#16 宣告 <祥子視点>
文字数 7,298文字
昨日のリハでは、私の金属のフルートを見て皆、驚きを隠せないでいた。
「硝子のフルートじゃないんですか?」
「傷が出来ちゃったの」
ガド爺は知っているから何も言わない。自分の所属楽団の内情を話す事が出来ないから、壊されたとは言えない。
☆
初めてのコンクールの時を思い出している。人様の前で自分の音を採点される。そんな緊張だ。
(このフルートで出せる最高の音を観客全員に)
幕が上がり、ガド爺の棒が跳ね上がった。
♪~♪~♪~
無難に演奏を終えた。最高の音を奏でた気はする…するんだ…が。
カーテンコールで簡単な曲を吹いて終わる。花束をいくつか貰う。楽団員の皆から言葉を貰って、楽屋に戻って片付けてたら、ガド爺が来た。
「祥子。今日は焦っとったのか?」
「いえ。そんな事はないのですが」
「音は完璧じゃったぞ。だが、情景が薄っぺらじゃった」
「薄っぺら」
「そうじゃ。コンクールなら金賞もんじゃが、バレエじゃったからの。観客は誤魔化せてもワシの耳は正直じゃ」
「すみません」
このフルートを信頼出来ない気持ちがどこかにあった。ガド爺はそれを鋭く見抜いた。
「もう一度、このフルートから初めてみるんじゃな」
「はい」
「日本に戻って思い出してから、ここに帰っておいで」
「はい」
私の肩を叩いてガド爺は楽屋を出て行った。
「祥子」
フルートをしまってたら、名前を呼ばれた。この声はエリックだ。ガド爺に怒られた訳じゃないけど、自分の音が心から自慢できるものじゃない気がして、笑顔を作ってエリックに向けた。
「エリック。聴きに来てくれたんだ。ありがとう」
「そりゃね。で、はい」
花束が沢山手渡された。
「ありがとう。あれっ? こんなに?」
「征司とミリファとシドから。皆、急に用事が出来たからって俺に全部押し付けて行ったんだ」
「あら」
私の音が良くなかったから…なのだろうか。
「俺一人じゃ不満そうだね」
「えっ? エリックが来てくれて、それだけで嬉しいのよ」
誰も来てくれなかったら、それこそ落ち込んでたかもしれない。
「本当に?」
「本当。ガド爺に情景が薄っぺらだったって言われてヘコんでたのよ」
「そっか。ガド爺は相変わらず鋭いな。祥子は君を育ててくれたフルートを信頼して無かったんだろ」
「…エリックも鋭いよ」
このフルートに戻りきれて無いんだ。
エリックが慌てて言う。
「しまった。余計な事言っちゃったな。ごめん」
「ハッキリ言ってくれたほうがいいのよ。こたえるけど…」
言葉に詰まる。失敗は何度か経験してきたけど、絶賛されて有頂天の真っ最中から突き落とされたんだ。こんなのは初めてだ。
「祥子には気分転換が必要だな。もう帰れるよね」
「あと貴重品受け取るだけ」
「じゃ、行こう」
預けていた貴重品を受け取ったら、女性の声が掛かる。
「祥子」
今一番会いたくない人だ。
「はい」
カノンだ。私を見てにこやかに笑っている。私はエリックに視線を向ける。
「俺が通訳するよ」
「お願いね。まず、聴きに来て頂けて嬉しいです。って」
エリックが彼女に挨拶してから私の言葉を伝えた。
「今日も祥子の音を聴けて嬉しいわ」
「ありがとうございます」
「今日は硝子のフルートじゃなかったのね。どうしたの?」
「傷が出来てしまって使えなかったんです」
傷つけたなんて自分の手入れが雑だって言ってるようなものだ。彼女の表情が曇ったように見えた。
「あら。もうあの音を聴けなくなるのかしら。それは残念ね」
「すみません」
「まぁ。謝らなくていいのよ。今日の音も良かったもの。そうね。少し、ほんの少し物足りなかった気がするだけ」
その感想で充分です。硝子のイメージが強すぎるんだ。そのイメージを超えなくては。
「ごめんなさい。ミセス ミューラーの満足出来る音を絶対お聴かせしますから」
「本当? それは楽しみにしてなくちゃね」
「絶対お聴かせします。それと、先日は大きな花束ありがとうございます」
「あら、それはいいのよ。ちゃんとお礼のカード受け取ってますよ。ありがとね。こんなに礼儀正しいお嬢さんだとは、って私のほうが驚いちゃったのよ」
そう言ってカノンは笑って持ってた花束を私に差し出す。
「はい。お約束通りに手渡しよ」
「ありがとうございます」
私は既に持ってた花束をエリックに持ってもらい、カノンからの花束を受け取る。その瞬間、
「次の次は無いわよ」
カノンが口早に英語で言った。
横に居たエリックがビクッと跳ね上がった気がした。私だってギクリと唾を飲み込んだ。
