、相手方弁護士が「トイレ借りよう」と言いながら住居侵入し、うちの父を押してケガを負わせた。持病の心房細動で救急車へ運ばれる父を阻止しようとして、母から「死んだら、どうするの!」と怒られた弁護士が言い放った。
「死にません!」
 医者でもなく、医師免許もないのに。
 最終的に、この弁護士を懲戒請求したが、弁護士会の返答は「本人が反省しているから、却下します」だった。一度の謝罪もないのに、どこが反省しているのだろう。
 当方弁護士の話では、「弁護士会は、コヤブ先生は依頼人のためによくそこまでやったということで評判が良い」とのこと。完全に社会の常識を逸脱している。「貧しい人にパンをあげるため、コンビニで万引きしました」という理屈と変わらないが、依頼人から金をもらって不法行為を働いているのだから、それよりもずっと悪質。

 結局、最高裁が執行の要件を弱めたために、強制執行で娘を連れ去られることはなかった。
 でも、ふと考えるのです。もしも、強制執行が幼児の人権を無視して、無理やり強奪していくようなものだったら…。日本国内で合法なだけで、北朝鮮の拉致のような、国家による横暴で暴力的な未成年者略取誘拐だったら…。
 妻は、執行官によって、泣き叫ぶ娘が無理やり拘束されて連れ出されて来る姿を見て、何とも思わないのだろうか。
 きっと何も思わないんでしょうね。我が子のことを大事に思う人なら、こんなことをせず、きちんと話し合いができるし、家庭も維持できたはず。
 もし妻がそんな人なら嘘をついて裁判をすることもなかっただろうし、裁判なんて異常な世界に関わらなければ、私も調査官の巧みな嘘の報告書を目にすることもなかったし、弁護士が嘘をついて裁判する人間で「嘘をついても、裁判所が認めれば、法律の正義」なんて歪んだ信念を持って仕事をしていることを知らずに済んだのに。

 冬、雪の降る中、三歳の娘と温泉に行った日。
 帰り、コンビニの駐車場で、娘は大好きなメロンパンをかじっていた時、父からの電話。
「今、裁判所が来てるからな。あれも来た」
 家庭裁判所による、恐怖の強制執行である。
「なに? なんて?」
「お母さんが、裁判所と一緒に、メイちゃんを連れに来てるって」
「じいちゃんと話したい! でんわ貸して!」と手を差し出す。
「じいちゃん! 『帰れ、バカ!』ってお母さんに言って!」
「はい」と私に電話を渡して、またメロンパンにかじりつく。砂糖をボロボロこぼしながら、満足そうに。
 こんなことまで言われて、母親がやることかね。
 現場の執行官は別として、高裁へ栄転された裁判官は、弁護士の嘘と調査官の嘘に基づき、自分が出した判決によって、実際にはその後こういう事態が起きているが、これで満足なのだろうか。
 目の前に裁判官がいたら、きっと娘はこういうだろうな。
「メイちゃんの気持ちも考えろ! バカ!」
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