第57話 裏切られた思い

文字数 760文字

 平成二十五年一月二十二日。
 この日、男性調査官二人が自宅を訪れ、私の父母も含めた調査が行われた。

 新居の和室へ迎え入れ、お茶とお菓子を出した際の言葉。
「職務上、こういったものを受け取ることができませんので」
 そう言って出されたものを断っていたが、上辺だけの限りなくどうでもいい些末な倫理規定にこだわるより、もっと本質的な正しさを追求すべきだと思う。

 三十前後の若いほうは私と娘、五十過ぎのほうは父母を担当。
 娘は無言で私のそばから離れず、若いのも肝心なことは娘に問いかけず、いったい何の調査かと思ったが、父母に質問していた五十過ぎは、この時の調査で父母が言っていないことを後日、調査報告書にさも事実であるかのように書き記し、そこから一気に歪んだ結論へ家事審判をまとめていくことになる。

「コンコンおばけに気をつけて帰ってくださ~い」
 この日、調査官が帰る時、ようやく二人に慣れた様子で、パッとしない何のオーラもない若造とオッサンに向かって、まだ二歳の娘が手を振っていた姿が今も忘れられない。
「父親のそばにいたい」そんな幼い娘の思いを平然と裏切り、しょぼくれたスーツ姿の調査官に優しく別れの言葉をかける心遣いを踏みにじった、人間として何の光も輝きもない調査官の後ろ姿が今も忘れられない。

 子の福祉などと嘘をつき、調査した相手が言ってないことまで言ったものとして嘘を書く。
 調査官、あなたはそんな人生で満足ですか。
 人間としての正義より、公務員としての安定が大事ですか。

※コンコンお化けとは、夜、幼児が寝ないで遊んでいると「早く寝なさい」と窓をノックする架空のお化けです。これも、大人の都合による嘘ですが、公職の嘘とは重大さにおいて比べようもない程度の嘘です。どうぞ笑ってお許しください。
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