第100話 人身保護請求の国選弁護人

文字数 2,813文字

 人身保護請求が出され、娘のために国選弁護人がつけられた。
 だが、まったく娘を守るためになど働くことはない。裁判所の依頼で裁判所のために働く弁護士でしかない。
 この弁護士に関して、当方弁護士は、「同じ弁護士としての感性を信じます」などと寝ぼけたことを言ったが、まったく的外れでしかなかった。
 法廷での様子を見ていると、当方弁護士に対して先輩への敬意などないことが感じられた。裁判所からの依頼を淡々とこなしているだけ。正義の判断はない。娘の希望ではなく、裁判所の意向に従っただけの内容だ。
 父の友人から紹介された当方弁護士は、警察署回りで営業していた御用聞き弁護士でしかなったと今は確信している。依頼人には強がって見せるが、周りの弁護士や調査官などの彼への対応の悪さから実感させられた。

 三十代の女性弁護士が自宅へ娘に会いに来た。
 調査に来るという名目のようだが、実際は一時間、ずっと絵本を読んだだけだった。
 風貌は、良く言えば、沢口靖子。ただし、どろーんとした目つきの、いかにも感性が鈍そうな女性だった。
 一時間、家族のことや生活のことなど、四歳の娘と一切、話すこともない。対応したうちの両親が驚いていた。
「何も話もせずに、ずっと絵本読んでただけや。何をしに来たんやろ」
 国選弁護人としての報酬を得るために、ただ調査に行ったという口実を作っただけだろうか。
 もう一度、戸外での調査があり、児童遊戯施設で待ち合わせたが、娘が風邪をひいたため、すぐに終わった。何の会話もしていない。
 裁判所の方々、あなたが依頼した国選弁護人の業務の実態は、こんなもんです。税金の無駄遣いはやめませんか。民間企業でこんな茶番業務をしていたら、即倒産します。
 この程度の調査で、娘本人の意向など汲み取れるわけもない。ただ、人身保護請求の国選弁護人という建前を維持するために、娘の前に姿を見せただけだ。
 完全に税金の無駄だけど、今では「田舎の弁護士など、この程度だろう」と絶望感があるので、何とも思わない。住居侵入しても弁護士会の副会長に選ばれる弁護士より、まだマシかもしれない。日本国民として、情けなくなる司法の実情ではあるが、嘆いたところで、現実この程度でしかない。
 さらに、残念なのは、地裁で行われた人身保護の裁判で、この死んだ魚の目をした沢口靖子は、あの調査報告書の嘘の部分を取り上げて、娘を母親に引き渡すことを主張した。
 調査官が捏造した発言。娘が家を恐がっていたという内容の嘘の調査報告だ。嘘が事実としてまかり通り、裁判所に唯々諾々と従う弁護士は否定さえしない恐怖の世界。裁判は、どこまで行っても、嘘で進んでいく茶番でしかない。

 六月十二日、地方裁判所。
 法廷では、住居侵入弁護士コヤブが、妻が転職して正社員となっている有利さを主張した。
 私の横で、役立たず弁護士は、「特に、私は何も聞かなくてもいいですか」と小声で私にささやく。
 もう負けることが分かっていたから、ただ頷いただけだった。そんなことは素人の私に問いかける話ではない。「交渉のプロ」という自負があるなら、どうやったら裁判に勝てるかを考えるべきだし、少なくとも結果が依頼人に有利になるようにすべきだ。
 人身保護請求は、完全に娘を奪い去るために、私の父や母に対しても出されていた。この弁護士は両親の代理人でもあったが、法廷で主張できない無能さで、私と娘、両親の思いを裏切った。
 残念ながら、もう弁護士には期待していない。司法試験を頑張っただけの優秀な落ちこぼれ社会人なのかもしれない。
 ただ、家裁よりも地裁の裁判官のほうがマシだと感じた。
 裁判官が三人並ぶうちの一人、三十代らしき女性判事が、妻に問いかけた。
「娘さんが、お母さんの元へ行くのを嫌がったらどうしますか」
 妻は答えた。
「ギューッと抱きしめます」
 裁判官、苦笑。私も、苦笑。
 人としての本質的な愛情があれば、こんなことになってない。

 家庭に戻るという約束で通ったカウンセリングを勝手に中断して、騙し討ちのように裁判が始まり、監護権の控訴、誘拐の刑事告訴、人身保護請求と二年のうちに目まぐるしく裁判が続いた。双方が、くだらない弁護士に金を浪費した。
 ネギを背負ったおバカなカモからの依頼に、双方の弁護士はほくそ笑んでいただろう。裁判ごとに、チャリンチャリンと黙っていても入金されるオイシイ仕事。結果は我が身には関係なし。互いが勝手に子供の奪い合いをしているだけ。愚か者の夫婦の争いでしかない。
 片や住居侵入弁護士(当時三十八歳)、片や法廷で話せない弁護士(当時六十歳)。
 法廷で論理的に主張できない弁護士は、申立書が誤字脱字だらけで、法律家のくせに民法七六六条の改正も知らず、ハーグ条約をウィーン条約と間違う無知っぷり。しかも、人身保護請求は古い法律で、最近は裁判になっていないと大見得を切るほど勉強不足で、弁護士自らが時代に追いついていなかった。
 この無知弁護士は、最後に「負けっぱなしではありません!」と逆切れしたが、本当に負けっぱなしで、私と娘、私の両親は手もなく追い詰められていっただけだった。

 連れ去り親の皆様へ
 家庭裁判所の歪んだ判断により、監護権や親権は母親に有利になることが多いようですが、すべてが女性にとって都合よく進むわけではありません。
 無駄な金を使って弁護士を雇って、勝ち負けを決める裁判に関わりたいですか。
 夫婦喧嘩は犬も食わないと言います。家庭の事情に介入して金儲けをしようとする不逞の輩に、これ以上、仕事を提供するのはやめませんか。
 弁護士に払う金を、我が子の将来のために残しておきたいと思いませんか。
 我が子と我が身の幸せを、裁判官に任せて安心できますか。裁判官は、あなたの将来を保証しません。申立内容について審判するだけです。その後の生活には、一切責任を持ちません。無責任な他人に、親子の運命をゆだねる丁半博打でしかありません。
 嘘をついて争えば、自らの信頼を失い、その後の人間関係は徹底的に破壊されます。裁判官は申立書の真偽を判断したわけではありません。すべての事実を無視してでも、母親の監護権を認めただけです。我が身から出た嘘の責任は、いつか我が身へ返ってきます。
 高ぶる感情に任せて、有利になるよう嘘をつき、裁判所で徹底的に争い、ようやく築いた家庭を破壊し尽くして、それでもあなたは幸せと言えますか。
 知人から「スマイル」という名前の弁護士事務所があると聞き、「弁護士に依頼する時点で、もう笑えなくなっているのに」と大笑いしました。
 裁判で争って幸せになろうとするのは、ただのブラックジョークです。
 幸せはお互いを認め許し合う努力の中に見出されます。嘘や争いの中に、幸福はありません。
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