#48-1 つじつま <征司視点>

文字数 8,308文字

エリックと祥子が別れて険悪な状態になるかと思ってた。

「祥子のほうが意外とあっさりしてたな」

久々にミリファと食事してる時にそう言ったら、反撃をくらう。

「違うのよ。祥子は強がってるのよ。同じ楽団のトップ同士だからって」
「そうか」
「征司は男だからこの健気(けなげ)な女心が分からないのよ」
「…」
「祥子はエリックを見ると一瞬顔が固まるのよ。気軽に声掛けてる様に見えるだけなのよ」

はぁ。そうですか…。

ミリファが切々(せつせつ)と女心を語り始める。俺は素直に聞いている。ミリファは祥子の事を好きだから気にかけてるんだ。

祥子と付き合いだしてから、ミリファの音も良くなっている。
出来れば俺の音に影響を受けて欲しかったが…。まぁ、良しとしとこう。

ミリファの音が認められ、スポンサーも付いて、公演会に出て行く様になって、ミリファは一回り成長した。祥子に感謝しなくちゃならない。
そんな祥子はエリックの影響を受けて音が良くなっている。彼女のどこにそんな才能があったんだろう。高校の時、ずっと一緒に奏でていたい音を出せる人だ、と感じたのは今の祥子を見れば正しかった。そして、祥子の奏でる音は俺を超えるのかも、と感じたのも正しかったんだ。祥子がエリックと繋がった曲、モーツアルト フルート四重奏曲ニ長調 この曲を一緒に奏でて実感した。祥子は俺を超える事が出来るんだと。

「・・・でね、征司、ちょっと、聞いてるの?」
「あ、あぁ。聞いてる」

ミリファが雑誌を指で叩きながら俺に言った。以前祥子が話題に上がってた雑誌だ。この号ではエリックの話題が出ている。

「征司はエリックとこの件で話したの?」
「簡単にな。その記事は正しいし、それが出たからシェリルの親に会ったとも言ってた」

俺もエリックも公演会が入ってて会えなかった。偶然会った時に雑誌の事を聞いたらそう答えたんだ。
その時の事を思い出す。エリックは俺が聞くのを予想してたんだと思う。



「エリック、祥子には」
「…あぁ。祥子にはすまないと。だけど責任はとらないと。シェリルを愛してやらないと。でも、俺はまだ…」

そう途中で言葉を切ったエリックの顔は「祥子の事を愛してるんだ」と言っていた。それをもう言えないんだ、と言う顔で俺を見た。

「二股してたのか?」
「征司。俺はそんな事はしてない。祥子だけだ。シェリルとも今回初めて会ったんだ」
「なら、あの記事の時だけなんだな?」
「あぁ。そうだったみたいだ。…俺、覚えて無いんだ。酔ってて…祥子だと」
「覚えて無いほど酔っ払うなんて珍しいな」
「酔いを醒まそうと入った店でシェリルにカクテル飲まされたんだ。味が思ったのと違うからってシェリルが頼んだカクテルの残りを俺が飲んでた。シェリルが次々に頼むから、俺、完全に酔っ払ったみたいだ」
「シェリルも飲んでたのか?」
「その店に入る前は気分良さげにしてたから飲んでたと思う。カクテルは一口舐めて味が違うって渡されたんだ」
「そうか。祥子とこれから…辛いな」
「俺と祥子は友達なんだ。俺の傍に居て欲しい友達なんだ。それで…いい。そう、祥子に伝えてる」

そんなエリックだって強がってるんだ。祥子に声を掛けられると一瞬顔が強張ってる。



「着々と話が進んでるのね。でも、ちょっと引っかかるのよ」

ミリファの声が耳に入り、我に返った。

「何が?」

ミリファの指がテーブルを叩き出す。この仕草をする時、ミリファは考え込んでいる。邪魔しないほうがいい。指がテーブルにトンと音を立てて止まった。

「エリックはシェリルとも付き合ってたの?」
「それは無い。シェリルとは記事の時だけだと。それも、エリック本人は覚えてない」
「覚えてない。ってどうして?」
「酔ってたそうだ。シェリルに次々と飲まされたんだと」
「飲まされた…それでホテル。計画的っぽいわね」
「エリックが動けなかったからだろ」
「そうね。酔わせてね。征司なら、酔っててどう?」
「え? あ、おいっ」
「どう? 覚えてられない位酔ってて出来る?」
「お、俺は、どうだろ。覚えてられない程、酔っ払ってなんて。だが、刺激がありゃ可能性はある。受身だけどな」
「そう」

