#30 逃亡 <祥子視点>
文字数 1,408文字
目覚めて眼の前にエリックの寝顔があるのに驚いていた。
(私…そっか。エリックと)
少し体がだるい気がするのも頷ける。
でも、抜けている。記憶が抜けてる。
パジャマは着てる。エリックだってシャツ着てる。男性ものはここに無いから、それはしょうがない。
ゆっくり体を動かしてみる。
あれっ? 体にエリックの感触が無い気がする。体がだるいのは別のせいみたいだ。
何があったんだっけ。
「泊まっていって」は覚えてる。
その後、私がシャワーを浴びた。だからパジャマになってる。エリックがシャワーを浴びてる間、私は変な事考えてたんだ。
外人と肌を合わせる。
付き合ってて、大切な人と思えるエリックと肌を合わせる。それは自然な流れだと思う。遊び相手じゃない。エリックは好きな人だ。一緒に居たい人だ。
だけど、外人なんだ。
エリックの寝顔を見てて思う。
髪の毛だって眉だって濃いブロンドだ。眼が薄い茶色。
日本人だって茶髪にカラーコンタクトで、「なんちゃって外人」が居る。もっとアヤシゲな日本人だって居る。
人種差別しているのだろうか。それとも保守的なのか。同じ人間なのに…怖くなったのか。
何で記憶が抜けてるのだろう。拒否しちゃったのか。
そっとベッドから抜け出した。
寝室を出てフルートケースに眼を止めた。ゆっくり触れていく。
エリックが私に贈ってくれたケース。物の良し悪しは詳しくないが、このケースは良い物だと分かる。細かい飾り模様が入っている。印刷じゃないのが分かる。
鍵だって掛かる。自分の誕生日に設定した。
朝食の仕度をしようとテーブルを見たら、ワイングラスにワインが注がれたままだった。
「あ、思い出した。私、ここでエリックが出てくるの待ってたんだ」
「そのままぐっすりさ。祥子、おはよう」
エリックの声が耳に入って大慌てだ。
「(寝ちゃってた?!)あ、はい。エリック、おはよう。ゆっくり眠れた?」
まさかの直前逃亡してたなんて。誤魔化すように妙に明るい笑顔を向けちゃってる。
「祥子の寝息がいい子守唄になった」
「…ごめんなさい」
笑顔を向けてくれているけど、エリックの心中は定かじゃない。
ここは、もう一度逃亡しよう。
「今、パン焼くから。座って待ってて」
「はいはい」
クスリと笑ってエリックが座った。
いいとこを見せようとすると焦って失敗する。
「パン焼きすぎちゃった」
「いいさ」
「卵も…」
スクランブルエッグのつもりが、そぼろになってる。
(お母さん。あなたの娘は料理で失敗してますよ。それも、彼の前で)
こんな大事な場面で、恥ずかしい。料理で愛想つかされたなんて…ならないよね。
「大丈夫。食べれるから」
「ごめんなさい」
「祥子は料理苦手なのか?」
「日本では実家だったから作って無かったの」
「まだ慣れてないんだね」
「うん」
「これから慣れればいい」
「うん」
女としてのランクが下がった気がするが、女が料理しなきゃいけないって事はないと思う。
エリックはどう思っているんだろうか。
「今度エリックに作ってもらお」
「俺が作るのか?」
「そう」
「簡単なメニューにしてくれよ。俺だって同じ様なものだから」
「一緒だね」
「俺も慣れていくさ」
良かった。
☆
少し時間を早めて家を出た。エドナやミリファに会わないようにだ。
エリックと一夜を過ごして、何かあったほうも恥ずかしいけど、何も無かったってのは情けなくて恥ずかしい気がした。
それでも、フルートケースは、見せびらかしたい位輝いて見えている。
- #30 F I N -
(私…そっか。エリックと)
少し体がだるい気がするのも頷ける。
でも、抜けている。記憶が抜けてる。
パジャマは着てる。エリックだってシャツ着てる。男性ものはここに無いから、それはしょうがない。
ゆっくり体を動かしてみる。
あれっ? 体にエリックの感触が無い気がする。体がだるいのは別のせいみたいだ。
何があったんだっけ。
「泊まっていって」は覚えてる。
その後、私がシャワーを浴びた。だからパジャマになってる。エリックがシャワーを浴びてる間、私は変な事考えてたんだ。
外人と肌を合わせる。
付き合ってて、大切な人と思えるエリックと肌を合わせる。それは自然な流れだと思う。遊び相手じゃない。エリックは好きな人だ。一緒に居たい人だ。
だけど、外人なんだ。
エリックの寝顔を見てて思う。
髪の毛だって眉だって濃いブロンドだ。眼が薄い茶色。
日本人だって茶髪にカラーコンタクトで、「なんちゃって外人」が居る。もっとアヤシゲな日本人だって居る。
人種差別しているのだろうか。それとも保守的なのか。同じ人間なのに…怖くなったのか。
何で記憶が抜けてるのだろう。拒否しちゃったのか。
そっとベッドから抜け出した。
寝室を出てフルートケースに眼を止めた。ゆっくり触れていく。
エリックが私に贈ってくれたケース。物の良し悪しは詳しくないが、このケースは良い物だと分かる。細かい飾り模様が入っている。印刷じゃないのが分かる。
鍵だって掛かる。自分の誕生日に設定した。
朝食の仕度をしようとテーブルを見たら、ワイングラスにワインが注がれたままだった。
「あ、思い出した。私、ここでエリックが出てくるの待ってたんだ」
「そのままぐっすりさ。祥子、おはよう」
エリックの声が耳に入って大慌てだ。
「(寝ちゃってた?!)あ、はい。エリック、おはよう。ゆっくり眠れた?」
まさかの直前逃亡してたなんて。誤魔化すように妙に明るい笑顔を向けちゃってる。
「祥子の寝息がいい子守唄になった」
「…ごめんなさい」
笑顔を向けてくれているけど、エリックの心中は定かじゃない。
ここは、もう一度逃亡しよう。
「今、パン焼くから。座って待ってて」
「はいはい」
クスリと笑ってエリックが座った。
いいとこを見せようとすると焦って失敗する。
「パン焼きすぎちゃった」
「いいさ」
「卵も…」
スクランブルエッグのつもりが、そぼろになってる。
(お母さん。あなたの娘は料理で失敗してますよ。それも、彼の前で)
こんな大事な場面で、恥ずかしい。料理で愛想つかされたなんて…ならないよね。
「大丈夫。食べれるから」
「ごめんなさい」
「祥子は料理苦手なのか?」
「日本では実家だったから作って無かったの」
「まだ慣れてないんだね」
「うん」
「これから慣れればいい」
「うん」
女としてのランクが下がった気がするが、女が料理しなきゃいけないって事はないと思う。
エリックはどう思っているんだろうか。
「今度エリックに作ってもらお」
「俺が作るのか?」
「そう」
「簡単なメニューにしてくれよ。俺だって同じ様なものだから」
「一緒だね」
「俺も慣れていくさ」
良かった。
☆
少し時間を早めて家を出た。エドナやミリファに会わないようにだ。
エリックと一夜を過ごして、何かあったほうも恥ずかしいけど、何も無かったってのは情けなくて恥ずかしい気がした。
それでも、フルートケースは、見せびらかしたい位輝いて見えている。
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