第44話 確かに人は成長する
文字数 1,572文字
翌日、精神保健福祉センターの担当者に相談に行った。
以前は、妻は人の目を気にする性格で、家の外で大声を出すことはなかったのに、カウンセラーが妻の精神状態を正常と認めているために、自分に問題はないと自信を持って大騒ぎするようになっているのではないか、カウンセリングを受けて悪化しているのではないかと悩みを伝えた。
「カウンセラーがカウンセリングを続けている以上、奥さんの性格に問題がないことはないはずです。問題がないなら、問題ないことを伝えて終わっています。
今は悪化しているように見えても、カウンセリングを続けていけば、変わってきます。一年以上はかかるものと考えておいてください。
今度会う時は連れて帰ろうとしないという約束だけはしておいてください。子供の気持ちを揺さぶって不安定にするのは問題です」
そう、アドバイスを受けた。
不安は消えず、役所に勤める従兄を訪ねたが、不在だった。新婚当時、激昂する妻のことを相談したことがあった。「離婚せんといてくれ。親を悲しませんといてくれ」そう泣きながら、私を説得してくれた従兄だ。
帰りの運転中、従兄から電話が鳴った。電話を取り、車を細い路地に止めた。
「昨日見たやろ。あれが本性や」
従兄は、まるで見ていたかのように話し出す。
「誰でも本当に追い詰まれば、そんなふうになるもんや。なかなか普通は、そこまで追い込まれるまでには至らんだけや」
この言葉は、現在も自分の正常さを振り返る指標になっている。
「大丈夫や。裁判所は、相手の嘘を見抜いてくれる。正直に生きている人間が馬鹿を見るなんてあり得んやろ…」その声は、すでに涙で霞んでいた。
残念ながら、従兄の予想は完全に外れだ。家庭裁判所は、そんな真っ当な組織ではない。世間の常識を大いに逸脱している。それを覚悟していたほうが、裁判で馬鹿を見なくて済む。期待しないほうがいい。繰り返すが、家庭裁判所は、そんな真っ当な組織ではない。
従兄に精神保健福祉センターに行ったことも伝えた。
「カウンセリングは、あかん。大学院を出ただけで、社会に出たこともないお兄ちゃんやお姉ちゃんでは、どうにもならん。どういう人間か、見抜けもせん」
確かに、その通りだった。一年以上かかるどころか、三か月も持たずに中断することになる。
「苦しいなぁ。苦しいやろ。わかる。わかってる。こんな苦しい思いをした分、人間は成長できる。安心せいや」
従兄は笑って、涙声をごまかす。
「本当に、こんなんで成長してるんかな…」
「してる、してる。大丈夫や。成長してるに決まってるやろ…。成長せんなんてはずない…。正しいのは誰か、神さんはちゃんと見てる…」
電話の向こうで泣く従兄に返事するたびに、私の目にも涙があふれた。大人の男二人、携帯電話越しに涙を流した。
そう、確かに人は成長する。
保身のために判例に従うだけの人間に成長はない。
エゴを通すために、大声を上げ、泣きわめき、嘘をつく人間に成長はない。
自分の得を考える人間に成長はない。
誰かのために、自分以外の誰かを守るために、それを貫く者は必ず成長できる。
「成長って、なんや。なんか得するんか」
本当に苦しい時は、そんな恨み言さえ心に浮かぶかもしれない。
得なんて、ない。少なくとも、徳は積める。
成長って、なんだろう。
苦しい時には、わからない。わかりたくもない。
ただこの苦しみから、救われたいだけだ。
「大丈夫。もう少しの辛抱や。
もう少しや。もう少しで見えてくる!」
苦しい自分の代わりに泣く者がいる。
「つらいのは今だけや。
苦しいのを抜けたら、必ず成長できる。
もう少しや!」
苦しくて気づけないだけで、泣きながら応援してくれる誰かが、必ずいる。
以前は、妻は人の目を気にする性格で、家の外で大声を出すことはなかったのに、カウンセラーが妻の精神状態を正常と認めているために、自分に問題はないと自信を持って大騒ぎするようになっているのではないか、カウンセリングを受けて悪化しているのではないかと悩みを伝えた。
「カウンセラーがカウンセリングを続けている以上、奥さんの性格に問題がないことはないはずです。問題がないなら、問題ないことを伝えて終わっています。
今は悪化しているように見えても、カウンセリングを続けていけば、変わってきます。一年以上はかかるものと考えておいてください。
今度会う時は連れて帰ろうとしないという約束だけはしておいてください。子供の気持ちを揺さぶって不安定にするのは問題です」
そう、アドバイスを受けた。
不安は消えず、役所に勤める従兄を訪ねたが、不在だった。新婚当時、激昂する妻のことを相談したことがあった。「離婚せんといてくれ。親を悲しませんといてくれ」そう泣きながら、私を説得してくれた従兄だ。
帰りの運転中、従兄から電話が鳴った。電話を取り、車を細い路地に止めた。
「昨日見たやろ。あれが本性や」
従兄は、まるで見ていたかのように話し出す。
「誰でも本当に追い詰まれば、そんなふうになるもんや。なかなか普通は、そこまで追い込まれるまでには至らんだけや」
この言葉は、現在も自分の正常さを振り返る指標になっている。
「大丈夫や。裁判所は、相手の嘘を見抜いてくれる。正直に生きている人間が馬鹿を見るなんてあり得んやろ…」その声は、すでに涙で霞んでいた。
残念ながら、従兄の予想は完全に外れだ。家庭裁判所は、そんな真っ当な組織ではない。世間の常識を大いに逸脱している。それを覚悟していたほうが、裁判で馬鹿を見なくて済む。期待しないほうがいい。繰り返すが、家庭裁判所は、そんな真っ当な組織ではない。
従兄に精神保健福祉センターに行ったことも伝えた。
「カウンセリングは、あかん。大学院を出ただけで、社会に出たこともないお兄ちゃんやお姉ちゃんでは、どうにもならん。どういう人間か、見抜けもせん」
確かに、その通りだった。一年以上かかるどころか、三か月も持たずに中断することになる。
「苦しいなぁ。苦しいやろ。わかる。わかってる。こんな苦しい思いをした分、人間は成長できる。安心せいや」
従兄は笑って、涙声をごまかす。
「本当に、こんなんで成長してるんかな…」
「してる、してる。大丈夫や。成長してるに決まってるやろ…。成長せんなんてはずない…。正しいのは誰か、神さんはちゃんと見てる…」
電話の向こうで泣く従兄に返事するたびに、私の目にも涙があふれた。大人の男二人、携帯電話越しに涙を流した。
そう、確かに人は成長する。
保身のために判例に従うだけの人間に成長はない。
エゴを通すために、大声を上げ、泣きわめき、嘘をつく人間に成長はない。
自分の得を考える人間に成長はない。
誰かのために、自分以外の誰かを守るために、それを貫く者は必ず成長できる。
「成長って、なんや。なんか得するんか」
本当に苦しい時は、そんな恨み言さえ心に浮かぶかもしれない。
得なんて、ない。少なくとも、徳は積める。
成長って、なんだろう。
苦しい時には、わからない。わかりたくもない。
ただこの苦しみから、救われたいだけだ。
「大丈夫。もう少しの辛抱や。
もう少しや。もう少しで見えてくる!」
苦しい自分の代わりに泣く者がいる。
「つらいのは今だけや。
苦しいのを抜けたら、必ず成長できる。
もう少しや!」
苦しくて気づけないだけで、泣きながら応援してくれる誰かが、必ずいる。