第31話 出雲大社参拝

文字数 744文字

 娘が連れ去られ、警察署で妻の異常な言葉を聞いたあと、私の心は激しく動揺していた。
 夕食で涙をこぼした私に、父は「出雲さんにお参りに行こう!」と言った。じっとしていても落ち込むだけなら、車を走らせて、出雲大社にお参りしに行くという提案だった。
 翌日から、海の日で連休になる。出雲大社まで、高速を走り続けても半日はかかる。早朝から走って、着いたのはお昼だった。
 参道に近い駐車場が、目の前で、すっと空いた。
 以前聞いた、お参り好きな従兄の「神様から呼ばれている時は、駐車場を空けて待っていてくれる」という言葉が思い出された。
 長い参道の端を歩き、お参りして、絵馬に願い事を書いた。
「父として娘を大切に守り育てます」

 今思えば、なぜ出雲大社だったのだろう。
 父に聞いてみたら、私が出雲大社に行きたいと言ったからという答えだった。
 今になって、ふと心に浮かんだのは、縁切りという言葉。こんがらがった縁をほどいて、正しい縁を結び直したかったのか。真相は不明。ただ娘がかわいそうで、じっとしていられなくて、「娘を助けてください」という必死の思いで両親とともに神様に祈った。
 急きょ走ってきたから、宿の予約もなく、あわてて観光パンフを見ながら、あちこちに電話した。連休でどこも一杯で、ようやく見つかったのは、古い宿の小さい部屋だった。
 翌日は、有名な美術館で、すばらしい庭と美術品を見て、娘にTシャツと絵葉書を購入。しばらく会えないことを心配しながら、少し大きめのTシャツを選んだ。絵柄は、「いないいないばあ」。顔を隠した動物たちが、背中では大きく手を広げ笑っている。そうなれるといいなと心から願った。
 ゲゲゲの鬼太郎の町にも立ち寄る。二歳の娘はまだ怖がるだろうと思いつつ。
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み