#32 信じる愛情 <エリック視点>
文字数 2,161文字
「エリック、おはよう。今日は祥子休みよ」
「エドナ、おはよう。休みの理由は?」
予想はついていたけど聞いてみた。
「頭が痛いんですって。隣だから言いにくればいいのに電話だったのよ」
「そう」
まだ怖いのか。女性のエドナでさえ。
「昨夜、何かあったの? あなた達、外で叫んでなかった?」
ドキリとした。エドナは祥子の隣に住んでいるから、聞こえてて当然か。
「何もないさ」
「そう。はい、エリックの今週分」
スケジュールを受け取りながら、エドナに相談するのも手だと思った。いや。確実に対応するのならシドのほうがいい。
「エリック、おはよう」
「…征司」
征司がエドナから紙を受け取るのを眺めていた。二人で練習部屋に移動する。征司の後ろを歩いていたら声がかかる。
「何かあったのか?」
「何故、そう思うんだ?」
「沈んでる」
「沈んでるか。そうだな」
「祥子と何かあったみたいだな。じゃな」
征司が部屋に入るのを見て思いついた。征司は祥子と同じ日本人だ。
「征司、待ってくれ」
「なんだ?」
部屋に入りかけてた体を出して、俺に近づいてくる。
「お昼、相談に乗ってくれ」
「相談?」
「そう」
「ミリファも一緒でいいか?」
「女性もいた方がいい」
「分かった。なら、昼に」
「悪いが頼む」
☆
パートの皆には指示を出して、俺は小部屋に籠 っている。
祥子の事を考えている。
「デートの最後の最後で何なんだよ」
祥子も俺もあんな事が起きるなんて思わなかった。何もなければ祥子を抱き締めていた筈だ。
なのに…。
掌の小さい丸いカサブタが眼に入った。
「…ランス・ダッカード」
祥子が呟いた名前を耳にして、俺も気づく。祥子を恨んでいるとしたらランスしかいない。
ゴシップ記事の垂れ流しはランスが吹き込んだものだと聞いた。現に、シャンドリーはランスに指示されて動いていた。
ドラッグをやってるから、ランスは追われている。
祥子の周りで張っていた捜査員も最近は捜査を広げたのか居なくなっていた。
手薄になったその隙をついて、出てきたと言う事なんだろう。殺傷能力の低いエアガンを出してきたのは、まだ脅しの域だからなのか。
それよりも
「怖い、怖いの。…外人が…怖いの」
と、震えながら脅えた眼を俺に向けずに言った祥子の顔が忘れられない。
俺は祥子にとって外人だから拒絶されたんだ。…恋人なのに。
☆
昼を取りながら、征司とミリファに昨夜の事を話した。
「二日続けてあったって事ね」
「「 二日? 」」
征司と俺が驚いてミリファに声を掛けたら、ミリファが口を開く。
「祥子は話して無かったのね。エリックを心配させたく無かったのよ」
「話してくれてれば、回避できたかもしれなかったのに」
今更だ。あ、そういえば。
「祥子に後で地面を見ておけとか言ったのか?」
「もちろんよ。何が当たったか分かるでしょ。夜だと見落とすから次の日に見ておくように言ったわ」
「確かに何か探してた」
アパートを出て直ぐ、祥子は地面に視線を走らせていた。
「何か見つけた?」
「何も無かった。でもその時はどこを撃たれたんだ?」
「腕よ。このへんにエリックの掌みたいな傷が出来たの」
祥子のその位置には。
「絆創膏で隠してたのか」
「エリック、怒っちゃ駄目よ。私だったとしても、征司に心配かけたくなくて話せないわ」
「だけど、言わなきゃ分からないじゃないか。今こんなになって…」
言葉が続けられなかった。
「祥子も落ち着けば大丈夫よ」
「それがいつになるんだよ。今日か? 明日か? 明後日か? 祥子の傍に居てやりたいのに、祥子は俺を拒絶したんだ。俺が…日本人じゃないから」