カノンはその笑顔とは裏腹に私に宣告したんだ。
「…はい。ミセス ミューラー」
こう答えながら、血の気が引いていった。次でカノンを満足させる音が出せなかったらスポンサーの話は無しよ、と言う事だ。
その後、カノンの口から英語は出てこなかった。
「じゃ、次を楽しみにしてるわよ」
「はい」
☆
「ガド爺の友達だけあって、カノンの耳は肥えているんだな」
エリックがカノンの背中を見送りながら納得したように言った。
「そうね。怖い位」
「祥子、早い話、君はそのフルートと仲良しにならなくちゃ」
「な、仲良し?」
エリックの例えに驚きながらも可笑しくなってしまった。
「そうね、元通り仲良しにならなくちゃね」
「そうそう。別れた彼氏とヨリを戻すみたいに…あ、そりゃ困るな」
「ん?」
「何でもない。ほら、花束貸して。纏 めて持ってくから」
エリックが誤魔化すように花束を持って歩き出した。
「祥子、早く。行っちゃうぞ。まず、この花束ホテルに置いてからデートしよう」
「デート?」
エリックの横に追いつくと、エリックが私を見て少し赤くなりながら口を開く。
「今日は祥子と俺だけ。二人だからデートだろ」
「デートってそういう使いかたなんだ。そっか。日本だと親密になってからってイメージなのよ」
国が違うからって…単なる世間知らずだったのを、後で知る事になる。エリックが苦笑いしてたのを私は見て無かった。
「祥子は日本に彼が居るのかい?」
「彼? あ~、彼ねぇ。居ればいいんだけどね」
「そっか」
「あ、居ないのが当たり前って顔してる。どうせそうよね」
「そ、そんな顔してない」
「どうだか」
少し意地悪くなってる。エリックが慌ててるのが分かる。花束を持って無かったら手が動きまくってるのだろうな。
「な、なら、祥子は人種にコダワル?」
「コダワルと思っていたけど、慣れちゃったみたい。エリック達と音を合わせたからかな。でも、外人に対する恐怖はまだある」
外人に限った事じゃないけど、私が実際に見てしまったランスの顔、あの時の恐怖が焼きついている。
「そ…う」
「エリックはどうなの?」
私の問い返しにエリックが大慌てになった気がする。
「お、俺、俺はコダワリなんかない。ない。絶対無い。母国語の違いがあったって」
そこで言葉を切ってから私に視線を移して口を開く。
「通じる言葉さえあれば。祥子と俺みたいに」
エリックの視線を受け止めてドキリとしていた。エリックは私に興味を示してる。もしかすると好意なのかもしれない。なんて、自意識過剰か。
「そう」
「あぁ。俺はそうだ」
「なら、エリックから見て外人の私を美化して見ないでね。日本人女性はおしとやか、なんて、期待はずれもいいとこよ」
「そうだな。あの舞台度胸見たら分かる気がする」
「あら。誉めてる?」
「誉めてる」
「ありがとう」
☆
地下鉄の駅に着いて気づく。花束持って帰っても私は明日帰国するんだ。
「エリック、悪いけどこのまま練習所に行きたいの」
「どうして?」
「私、明日、日本に帰るのよ。花束持って帰れないから」
「あ、そっか。明日、日本に…」
「そう。だから、この花束は練習所に飾ろうと思って」
「そうだね。そのほうがいいか」
「皆からのもあるから、悪い気がするけど」
「構わないさ。祥子が日本に戻るのを知ってるからね」
「良かった」
練習所の監視室に花束をお裾分けして、フルートパートの部屋に飾る。それでも花束が余る。エリックのチェロパートの部屋にもお裾分け。
「パートが違うと部屋の雰囲気も違うのね」
私が部屋を見回してたら、エリックが花瓶を持って来て言う。
「そりゃ。楽器と同じさ」
チェロの大きさが部屋の印象を変えているのだろう。
私が花を挿していく間、エリックは私の傍から居なくなった。戸を開ける音がしたから、自分の小部屋に入っていったようだ。
直ぐに戸の音がして、エリックの足音が私の後ろに近づいてきて止まった。
「エリック、驚かすのは駄目よ」
何度か驚かされているから釘をさす。私は残りの花を挿しこんでいく。
「驚かさないさ」
エリックの声が聞え、椅子が引き出された音が響いた。
「祥子、何かリクエストある?」
「リクエスト?」
振り返ってエリックを見ると、エリックはチェロを構えて私を見てる。
「祥子に俺の音を聴いて欲しい。調律 する間に曲を決めて」
直ぐに音が響き渡る。こういう場合は、普通のメロディラインを弾いて貰える曲。日本の曲は駄目。なら。
「ピノキオの」
「星に願いを、だね。祥子が好きな曲なのかな?」
「そう。一番好きな曲」
