第7話 椎骨脳底動脈循環不全症

文字数 626文字

 五月に入り、妻が実家から戻ってきた。
 もともと精神的に不安定な妻を支えるために、娘が泣くと、妻とともに夜中起きて、おむつを替えたり、ミルクを作って飲ませたりした。泣き続ける娘を寝かしつけるために、妻と交代で抱っこした。毎晩二三時間おきに起きて、世話をした。
 会社の女性に、夜中の育児で仕事が眠くてつらいと打ち明けると、「奥さんは何してるの。奥さんは日中少しでも休もうと思えば休めるんだから。私も産休中は、子供が寝ている間は一緒に寝てたよ」と言う。
「夜中も妻と一緒に起きてないと、それはそれで別な意味で大変なことになるし」と苦笑した。

 妻と娘が戻って一か月後の夜、階段の上で目まいを起こして、床に倒れた。
「何してるんや!」階下から走ってきた妻は、怒鳴り声を上げた。
 翌朝も妻の機嫌は変わらず、倒れた私を責めた。
「世話ができないなら、家を出ていけ」とののしる。
 娘の顔を撫でながら、私は涙を流した。
「ごめんな。お父さんは出ていくよ。面倒を見てやれなくて悪かったな」
 私は泣いて、娘に謝った。
 目まいがまだ収まらないので、会社を休んで病院へ行こうと玄関に向かうと、今度は妻が泣いて私に謝った。
 MRIとCTスキャンの結果、脳に異常はないため、椎骨脳底動脈循環不全症という診断だった。ストレスや疲労で、首の筋肉が固くなり血流が悪くなって、目まいが起きているという診断だった。
 血管を広げる薬をもらって飲んだが、目まいは数日続いた。
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