征司が俺を見てるのが分かるから、征司に視線を向けた。俺は日本人じゃないんだ。俺は征司の顔を見てそう思っていた。
征司が口を開く。
「今の祥子にとって、ミリファ、君だって怖い存在になっている筈だ」
「そうだよ。休む事だって隣のエドナに言えば済むのに、電話で連絡してきた位だ」
俺の言葉で、ミリファが信じられないという顔をした。
「それは嫌だわ。なら、シドに話だけはしといたほうがいいわよ。最悪の場合を考えて」
「そうだな。シドに話しておこう。祥子のほうは」
征司が俺を見る。
「今晩、俺が祥子と話してみる。エリック、いいか?」
「あぁ。…頼む」
その足でシドに話しにいった。
☆
練習を終えて三人で祥子のアパートの前に行く。
「そこのバーで待ってるわ」
「飲みすぎるなよ」
「大丈夫よ」
「エリック…」
「征司に任せたから」
「あぁ」
征司が祥子に電話を掛けて直ぐにアパートの玄関が開けられた。祥子の姿がちらりと見えたが直ぐに扉が閉まった。
俺とミリファは二人で近くのバーに入った。
「ミリファは気にならないのか?」
ミリファが俺を見て真面目な顔で答える。
「何を気にするのよ」
「祥子と征司が二人きりだぞ。祥子は不安定になっているんだ。もしも」
ミリファの声が割り込む。
「今は征司を貸すだけよ。何が起ころうとも、征司が戻ってくればそれでいいわ」
「でも、心が揺れたら」
俺が恐れている事をミリファに向けて言っていた。キッとミリファに睨まれた。
「エリックもどっしり構えてなさい。信じてあげるのも愛情よ」
そう言って、窓の外に視線を移した。
「今は貸してあげるだけよ。私は祥子も好きだから」
「あぁ。…そうだな」
1時間程で征司が戻ってきた。その直後、俺に祥子から電話が入る。
- #32 F I N -
「エドナ、おはよう。休みの理由は?」
予想はついていたけど聞いてみた。
「頭が痛いんですって。隣だから言いにくればいいのに電話だったのよ」
「そう」
まだ怖いのか。女性のエドナでさえ。
「昨夜、何かあったの? あなた達、外で叫んでなかった?」
ドキリとした。エドナは祥子の隣に住んでいるから、聞こえてて当然か。
「何もないさ」
「そう。はい、エリックの今週分」
スケジュールを受け取りながら、エドナに相談するのも手だと思った。いや。確実に対応するのならシドのほうがいい。
「エリック、おはよう」
「…征司」
征司がエドナから紙を受け取るのを眺めていた。二人で練習部屋に移動する。征司の後ろを歩いていたら声がかかる。
「何かあったのか?」
「何故、そう思うんだ?」
「沈んでる」
「沈んでるか。そうだな」
「祥子と何かあったみたいだな。じゃな」
征司が部屋に入るのを見て思いついた。征司は祥子と同じ日本人だ。
「征司、待ってくれ」
「なんだ?」
部屋に入りかけてた体を出して、俺に近づいてくる。
「お昼、相談に乗ってくれ」
「相談?」
「そう」
「ミリファも一緒でいいか?」
「女性もいた方がいい」
「分かった。なら、昼に」
「悪いが頼む」
☆
パートの皆には指示を出して、俺は小部屋に
祥子の事を考えている。
「デートの最後の最後で何なんだよ」
祥子も俺もあんな事が起きるなんて思わなかった。何もなければ祥子を抱き締めていた筈だ。
なのに…。
掌の小さい丸いカサブタが眼に入った。
「…ランス・ダッカード」
祥子が呟いた名前を耳にして、俺も気づく。祥子を恨んでいるとしたらランスしかいない。
ゴシップ記事の垂れ流しはランスが吹き込んだものだと聞いた。現に、シャンドリーはランスに指示されて動いていた。