「俺も好きだ。誰でも知ってる曲だからかな」
「だからこそ」
「「下手に奏でる事が出来ない難しい曲」」
エリックと私の声が重なった。
「えっ?」
「だろ?」
「そ、そう。そうよ」
知られてる曲ほど難しいものはない。
「祥子は花を活けてて」
「うん」
花束を解いて広げて…急いで花瓶に挿しこんでいく。エリックの調律の音を聴いたからだ。次の花束も…。
♪~♪~♪~
エリックの音が響き、私は持っていた花を花瓶の横に置いた。息をするのも音を聴き逃してしまいそうな気がしていた。
(何て深みのある音…なんだろう)
願いを星に…違う。情景が違う。わずかなビブラートが情景を変えてくる。
信じて…人間になれる。信じて…愛を信じて。
音に惹きこまれる感じに襲われてくる。流れてくる音をひとつも取りこぼしたくない。
(この音に重ねたい)
硝子のフルートがあればエリックの音に重ねていたと思う。今はフルートを信頼出来てない、そんな音とエリックの音は重ねられない。
(今の私の音は駄目だ。エリックの音を殺してしまう)
静かに聴き入っていた。エリックの音が途切れても私は動けなかった。
「ありがとう。エリックの音、とても、凄く、凄く、凄く」
振り返ってエリックの顔を見て言いたかったけど、そう出来なかった。音に感動してて手で顔を押さえていなくちゃならなかった。
エリックが椅子から立ち上がってチェロを自分の小部屋に運び込んだ音がした。直ぐに足音が私の後ろに来る。私の両肩にエリックの手が置かれた。
「感動した?」
「う、うん。うん。ありがとう」
「俺も祥子の音を初めて耳にした時、同じ様に感動した。泣かなかったけど感動した。音の質が違うのは直ぐ分かった。それよりも祥子の情景の深さが、その音から紡ぎ出される情景に感動していた」
音の質。硝子か金属かって違いの事だ。そして、エリックは音から紡ぎ出される情景って言った。質が違っても音から情景は創れるんだ。
「エリック」
「何?」
眼を手で擦って涙を拭いた。そして振り返るように顔をエリックに向ける。エリックの手が私の肩から離れた。エリックが私の横に動く。顔が見える。
「少し時間頂戴。エリックとデュオする迄の時間」
「それは光栄だな」
エリックが笑う。その顔を見て嬉しくもあり、恥ずかしくもあった。恥ずかしさを隠す為、花を花瓶に挿し込んだら、その花にエリックの手が触れた。エリックが二枚花びらを外す。
「約束だ。祥子とデュオする。絶対、いつかこの曲で」
エリックがそう言いながら花びらを一枚私の掌に置いた。
「この曲で。約束ね」
私は花びらをフルートケースに入れた。エリックはIDカードの入っているケースに入れた。
「約束だ。おっと」
♪♪♪
エリックの携帯が鳴り、エリックが私から離れて通話を始める。その間に私は残りの花束を活け始める。
電話の相手はシドのようだ。どこかの住所らしき言葉が飛び交っている。通話を終えたエリックが私に声を掛ける。
「祥子、行く所が出来た、急いで終わらせよう」
「あ、はい」
練習所を出ると暗くなっていた。
エリックと地下鉄の駅に向かう。一緒に行き先を確認して乗り込む。ホテルとは逆の方向だ。
「どこに行くの? さっきの電話はシドからなんでしょ?」
「そう。シドから。祥子を連れてくるようにって」
「何で?」
「何でと聞かれても俺にも分からない。だから素直に祥子を連れて行く。デートが邪魔されちゃったけどね」
「エリックの音を聴けたから嬉しいわ。それだけでも気分転換できた。ありがとう」
「そう?」
「うん」
エリックがメモを頼りに歩いて行く。住宅街に入った。一軒のアパートに着いた。
「祥子、エリック、ここよ。上」
ミリファの声が低く響いた。
言われるままエリックと上を向いた。二階の窓からミリファが手を振った。直ぐに征司がミリファの横に見えた。
アパートの入り口のドアが開いてシドが出てきた。
「早かったですね。ついて来て」
シドに連れられて二階に続く階段を上る。日本とは違う。日本だと各家に着くまでが外だけど、ここは建物の中にそれぞれの家の玄関がある。
ひとつの扉の前にくる。
「ここが祥子の家になります」
そう言ってシドが扉を開けた。夜だから電気の明かりだけど、正面の窓から外が見える。
小さいけど過ごし易そうだ。
(そっか。…私、ここで暮らさなきゃならないんだ)
いつまでもホテル暮らしじゃいられない。
私の家になる玄関に足を踏み入れたらシドが言う。
「うちの楽団の寮みたいなものですよ。住人は楽団関係者ですから。防音も大丈夫です」