正直に答えるんじゃなかったか…。ミリファが少し怒ってる。

「そこまで酔っ払うのはミリファの前だけだ」
「なら、宜しい」

ミリファが俺を見て嬉しそうに笑う。まさかと思うが。

「俺で試すなよ」
「そんな事はしないわよ。安心して」
「そう頼むよ」
「それに、そんな征司とは出来ないわ。襲ってきても…そうね、拒むわ。拒むのよ。でも、シェリルは拒まなかったのよ」
「どうして分かる?」
「拒んでたら体に残るわよ。叩くとか、引っ掻くとか。酔っ払って襲ってきたらどっちも手加減出来ないわよ。だけど、シェリルもエリックにもそんな怪我は無かったし、仲良く練習してたじゃない」
「そうだな。隠してたとしても被害者じゃなかったな」
「シェリルはエリックの事好きだから拒まなかった。それがこの記事にでてた一枚目の写真。これよ。日付が載ってるけど、翌朝の写真だから演奏会前の日曜日の夜にあったのよ」

この記事には一枚目にエリックとシェリルがホテルから一緒に出てきた瞬間だった。
もう一枚写真があって、これも一緒に建物から出てきた瞬間だが、その建物は病院だった。その写真の横に小さく祥子が空港に居る写真が載ってた。

「そうだな」
「病院のほうは定期演奏会を挟んで、ほぼ2週間後ね。慌てて調べたってとこね。1ヶ月って載ってる」
「何で1ヶ月なんだ? 日曜からだとおかしくないか?」
「あぁ。男の人だと分からないか。最後の生理の初日から数えるのよ」
「妊娠してなくてもか?」
「そうなのよ。だからたまにおかしいって疑う旦那さんがいるのよ」
「そうか」(覚えておこう)

記事に指を滑らせたミリファが、その指でテーブルを叩き始める。
直ぐに音が止まり、顔を上げて俺を見る。

「あのね、先日、祥子と一緒に征司の出た大学に行ったのよ」
「フルートがピアノ協奏曲でピアノの音を喰ったそうだな」
「凄かったわよ。ピアノ以外を惹き込んでから、一気にいったもの。あ、違うのよ。その話じゃないの」
「じゃ、何だ?」
「シェリルよ」
「シェリル?」
「あの子、相変わらず気持ち悪そうにしてたのよ」
「緊張するからってエリックに聞いたぞ」
「そう?」
「俺も気になってたからエリックに話したら、シェリルがそう言ったって」
「…そう。でも、思い出してみて。定期演奏会の練習。本番じゃないのに緊張する?」
「俺等に合わせてたからだろ」
「でもさ、エリックと二人で練習してた時でも、トイレに駆け込んできたわよ」
「エリックに緊張してたんだろ。好きなんだから」
「好きだったら、気持ち悪いなんて印象悪くするじゃない。征司だったらどうよ。女の子が気持ち悪いなんて出て行ったら、自分を好きなんて思える? 吐く程緊張されて」
「…いや」
「そうでしょ。私だってそんな姿、好きな人に何度も見せたくないわ。だから緊張のせいじゃないって、そう思うのよ」
「ミリファは何のせいだって思うんだ?」
「今だったら、つわりよ。それで皆、納得させられるわ」
「つわり?」
「妊婦さんがかかるやつよ。気持ち悪くなったり、頭痛になったり、人それぞれだって言うけど、私の友達なんか酷くなって入院してたわ」

そう言ってから、またミリファの指がテーブルを叩き出して止まる。

「征司。エリックからシェリルが付き合ってた人が居るとか居たとか聞かなかった?」
「それは聞いてないな」
「祥子からも聞いてないのよ。でも、シェリルがつわりだとしたら、エリックと関係する前から、赤ちゃんが居たって事になるのよ」
「断言出来るのか?」
「断言は出来ないけど。でも、今のシェリルの体調は定期演奏会の練習の時と同じに思うのよ」
「そうであって欲しいんだろ」

そう言ったらミリファが俺の眼を見る。

「私は祥子の味方よ。祥子とエリックは、お互いまだ愛してるのよ。それが分かるのよ」
「祥子もまだエリックを?」
「そうよ。だから仕事を沢山入れてるのよ。それで気を紛らわせてるのよ」
「エリックも同じだな」
「いずれ…他の男性に向かえると思うわ。でも、その前に修復出来るなら。私の考えが思い込みで間違っていたら仕方ないけど」
「だが、祥子はシェリルを抱いた事を許せないかもしれないぞ」
「それでも…」