ドラッグをやってるから、ランスは追われている。
祥子の周りで張っていた捜査員も最近は捜査を広げたのか居なくなっていた。
手薄になったその隙をついて、出てきたと言う事なんだろう。殺傷能力の低いエアガンを出してきたのは、まだ脅しの域だからなのか。
それよりも
「怖い、怖いの。…外人が…怖いの」
と、震えながら脅えた眼を俺に向けずに言った祥子の顔が忘れられない。
俺は祥子にとって外人だから拒絶されたんだ。…恋人なのに。
☆
昼を取りながら、征司とミリファに昨夜の事を話した。
「二日続けてあったって事ね」
「「 二日? 」」
征司と俺が驚いてミリファに声を掛けたら、ミリファが口を開く。
「祥子は話して無かったのね。エリックを心配させたく無かったのよ」
「話してくれてれば、回避できたかもしれなかったのに」
今更だ。あ、そういえば。
「祥子に後で地面を見ておけとか言ったのか?」
「もちろんよ。何が当たったか分かるでしょ。夜だと見落とすから次の日に見ておくように言ったわ」
「確かに何か探してた」
アパートを出て直ぐ、祥子は地面に視線を走らせていた。
「何か見つけた?」
「何も無かった。でもその時はどこを撃たれたんだ?」
「腕よ。このへんにエリックの掌みたいな傷が出来たの」
祥子のその位置には。
「絆創膏で隠してたのか」
「エリック、怒っちゃ駄目よ。私だったとしても、征司に心配かけたくなくて話せないわ」
「だけど、言わなきゃ分からないじゃないか。今こんなになって…」
言葉が続けられなかった。
「祥子も落ち着けば大丈夫よ」
「それがいつになるんだよ。今日か? 明日か? 明後日か? 祥子の傍に居てやりたいのに、祥子は俺を拒絶したんだ。俺が…日本人じゃないから」
征司が俺を見てるのが分かるから、征司に視線を向けた。俺は日本人じゃないんだ。俺は征司の顔を見てそう思っていた。
征司が口を開く。
「今の祥子にとって、ミリファ、君だって怖い存在になっている筈だ」
「そうだよ。休む事だって隣のエドナに言えば済むのに、電話で連絡してきた位だ」
俺の言葉で、ミリファが信じられないという顔をした。
「それは嫌だわ。なら、シドに話だけはしといたほうがいいわよ。最悪の場合を考えて」
「そうだな。シドに話しておこう。祥子のほうは」
征司が俺を見る。
「今晩、俺が祥子と話してみる。エリック、いいか?」
「あぁ。…頼む」
その足でシドに話しにいった。
☆
練習を終えて三人で祥子のアパートの前に行く。
「そこのバーで待ってるわ」
「飲みすぎるなよ」
「大丈夫よ」
「エリック…」
「征司に任せたから」
「あぁ」
征司が祥子に電話を掛けて直ぐにアパートの玄関が開けられた。祥子の姿がちらりと見えたが直ぐに扉が閉まった。
俺とミリファは二人で近くのバーに入った。
「ミリファは気にならないのか?」
ミリファが俺を見て真面目な顔で答える。
「何を気にするのよ」
「祥子と征司が二人きりだぞ。祥子は不安定になっているんだ。もしも」
ミリファの声が割り込む。
「今は征司を貸すだけよ。何が起ころうとも、征司が戻ってくればそれでいいわ」
「でも、心が揺れたら」
俺が恐れている事をミリファに向けて言っていた。キッとミリファに睨まれた。
「エリックもどっしり構えてなさい。信じてあげるのも愛情よ」
そう言って、窓の外に視線を移した。
「今は貸してあげるだけよ。私は祥子も好きだから」
「あぁ。…そうだな」
1時間程で征司が戻ってきた。その直後、俺に祥子から電話が入る。
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