「ここなら祥子でも大丈夫よ。女のコダワリってのもあるからね」
そう言って、ミリファが私を引っ張って部屋を見せてくれる。
「寝室にも窓があっていいでしょ。それにバスルームも綺麗だし、収納もあって使い勝手がいいのよ」
「うん。気に入ったわ」
「そうでしょ。買い物にも便利な場所だからね。私の家も近くよ」
「それは嬉しいわ」
「私も嬉しいのよ」
どうやらシドがミリファと征司を連れまわしたみたいで、シドの手にある住所リストに沢山のチェックがされていた。ミリファには女性としての部屋の使い勝手を、征司に日本人としての使い勝手を確認していたのだろう。
「窓閉めてれば練習し放題だな。キッチンからだと玄関外(廊下)の音が聞こえてくる位だった」
征司が奥の部屋から出てきて言った。
「それは嬉しいわ」
「スリッパを使うかは祥子次第だな。俺はもう使わなくなっちゃったけど」
「慣れですかね?」
「そうだな。背徳感に打ち勝つ迄が大変だったが」
「それ、分かる気がする」
ホテルでスリッパ探してたのを思い出す。ここで暮らすならルームシューズにしようかな。
「こちらに戻ってきてからの契約になります。すぐに使える様にしておきますから」
シドがそう言って住所を書いた紙を私に手渡す。
「ありがとうございます」
☆
皆と家を出て食事をしに入る。ダンスの出来る小さいフロアがついていて、生演奏が響いていた。
食べながら皆が私の演奏の感想を言う。演奏家としての私を認めてくれているから、本音で感想を伝えてくる。痛いけれども受け止める。
「祥子、踊ろう」
エリックが私の手を引っ張った。助け舟を出された感じだ。だけど、踊るなんて。
「私、踊れないの」
「こういうの初めて?」
「うん」
「曲に合わせればいいんだよ」
「恥ずかしいわ」
「大丈夫。俺に合わせればいい」
「じゃ、私は征司とシドのお二人を引っ張ってっちゃお」
ミリファが征司とシドの手を引っ張っていった。
「ほら、祥子も」
「…うん」
ノリのいい曲が流れてきて、ダンスフロアは盛り上がっている。ディスコって感じ。お客さんも演奏者も一緒に盛り上がってる。
エリックと皆の中に入っていく。
「曲を聴いて。これだって俺達にとっていい勉強だ。曲に体を合わせて動かすんだからね」
「そうね」
曲に耳を傾けて、エリックを見ながら体を動かしていく。えっと、盆踊りじゃないよ。こんな感じ…かな。
「祥子、いい感じだ」
暫く合わせていたら、体を動かすのも気持ちいいのに気づく。
私の相手が征司に代わる。
「どう? ここで暮らすのも悪くないだろ」
「そうかもしれない。って今は思う」
「何かと心配があると思う。そんな時は俺でもミリファでも頼ってくれ。高校の時のように」
「あ…。征司、気づいてたの?」
「気づいた。学校のサイトで祥子の名前が載ってた」
「私の名前が?」
「載ってた」
「知らなかった。いつの間に」
「それだけ後輩達にとっての目標になったんだな」
征司が私の事を思い出したとすると。
「征司。もしかして、あの事も」
「何の事だ?」
「あ…」
「今はこれからの事に向かわなきゃな。お互いな」
「うん」
征司がミリファの元に戻り、シドが来る。
「祥子。スケジュールはこちらからメールを送りますから。日本での行動もこちらから指示が行きます。それと活動はこちらが拠点となりますから、税金とかの面も帰国の間に処理しておきましょう。まぁ、日本で自由に羽を伸ばしておいて下さい」
「はい。お世話になります」
「祥子の音、これからどうなるのか楽しみです」
「…はい。私なりに越えてみせます」
エリックが戻ってくる。照明が少し暗くなった。演奏がスローバラードに変わる。
「わっ」
エリックが私の体を引き寄せる。もしかして、これって。
横のミリファは征司の首に腕を回してくっついてる。
わ、私はシドとテーブルで飲、飲んでいたい。
エリックの腕が私の腰に回されていて逃げられない。私は赤くなったまま、エリックの顔を見ないようにエリックの肩に顔を寄せるしか出来なかった。
「祥子…いい香りだ」
エリックの声が耳元でする。
「サクラって言う香水なの」
「花の?」
「そう」
「初めての香りだ。俺…◎×★※◆▽・・・」
抱き締められた感じがする。エリックにドキドキしている。
エリックにもたれかかるようにして体が揺れていた。
☆
翌日、私は日本に向けて飛び立った。
これからどうなるんだろう。一抹の不安があるが、日本に帰るのは嬉しい。
座席に座り、音楽から離れていたかったのに、私の頭の中ではエリックの音が響き渡っていた。