そう言うミリファに問いかけてみる。

「ミリファ、君だったら?」
「私だったら、征司の心迄盗られてから戻ってきたら、その時は許さないわ。征司は?」
「俺は…許してしまう」
「征司は優しいのね」
「二度目は無いけどな」
「ふふ。怖いわ」

ミリファの指がもう一度トンと叩かれた。

「私、祥子の為に動くわ。今なら外の仕事が入ってないのよ。征司も時間あったら一緒にね。一人だと見えなくなる時があるから」
「分かった」

お節介になるかもしれないが、ミリファが祥子を想う気持ち、俺がエリックを想う気持ちは同じだと思う。



翌日、昼に俺が外の仕事を終えて練習所に戻って来ると、カフェにミリファが居た。
ミリファが俺に気づく。

「征司、お帰りなさい」

ミリファが俺をテーブルに手招くから、コーヒーを買って向かいに座った。テーブルの上にノートが開かれていた。

「何書いてるんだ?」
「今迄の事をまとめてたの。一緒に確認して」
「あぁ」

横に伸びた線に日付が書かれていて右端が今日になってる。
左の四日前には、「大学公演」と書いてある。

「四日前に私と祥子がシェリルと大学で演奏したのよ」

そこから少し離れた左側の印の下には「雑誌」と書いてある。

「雑誌が出た日よ。病院のツーショット写真の日付はこの3日前。丁度定期演奏会から8日経ってるの。雑誌に書かれてたのは妊娠1ヶ月」

「病院」と書いてある印に赤で1ヶ月と書いてある。
「病院」の左に「定期演奏会」と書いてあった。ここ迄を俺が来る前に書いてたんだ。

「演奏会の練習で2週間よね」
「あぁ」

「定期演奏会」から2週間分左に赤で斜線を重ねる。
エリックとシェリルはこの期間で一度。その日である日曜日にバツを書いた。
ノートから顔を上げたミリファは慌ててノートを閉じた。

「あ、リサ。お昼終わったのね。ちょっと教えて欲しいの」

丁度、俺達のテーブルを通り過ぎようとしてたリサが立ち止まる。

「何? お二人さん」
「どうぞ座って」

リサが俺とミリファの間の椅子を引いて座った。



古株のリサは楽団の人間関係に詳しく、面倒見のいい人だ。
家庭を持っているからか、母親を相手にしてるようで、少し困る時があるが。
リサが俺を見て聞いてくる。

「征司は今日どこに行ってたの?」
「今日はCMの音を録りに」
「そう。うちの祥子もちょっと顔出して直ぐに外の仕事よ。お陰で、アガシが「祥子に頼まれてるから」って張り切っちゃってねぇ。大変よ」

呆れた様に両手を上げて見せたからミリファと笑ってしまった。

「…祥子も可哀想ね。あの記事が本当だったからね」

リサがため息をついた。俺はリサに問いかける。

「フルートパートは皆、知ってるって事になるのか?」
「そりゃね。雑誌に出ちゃえばあっという間に知れ渡るものよ。おめでたい話なんだけど、相手が予想外だから信じられないのよ。エリックが軽率な事したなんて」
「ええ。間違いであって欲しいのよ。だから、リサに聞きたいのよ」

リサがミリファを見てから俺に視線を向けるから、俺は頷いて返した。
ミリファが口を開く。

「ねぇ、リサ、妊娠してつわりっていつ頃から起こるの?」
「あら、ミリファも?」
「やだ。違うのよ。私じゃないの。でも知りたいの」

大慌てのミリファにリサが笑う。

「そうねぇ。私の時は早かったわ。1ヶ月位には気持ち悪かったのよ。妊娠に気づいたのが3ヶ月目だったんだけど、それまで体調崩したのかと思ってた位。まぁ、人それぞれって事よ。「つわり」なんか無かったって妊婦さんもいたし、私だって吐く迄はいかなかったもの」
「定期演奏会のシェリルの状態をつわりだと言っても通用する?」

リサが思い出す様に口に手を当てる。

「そうね。そんな風にもとれるわね」
「うん。そうよね」
「でも、それなら正しいわよ。定期演奏会の練習で出会ってからって書いてあったもの。体の中の異変よ。直ぐに体調崩す人が居るわよ」

