第118話 怨まないであげてください
文字数 1,650文字
山野先生に、義父母を怨んでいると話したことがある。
彼らの工芸の仕事が忙しいという理由で、幼い妻をよその家に預けたことが、今のような感情障害の大人になった原因だと考えていた。
特に義父などは、二番目も女の子だったという理由で、病院にさえ顔を出さなかったという。なんと無責任な父親だと感じていた。もちろん、妻には言わない。妻からの報告だ。
妻は、あの父親の愛情を感じていただろうか。
中学まで一緒に風呂に入っていたという。無責任で愛情のない、ただの変態だと思う。
幼児期に愛着に傷を負った彼女は、心の底からは誰も信用できなかっただろう。
相手の気持ちが分からないために、演技での気遣いは甚だしかった。結婚前は、そこまで遠慮しなくてもいいのにと感じていた。
信頼できないため、結婚前の束縛もきつかった。友人と食事の場に、何度も電話してきた。浮気されて、振られるのが恐かったのだろうか。
ちょっとした一言でも、プライドが傷つけられるのだろう。叱責は激しかった。結婚前は、翌日、泣きながら謝った。「許してください」と号泣しながら、何度も頭を下げた。
監護権の裁判では、徹底的に嘘をついた。彼女からの申立書は、九分九厘、嘘だった。私は仕事もせず、無職無収入で、生活費も出さず、育児もしなかったそうだ。支払った生活費を返してほしい。
それなら、なぜ娘は、ここまで父親である私に懐いたのだろうか。
嘘の申立書について、私から叱責された住居侵入弁護士コヤブは、「嘘をついても、裁判所が認めれば、法律の正義です」と言い放った。
家庭裁判所は、家庭の問題に対して、もっともっと真剣に考えなければならない。少なくとも、裁判官は、弁護士の嘘を見抜く能力を身につけなければいけない。
調査官は、「幼児が家の中を恐がっていた」と父の発言を捏造したが、調査報告書に嘘を書いてはいけない。三十代の若造調査官は、妻のカウンセリング中断について、「カウンセリングなんて効果ないですよ」と笑ったが、お前に家庭の努力を笑う資格などない。
少しは、真面目に仕事しようよ。存在自体、税金の無駄です。
そんな怨みつらみを込めて、先生に義父への怨みを語った。
「こんなふうに妻を育てた彼女の親を許すことができません。心の底から怨んでいます。」
先生は、いつもの優しい表情で私をなだめた。
「怨まないであげてください。彼女の両親が精一杯に育てた結果が、今の状態だったのかもしれないのですから。」
「そうでしょうか。もっともっと愛情をかけて育てたなら、こうはならなかったんじゃないでしょうか。」
そう言いながら、先生の言葉を反芻した。
足りないながらも、愛情をかけて育てた。手に負えない娘の言いなりになりながら、怒りながら、しつけながら、工芸の仕事で家計を支えながら、三十過ぎまで育てた結果が、嘘まみれの裁判沙汰だった。
彼女の従姉は、ほとんどが結婚していないと妻から聞いた。遺伝的に、結婚に不向きだったのだろうか。
もし彼女の親に愛情が欠けていたなら、親自身が愛のない育児の犠牲者だったのかもしれない。
雅楽会の会長さんは、以前、妻のことを相談した私に言った。
「愛情って不思議なもので、目に見えないけど確かに存在していてね。
生まれた時から備わっているわけじゃなくて、親から子に受け渡していくもので、ちゃんともらえないと、心に穴が空いてしまう。
神代さんも、私も、それを親からもらえただけ、幸せなんやろうね」
今、彼女の親に対する怨みはない。哀れな人たちだ。腹が立てば、すぐに一一〇番通報をする愚か者には、二度と関わり合いになりたくはない。警察は、私設警備員ではない。
家庭裁判所に対する怨みはある。税金を使って、この程度の仕事内容では、家事審判に関わった者にとって、奪い合いの対象になった我が子にとって、大迷惑でしかない。高額な報酬を得ながら、この能力では甚だ迷惑で、税金の無駄だと思う。