- #16 F I N -
「硝子のフルートじゃないんですか?」
「傷が出来ちゃったの」
ガド爺は知っているから何も言わない。自分の所属楽団の内情を話す事が出来ないから、壊されたとは言えない。
☆
初めてのコンクールの時を思い出している。人様の前で自分の音を採点される。そんな緊張だ。
(このフルートで出せる最高の音を観客全員に)
幕が上がり、ガド爺の棒が跳ね上がった。
♪~♪~♪~
無難に演奏を終えた。最高の音を奏でた気はする…するんだ…が。
カーテンコールで簡単な曲を吹いて終わる。花束をいくつか貰う。楽団員の皆から言葉を貰って、楽屋に戻って片付けてたら、ガド爺が来た。
「祥子。今日は焦っとったのか?」
「いえ。そんな事はないのですが」
「音は完璧じゃったぞ。だが、情景が薄っぺらじゃった」
「薄っぺら」
「そうじゃ。コンクールなら金賞もんじゃが、バレエじゃったからの。観客は誤魔化せてもワシの耳は正直じゃ」
「すみません」
このフルートを信頼出来ない気持ちがどこかにあった。ガド爺はそれを鋭く見抜いた。
「もう一度、このフルートから初めてみるんじゃな」
「はい」
「日本に戻って思い出してから、ここに帰っておいで」
「はい」
私の肩を叩いてガド爺は楽屋を出て行った。
「祥子」
フルートをしまってたら、名前を呼ばれた。この声はエリックだ。ガド爺に怒られた訳じゃないけど、自分の音が心から自慢できるものじゃない気がして、笑顔を作ってエリックに向けた。
「エリック。聴きに来てくれたんだ。ありがとう」
「そりゃね。で、はい」
花束が沢山手渡された。
「ありがとう。あれっ? こんなに?」
「征司とミリファとシドから。皆、急に用事が出来たからって俺に全部押し付けて行ったんだ」
「あら」
私の音が良くなかったから…なのだろうか。
「俺一人じゃ不満そうだね」
「えっ? エリックが来てくれて、それだけで嬉しいのよ」
誰も来てくれなかったら、それこそ落ち込んでたかもしれない。
「本当に?」
「本当。ガド爺に情景が薄っぺらだったって言われてヘコんでたのよ」
「そっか。ガド爺は相変わらず鋭いな。祥子は君を育ててくれたフルートを信頼して無かったんだろ」
「…エリックも鋭いよ」
このフルートに戻りきれて無いんだ。
エリックが慌てて言う。
「しまった。余計な事言っちゃったな。ごめん」
「ハッキリ言ってくれたほうがいいのよ。こたえるけど…」
言葉に詰まる。失敗は何度か経験してきたけど、絶賛されて有頂天の真っ最中から突き落とされたんだ。こんなのは初めてだ。
「祥子には気分転換が必要だな。もう帰れるよね」
「あと貴重品受け取るだけ」
「じゃ、行こう」
預けていた貴重品を受け取ったら、女性の声が掛かる。
「祥子」
今一番会いたくない人だ。
「はい」
カノンだ。私を見てにこやかに笑っている。私はエリックに視線を向ける。
「俺が通訳するよ」
「お願いね。まず、聴きに来て頂けて嬉しいです。って」
エリックが彼女に挨拶してから私の言葉を伝えた。
「今日も祥子の音を聴けて嬉しいわ」
「ありがとうございます」
「今日は硝子のフルートじゃなかったのね。どうしたの?」
「傷が出来てしまって使えなかったんです」
傷つけたなんて自分の手入れが雑だって言ってるようなものだ。彼女の表情が曇ったように見えた。
「あら。もうあの音を聴けなくなるのかしら。それは残念ね」
「すみません」
「まぁ。謝らなくていいのよ。今日の音も良かったもの。そうね。少し、ほんの少し物足りなかった気がするだけ」
その感想で充分です。硝子のイメージが強すぎるんだ。そのイメージを超えなくては。
「ごめんなさい。ミセス ミューラーの満足出来る音を絶対お聴かせしますから」
「本当? それは楽しみにしてなくちゃね」
「絶対お聴かせします。それと、先日は大きな花束ありがとうございます」
「あら、それはいいのよ。ちゃんとお礼のカード受け取ってますよ。ありがとね。こんなに礼儀正しいお嬢さんだとは、って私のほうが驚いちゃったのよ」
そう言ってカノンは笑って持ってた花束を私に差し出す。
「はい。お約束通りに手渡しよ」
「ありがとうございます」
私は既に持ってた花束をエリックに持ってもらい、カノンからの花束を受け取る。その瞬間、
「次の次は無いわよ」
カノンが口早に英語で言った。
横に居たエリックがビクッと跳ね上がった気がした。私だってギクリと唾を飲み込んだ。
カノンはその笑顔とは裏腹に私に宣告したんだ。
「…はい。ミセス ミューラー」