リサが言った。

「だけど、リサ。一番最初の定期演奏会の練習中もシェリルは気持ち悪かったのよ」
「あっ。そうだったわね。一緒に見たものね。ヘンリーも居たわ」
「そうよ。四人で話してた。それに、その時はエリックも征司も公演中で居なかったのよ。エリックとシェリルは出会ってないのよ」
「その日は緊張してたんじゃない? 初めてのオーケストラで」
「まぁ、そうね」

ミリファが少し残念そうに答えた。それと同時にリサが何かを思い出したようだ。

「あ、ミリファ、ちょっと待って。その時、祥子が言ってた。えっと。演奏会の前の事よ。前」
「前?」
「ヘンリーが茶化したのよ。その後で祥子が言ったのよ」
「ヘンリーが茶化す? 茶化す。…えっと。シェリルの音が合わないからそれを話してたのよ。コツを…あっ、「怖い」よ。「怖い」。ヘンリーが、シェリルは祥子が怖い、って言ったのよ」
「そうそう。ミリファ、それよ。それで祥子がその前のシェリルとの演奏会の時も気持ち悪そうにしてた、って」
「リサ、その演奏会っていつ頃か覚えてる?」
「えっとねぇ。定期演奏会の練習が始まる1週間位前よ。祥子とでも緊張してたのかしら。何かスッキリしないわね」

ミリファの指がトントンとテーブルを叩き出した。

「記事だと1ヶ月って書いてあったわよね。病院が教えたのかしら」
「まさか。今はマスコミに聞かれても教えないだろ」

最近の個人情報は守られているから、俺はミリファにそう言った。リサが頷いて口を開く。

「そうよ。病院は部外者に教えないわ。あの記事だとシェリルかエリック、もしくはその身内か友人ね」
「リサ、もし、もしもよ、2ヶ月を1ヶ月って言っても大丈夫なの?」
「ひと月なんて誤差の範囲だもの。早く産まれたのよって言えるわ」
「え? そうなの?」
「そんなもんよ。男が産むわけじゃないから、どうとでも言えるわ。診察室にべったり貼り付いてくるダンナじゃなければね。それに必ず予定日に産まれる訳じゃないし」
「まぁ。そうよね」
「あら、変な事教えちゃったかしら」
「大丈夫よ。私はそんな事しないわ」
「あらあら、お熱い事。あ、マズイ。アガシに怒られちゃうわ。早く食べて戻って来るように言われてたのよ」
「引き止めてごめんなさい。リサ、ありがとう」
「どういたしまして」

リサが席を立って行き、思い出したように振り向いた。

「シェリルは祥子と同じ香水使ってたわよ」
「えっ?」
「それっていつ頃からだ?」

ミリファが驚き、俺も驚いてリサに聞いた。

「えっとね、ガド爺3度目の時よ。祥子に教えたら、前の公演会でシェリルに聞かれたって」
「そうか」

エリックは祥子の香りがしたからシェリルを間違って抱いたのか。

リサがカフェから居なくなったのを確認して、ミリファがノートを開く。ペンを持って書き足していく。

 同じ香水

「ガド爺3度目は火曜日だったわ。そして、祥子がシェリルと出会った演奏会がここ」

定期演奏会の練習が始まる1週間前に印をつけた。

「つまり、この演奏会でもシェリルは気持ち悪かったのよ。なら、それをつわりだとすれば、だいたい2ヶ月目、ここの1ヶ月は間違いになる」

ミリファが「1ヶ月」の下に「2ヶ月?」と書いた。

「リサが言うように誤魔化す事は可能だな」
「そうよ」

余白に書き出していく。

- 気持ち悪いは「つわり」?
- いつからが「つわり」? 定期演奏会の前か後か
- 定期演奏会の前の場合、父親は誰?
- シェリルと付き合ってた男が居るのか?
- エリックには記憶無し

「ねぇ、記憶が無いのに、分かるものなの?」
「え、あ、まぁ、分かる」
「どうして? 何かあるの?」
「…バカ。分かるもんなんだ」

そんな事言えるか。女には分からないデリケートな事だ。

「そっか。ま、それはいいか」

ミリファの指が動く。

「こうなったら、父親は誰、よ。シェリルと付き合ってた男が居るか。誰か知ってる人が居れば。そうだ、征司の大学を出た人よ。何か知ってるかも。ここ2、3年に入ってきた人」
「聞いてみるか」
「そうね」