彼らの工芸の仕事が忙しいという理由で、幼い妻をよその家に預けたことが、今のような感情障害の大人になった原因だと考えていた。
特に義父などは、二番目も女の子だったという理由で、病院にさえ顔を出さなかったという。なんと無責任な父親だと感じていた。もちろん、妻には言わない。妻からの報告だ。
妻は、あの父親の愛情を感じていただろうか。
中学まで一緒に風呂に入っていたという。無責任で愛情のない、ただの変態だと思う。
幼児期に愛着に傷を負った彼女は、心の底からは誰も信用できなかっただろう。
相手の気持ちが分からないために、演技での気遣いは甚だしかった。結婚前は、そこまで遠慮しなくてもいいのにと感じていた。
信頼できないため、結婚前の束縛もきつかった。友人と食事の場に、何度も電話してきた。浮気されて、振られるのが恐かったのだろうか。
ちょっとした一言でも、プライドが傷つけられるのだろう。叱責は激しかった。結婚前は、翌日、泣きながら謝った。「許してください」と号泣しながら、何度も頭を下げた。
監護権の裁判では、徹底的に嘘をついた。彼女からの申立書は、九分九厘、嘘だった。私は仕事もせず、無職無収入で、生活費も出さず、育児もしなかったそうだ。支払った生活費を返してほしい。
それなら、なぜ娘は、ここまで父親である私に懐いたのだろうか。
嘘の申立書について、私から叱責された住居侵入弁護士コヤブは、「嘘をついても、裁判所が認めれば、法律の正義です」と言い放った。
家庭裁判所は、家庭の問題に対して、もっともっと真剣に考えなければならない。少なくとも、裁判官は、弁護士の嘘を見抜く能力を身につけなければいけない。
調査官は、「幼児が家の中を恐がっていた」と父の発言を捏造したが、調査報告書に嘘を書いてはいけない。三十代の若造調査官は、妻のカウンセリング中断について、「カウンセリングなんて効果ないですよ」と笑ったが、お前に家庭の努力を笑う資格などない。
少しは、真面目に仕事しようよ。存在自体、税金の無駄です。
そんな怨みつらみを込めて、先生に義父への怨みを語った。
「こんなふうに妻を育てた彼女の親を許すことができません。心の底から怨んでいます。」
先生は、いつもの優しい表情で私をなだめた。
「怨まないであげてください。彼女の両親が精一杯に育てた結果が、今の状態だったのかもしれないのですから。」
「そうでしょうか。もっともっと愛情をかけて育てたなら、こうはならなかったんじゃないでしょうか。」
そう言いながら、先生の言葉を反芻した。
足りないながらも、愛情をかけて育てた。手に負えない娘の言いなりになりながら、怒りながら、しつけながら、工芸の仕事で家計を支えながら、三十過ぎまで育てた結果が、嘘まみれの裁判沙汰だった。
彼女の従姉は、ほとんどが結婚していないと妻から聞いた。遺伝的に、結婚に不向きだったのだろうか。
もし彼女の親に愛情が欠けていたなら、親自身が愛のない育児の犠牲者だったのかもしれない。
雅楽会の会長さんは、以前、妻のことを相談した私に言った。
「愛情って不思議なもので、目に見えないけど確かに存在していてね。
生まれた時から備わっているわけじゃなくて、親から子に受け渡していくもので、ちゃんともらえないと、心に穴が空いてしまう。
神代さんも、私も、それを親からもらえただけ、幸せなんやろうね」
今、彼女の親に対する怨みはない。哀れな人たちだ。腹が立てば、すぐに一一〇番通報をする愚か者には、二度と関わり合いになりたくはない。警察は、私設警備員ではない。
家庭裁判所に対する怨みはある。税金を使って、この程度の仕事内容では、家事審判に関わった者にとって、奪い合いの対象になった我が子にとって、大迷惑でしかない。高額な報酬を得ながら、この能力では甚だ迷惑で、税金の無駄だと思う。