こう答えながら、血の気が引いていった。次でカノンを満足させる音が出せなかったらスポンサーの話は無しよ、と言う事だ。
その後、カノンの口から英語は出てこなかった。
「じゃ、次を楽しみにしてるわよ」
「はい」
☆
「ガド爺の友達だけあって、カノンの耳は肥えているんだな」
エリックがカノンの背中を見送りながら納得したように言った。
「そうね。怖い位」
「祥子、早い話、君はそのフルートと仲良しにならなくちゃ」
「な、仲良し?」
エリックの例えに驚きながらも可笑しくなってしまった。
「そうね、元通り仲良しにならなくちゃね」
「そうそう。別れた彼氏とヨリを戻すみたいに…あ、そりゃ困るな」
「ん?」
「何でもない。ほら、花束貸して。
エリックが誤魔化すように花束を持って歩き出した。
「祥子、早く。行っちゃうぞ。まず、この花束ホテルに置いてからデートしよう」
「デート?」
エリックの横に追いつくと、エリックが私を見て少し赤くなりながら口を開く。
「今日は祥子と俺だけ。二人だからデートだろ」
「デートってそういう使いかたなんだ。そっか。日本だと親密になってからってイメージなのよ」
国が違うからって…単なる世間知らずだったのを、後で知る事になる。エリックが苦笑いしてたのを私は見て無かった。
「祥子は日本に彼が居るのかい?」
「彼? あ~、彼ねぇ。居ればいいんだけどね」
「そっか」
「あ、居ないのが当たり前って顔してる。どうせそうよね」
「そ、そんな顔してない」
「どうだか」
少し意地悪くなってる。エリックが慌ててるのが分かる。花束を持って無かったら手が動きまくってるのだろうな。
「な、なら、祥子は人種にコダワル?」
「コダワルと思っていたけど、慣れちゃったみたい。エリック達と音を合わせたからかな。でも、外人に対する恐怖はまだある」
外人に限った事じゃないけど、私が実際に見てしまったランスの顔、あの時の恐怖が焼きついている。
「そ…う」
「エリックはどうなの?」
私の問い返しにエリックが大慌てになった気がする。
「お、俺、俺はコダワリなんかない。ない。絶対無い。母国語の違いがあったって」
そこで言葉を切ってから私に視線を移して口を開く。
「通じる言葉さえあれば。祥子と俺みたいに」
エリックの視線を受け止めてドキリとしていた。エリックは私に興味を示してる。もしかすると好意なのかもしれない。なんて、自意識過剰か。
「そう」
「あぁ。俺はそうだ」
「なら、エリックから見て外人の私を美化して見ないでね。日本人女性はおしとやか、なんて、期待はずれもいいとこよ」
「そうだな。あの舞台度胸見たら分かる気がする」
「あら。誉めてる?」
「誉めてる」
「ありがとう」
☆
地下鉄の駅に着いて気づく。花束持って帰っても私は明日帰国するんだ。
「エリック、悪いけどこのまま練習所に行きたいの」
「どうして?」
「私、明日、日本に帰るのよ。花束持って帰れないから」
「あ、そっか。明日、日本に…」
「そう。だから、この花束は練習所に飾ろうと思って」
「そうだね。そのほうがいいか」
「皆からのもあるから、悪い気がするけど」
「構わないさ。祥子が日本に戻るのを知ってるからね」
「良かった」
練習所の監視室に花束をお裾分けして、フルートパートの部屋に飾る。それでも花束が余る。エリックのチェロパートの部屋にもお裾分け。
「パートが違うと部屋の雰囲気も違うのね」
私が部屋を見回してたら、エリックが花瓶を持って来て言う。
「そりゃ。楽器と同じさ」
チェロの大きさが部屋の印象を変えているのだろう。
私が花を挿していく間、エリックは私の傍から居なくなった。戸を開ける音がしたから、自分の小部屋に入っていったようだ。
直ぐに戸の音がして、エリックの足音が私の後ろに近づいてきて止まった。
「エリック、驚かすのは駄目よ」
何度か驚かされているから釘をさす。私は残りの花を挿しこんでいく。
「驚かさないさ」
エリックの声が聞え、椅子が引き出された音が響いた。
「祥子、何かリクエストある?」
「リクエスト?」
振り返ってエリックを見ると、エリックはチェロを構えて私を見てる。
「祥子に俺の音を聴いて欲しい。
直ぐに音が響き渡る。こういう場合は、普通のメロディラインを弾いて貰える曲。日本の曲は駄目。なら。
「ピノキオの」
「星に願いを、だね。祥子が好きな曲なのかな?」
「そう。一番好きな曲」
「俺も好きだ。誰でも知ってる曲だからかな」
「だからこそ」
「「下手に奏でる事が出来ない難しい曲」」
エリックと私の声が重なった。
「えっ?」
