#13 検索 <征司視点>
文字数 1,131文字
家に戻った俺はバイオリンの手入れをしながら思い出している。
祥子の音。
音の質感は硝子のせいか初めての感じだったが、昔、どこかで触れた事がある気がしていた。
俺の音を殺さないように、それでもフルートの音は生きている。この微妙な掛け合いで、二つの音が惹き合って離さなかった。
この感じ…覚えがある。
俺はバイオリンを置き、パソコンの電源を入れる。今はどこにいても情報が手に入る時代だ。
国内での音楽情報サイトには祥子の事が早くもピックアップされている。
祥子について検索していく。
「だめだな。コンクールからしか載ってない」
なら、日本のサイトに行くまでだ。
苅谷祥子、で検索を掛けると…この中から探せと言うのか。
音楽サイトを開く。
「個人情報保護か」
賞の履歴位しか出てこない。出身地が俺と同じ県になっているのは分かった。
それなら、個人サイトだ。
検索でひっかかった数あるサイトを2つ3つ開いて見た。少し酷評めいた文もあったが、日本人頑張れって感じだ。
高校の時にフルート吹いてたってガド爺が言ってたのを思い出す。
出身県の高校の数の多さに驚いていた。
俺が卒業した高校を見つけてサイトを開く。懐かしい気がした。卒業して何年も経っているし、日本に滅多に帰っていなかったのもある。同窓会のお知らせや、たまに友達からメールが届く位で、高校とは縁はなくなっていた。
管弦楽部の頁に更新マークが付いていた。開いたら活動の事や演奏曲、楽器の紹介が書いてある。
OB紹介の項目があったから開いてみる。俺が載っているのだろうか。
「あ…」
俺の眼が苅谷祥子の文字を見つけた。俺の名前の下に更新マークと共に載っていた。
「同じ高校だったのか。…あの時」
思い出したのは俺が卒業の時に謝った事だ。祥子を探して謝った。
「何で謝ったんだったか」
カタン
立てかけてた弓が倒れた。
「そうだ」
祥子は初めバイオリンを弾いていた。それを俺がバイオリンから離したんだ。確か、理由があって…。
「首だ。祥子は首を痛めたんだ」
祥子の音と技術はあの時から数段巧 くなっている。だけど、音を合わせている時の惹き合う感じ。あれは残されたままだ。
もうひとつ思い出した。
「北見先輩。私は北見先輩の事が好きです」
その時の祥子の顔は覚えていない。祥子は覚えているのだろうか。
「いい思い出だな」
俺は音楽に焦 っていたんだと思う。音楽が優先だったから、恋愛に関しては疎 かったし、自分の中で誰が好きなんて過 る事はあったが、留 める事はなかった。
祥子は良き後輩の位置づけだった。
ただ、ずっと一緒に奏でていたい音を出せる人だ、と感じていた。
そして、祥子の奏でる音は俺を超えるのかも、と少し怖くなってもいた。
現実に、今、祥子は俺と肩を並べているんだ。
- #13 F I N -
祥子の音。
音の質感は硝子のせいか初めての感じだったが、昔、どこかで触れた事がある気がしていた。
俺の音を殺さないように、それでもフルートの音は生きている。この微妙な掛け合いで、二つの音が惹き合って離さなかった。
この感じ…覚えがある。
俺はバイオリンを置き、パソコンの電源を入れる。今はどこにいても情報が手に入る時代だ。
国内での音楽情報サイトには祥子の事が早くもピックアップされている。
祥子について検索していく。
「だめだな。コンクールからしか載ってない」
なら、日本のサイトに行くまでだ。
苅谷祥子、で検索を掛けると…この中から探せと言うのか。
音楽サイトを開く。
「個人情報保護か」
賞の履歴位しか出てこない。出身地が俺と同じ県になっているのは分かった。
それなら、個人サイトだ。
検索でひっかかった数あるサイトを2つ3つ開いて見た。少し酷評めいた文もあったが、日本人頑張れって感じだ。
高校の時にフルート吹いてたってガド爺が言ってたのを思い出す。
出身県の高校の数の多さに驚いていた。
俺が卒業した高校を見つけてサイトを開く。懐かしい気がした。卒業して何年も経っているし、日本に滅多に帰っていなかったのもある。同窓会のお知らせや、たまに友達からメールが届く位で、高校とは縁はなくなっていた。
管弦楽部の頁に更新マークが付いていた。開いたら活動の事や演奏曲、楽器の紹介が書いてある。
OB紹介の項目があったから開いてみる。俺が載っているのだろうか。
「あ…」
俺の眼が苅谷祥子の文字を見つけた。俺の名前の下に更新マークと共に載っていた。
「同じ高校だったのか。…あの時」
思い出したのは俺が卒業の時に謝った事だ。祥子を探して謝った。
「何で謝ったんだったか」
カタン
立てかけてた弓が倒れた。
「そうだ」
祥子は初めバイオリンを弾いていた。それを俺がバイオリンから離したんだ。確か、理由があって…。
「首だ。祥子は首を痛めたんだ」
祥子の音と技術はあの時から数段
もうひとつ思い出した。
「北見先輩。私は北見先輩の事が好きです」
その時の祥子の顔は覚えていない。祥子は覚えているのだろうか。
「いい思い出だな」
俺は音楽に
祥子は良き後輩の位置づけだった。
ただ、ずっと一緒に奏でていたい音を出せる人だ、と感じていた。
そして、祥子の奏でる音は俺を超えるのかも、と少し怖くなってもいた。
現実に、今、祥子は俺と肩を並べているんだ。
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