「だろ?」
「そ、そう。そうよ」
知られてる曲ほど難しいものはない。
「祥子は花を活けてて」
「うん」
花束を解いて広げて…急いで花瓶に挿しこんでいく。エリックの調律の音を聴いたからだ。次の花束も…。
♪~♪~♪~
エリックの音が響き、私は持っていた花を花瓶の横に置いた。息をするのも音を聴き逃してしまいそうな気がしていた。
(何て深みのある音…なんだろう)
願いを星に…違う。情景が違う。わずかなビブラートが情景を変えてくる。
信じて…人間になれる。信じて…愛を信じて。
音に惹きこまれる感じに襲われてくる。流れてくる音をひとつも取りこぼしたくない。
(この音に重ねたい)
硝子のフルートがあればエリックの音に重ねていたと思う。今はフルートを信頼出来てない、そんな音とエリックの音は重ねられない。
(今の私の音は駄目だ。エリックの音を殺してしまう)
静かに聴き入っていた。エリックの音が途切れても私は動けなかった。
「ありがとう。エリックの音、とても、凄く、凄く、凄く」
振り返ってエリックの顔を見て言いたかったけど、そう出来なかった。音に感動してて手で顔を押さえていなくちゃならなかった。
エリックが椅子から立ち上がってチェロを自分の小部屋に運び込んだ音がした。直ぐに足音が私の後ろに来る。私の両肩にエリックの手が置かれた。
「感動した?」
「う、うん。うん。ありがとう」
「俺も祥子の音を初めて耳にした時、同じ様に感動した。泣かなかったけど感動した。音の質が違うのは直ぐ分かった。それよりも祥子の情景の深さが、その音から紡ぎ出される情景に感動していた」
音の質。硝子か金属かって違いの事だ。そして、エリックは音から紡ぎ出される情景って言った。質が違っても音から情景は創れるんだ。
「エリック」
「何?」
眼を手で擦って涙を拭いた。そして振り返るように顔をエリックに向ける。エリックの手が私の肩から離れた。エリックが私の横に動く。顔が見える。
「少し時間頂戴。エリックとデュオする迄の時間」
「それは光栄だな」
エリックが笑う。その顔を見て嬉しくもあり、恥ずかしくもあった。恥ずかしさを隠す為、花を花瓶に挿し込んだら、その花にエリックの手が触れた。エリックが二枚花びらを外す。
「約束だ。祥子とデュオする。絶対、いつかこの曲で」
エリックがそう言いながら花びらを一枚私の掌に置いた。
「この曲で。約束ね」
私は花びらをフルートケースに入れた。エリックはIDカードの入っているケースに入れた。
「約束だ。おっと」
♪♪♪
エリックの携帯が鳴り、エリックが私から離れて通話を始める。その間に私は残りの花束を活け始める。
電話の相手はシドのようだ。どこかの住所らしき言葉が飛び交っている。通話を終えたエリックが私に声を掛ける。
「祥子、行く所が出来た、急いで終わらせよう」
「あ、はい」
練習所を出ると暗くなっていた。
エリックと地下鉄の駅に向かう。一緒に行き先を確認して乗り込む。ホテルとは逆の方向だ。
「どこに行くの? さっきの電話はシドからなんでしょ?」
「そう。シドから。祥子を連れてくるようにって」
「何で?」
「何でと聞かれても俺にも分からない。だから素直に祥子を連れて行く。デートが邪魔されちゃったけどね」
「エリックの音を聴けたから嬉しいわ。それだけでも気分転換できた。ありがとう」
「そう?」
「うん」
エリックがメモを頼りに歩いて行く。住宅街に入った。一軒のアパートに着いた。
「祥子、エリック、ここよ。上」
ミリファの声が低く響いた。
言われるままエリックと上を向いた。二階の窓からミリファが手を振った。直ぐに征司がミリファの横に見えた。
アパートの入り口のドアが開いてシドが出てきた。
「早かったですね。ついて来て」
シドに連れられて二階に続く階段を上る。日本とは違う。日本だと各家に着くまでが外だけど、ここは建物の中にそれぞれの家の玄関がある。
ひとつの扉の前にくる。
「ここが祥子の家になります」
そう言ってシドが扉を開けた。夜だから電気の明かりだけど、正面の窓から外が見える。
小さいけど過ごし易そうだ。
(そっか。…私、ここで暮らさなきゃならないんだ)
いつまでもホテル暮らしじゃいられない。
私の家になる玄関に足を踏み入れたらシドが言う。
「うちの楽団の寮みたいなものですよ。住人は楽団関係者ですから。防音も大丈夫です」
「ここなら祥子でも大丈夫よ。女のコダワリってのもあるからね」
そう言って、ミリファが私を引っ張って部屋を見せてくれる。
「寝室にも窓があっていいでしょ。それにバスルームも綺麗だし、収納もあって使い勝手がいいのよ」
「うん。気に入ったわ」
「そうでしょ。買い物にも便利な場所だからね。私の家も近くよ」
「それは嬉しいわ」
「私も嬉しいのよ」
どうやらシドがミリファと征司を連れまわしたみたいで、シドの手にある住所リストに沢山のチェックがされていた。ミリファには女性としての部屋の使い勝手を、征司に日本人としての使い勝手を確認していたのだろう。
「窓閉めてれば練習し放題だな。キッチンからだと玄関外(廊下)の音が聞こえてくる位だった」
征司が奥の部屋から出てきて言った。
「それは嬉しいわ」
「スリッパを使うかは祥子次第だな。俺はもう使わなくなっちゃったけど」
「慣れですかね?」
「そうだな。背徳感に打ち勝つ迄が大変だったが」
「それ、分かる気がする」
ホテルでスリッパ探してたのを思い出す。ここで暮らすならルームシューズにしようかな。
「こちらに戻ってきてからの契約になります。すぐに使える様にしておきますから」
シドがそう言って住所を書いた紙を私に手渡す。
「ありがとうございます」
☆
皆と家を出て食事をしに入る。ダンスの出来る小さいフロアがついていて、生演奏が響いていた。
食べながら皆が私の演奏の感想を言う。演奏家としての私を認めてくれているから、本音で感想を伝えてくる。痛いけれども受け止める。
「祥子、踊ろう」
エリックが私の手を引っ張った。助け舟を出された感じだ。だけど、踊るなんて。
「私、踊れないの」
「こういうの初めて?」
「うん」
「曲に合わせればいいんだよ」
「恥ずかしいわ」
「大丈夫。俺に合わせればいい」
「じゃ、私は征司とシドのお二人を引っ張ってっちゃお」
ミリファが征司とシドの手を引っ張っていった。
「ほら、祥子も」
「…うん」
ノリのいい曲が流れてきて、ダンスフロアは盛り上がっている。ディスコって感じ。お客さんも演奏者も一緒に盛り上がってる。
エリックと皆の中に入っていく。
「曲を聴いて。これだって俺達にとっていい勉強だ。曲に体を合わせて動かすんだからね」
「そうね」
曲に耳を傾けて、エリックを見ながら体を動かしていく。えっと、盆踊りじゃないよ。こんな感じ…かな。
「祥子、いい感じだ」
暫く合わせていたら、体を動かすのも気持ちいいのに気づく。
私の相手が征司に代わる。
「どう? ここで暮らすのも悪くないだろ」
「そうかもしれない。って今は思う」
「何かと心配があると思う。そんな時は俺でもミリファでも頼ってくれ。高校の時のように」
「あ…。征司、気づいてたの?」
「気づいた。学校のサイトで祥子の名前が載ってた」
「私の名前が?」
「載ってた」
「知らなかった。いつの間に」
「それだけ後輩達にとっての目標になったんだな」
征司が私の事を思い出したとすると。
「征司。もしかして、あの事も」
「何の事だ?」
「あ…」
「今はこれからの事に向かわなきゃな。お互いな」
「うん」
征司がミリファの元に戻り、シドが来る。
「祥子。スケジュールはこちらからメールを送りますから。日本での行動もこちらから指示が行きます。それと活動はこちらが拠点となりますから、税金とかの面も帰国の間に処理しておきましょう。まぁ、日本で自由に羽を伸ばしておいて下さい」
「はい。お世話になります」
「祥子の音、これからどうなるのか楽しみです」
「…はい。私なりに越えてみせます」
エリックが戻ってくる。照明が少し暗くなった。演奏がスローバラードに変わる。
「わっ」
エリックが私の体を引き寄せる。もしかして、これって。
横のミリファは征司の首に腕を回してくっついてる。
わ、私はシドとテーブルで飲、飲んでいたい。
エリックの腕が私の腰に回されていて逃げられない。私は赤くなったまま、エリックの顔を見ないようにエリックの肩に顔を寄せるしか出来なかった。
「祥子…いい香りだ」
エリックの声が耳元でする。
「サクラって言う香水なの」
「花の?」
「そう」
「初めての香りだ。俺…◎×★※◆▽・・・」
抱き締められた感じがする。エリックにドキドキしている。
エリックにもたれかかるようにして体が揺れていた。
☆
翌日、私は日本に向けて飛び立った。
これからどうなるんだろう。一抹の不安があるが、日本に帰るのは嬉しい。
座席に座り、音楽から離れていたかったのに、私の頭の中ではエリックの音が響き渡っていた。
- #16 F I N -
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