そこで時間になったからそれぞれのパートに戻って練習になる。
練習の合間に、俺は聞いて回る。同じ大学を出たからと言って、知ってる人は居なかった。

「征司、どうだった?」
「名前位で、さっぱりだ」
「木管もそうだったわ。事務のほうでいないかなぁ」
「エドナに聞くか」
「そうね」

時間が終わり、皆が帰り始めてから、エドナの居る部屋に行った。

「ねぇ、エドナ。ちょっといい?」

帰り支度をしてたエドナが手を止めた。

「二人して何?」
「征司の出た大学の人って事務の人で居ない? 最近入った人がいいんだけど」
「ちょっと待って。えっとね、今日は外に行っちゃってるわ」

スケジュール表に顔を向けてエドナが言った。

「他には?」
「居ないわ。シドはうんと前だしね」
「そうね」
「あなた達、何を聞きたいの?」

そうエドナに聞かれて、ミリファと俺は口ごもる。ミリファが何とか口を開く。

「シェリルの事知ってる人居ないかなと思って」
「シェリル…あぁ、あの子か。で?」
「シェリルってエリックと付き合う前に彼が居たのかな~って思って」
「居たわよ」
「居たんだ…って?! えっ?! エドナがどうして知ってるの?!」
「祥子から聞いたもの」
「祥子から聞いた?!」
「えぇ。そう聞いたわよ」
「い、いつ?!」
「いつって。雑誌が出た日よ。祥子が服とりにアパートに戻ってたから、一緒に飲んだのよ。その時に聞いたわ」
「そ、それって祥子は誰に聞いたの?」
「シドの妹さんって言ってたわ。マリーって言ったかな」
「エドナ、ありがとっ! シド、シドは?」
「まだ仕事中よ」

そう言って奥の部屋を指さした。

「エドナ、エドナ、本っ当~にありがと! 祥子と飲んでてくれてありがと!」

ミリファが奥の部屋に駆け寄るのを見て、エドナが俺を見て首を傾げる。

「征司、彼女、どうしたの?」
「ちょっとな」
「祥子とエリックの事?」
「あぁ。ミリファが疑問を持ってね」
「他人の恋愛に首は突っ込まないほうがいいわよ。って言いたいところだけど、私も気になってたのよ。何か助けが必要だったら言って」
「それは助かるよ」

ミリファが奥の部屋を叩いて戸を開けた。

「征司、来て」
「あぁ」

部屋に入るとシドが机に向けてた顔を上げた。

「ミリファと征司ですか。どうしました?」
「シドの妹さんに会わせて下さい」

ミリファが前置きも無くシドに言ったから、シドが驚いてミリファを見た。

「えっ? 私の妹? マリーの事ですか?」
「そう。そのマリーさんに会いたいんです」
「いいですけど…何故?」
「あ。…えっと」

ミリファが俺を見る。

「シドには話しておこう。祥子はシドの家に居るんだ」

祥子がシドの家に居る事は、エリックと祥子から直接聞いていた。

「そうね。あの、シド。私達、マリーさんにシェリルの事で聞きたい事があるんです」
「シェリルの事ですか。君達が聞きたいのは、祥子とエリックの件で…なんですね」
「「 はい 」」
「私も気にはしてました。シェリルには付き合ってる彼が居ると聞いてましたから。マリーは同じ大学なんですよ」
「シド。私、そこを知りたいんです。その彼とはいつ別れたのかって。どうして別れたのかって」
「そうですね。マリーに話しておきます。あ、会うのは早いほうがいいですか?」
「はい」
「なら」

シドが電話を掛ける。短いやりとりがあって電話を切った。

「直ぐこちらに向かうそうです」
「あら。悪い事しちゃったわ」
「大丈夫ですよ。マリーは祥子もエリックも好きですから」

そう言ってシドが笑った。俺は一緒に住んでるシドになら、祥子が何か言ってなかったかと思い聞いてみる。

「あの、シド。ひとついいですか?」
「何でしょう」
「祥子からこの件で何か聞いてませんか?」
「エリックと別れたから仕事を沢山入れてくれと。それだけです。詳細は雑誌で知りました」
「そうですか」
「マリーが来たら呼びに行きます。それと、大丈夫だとは思いますが、仕事に支障をきたさないように。そろそろ定期演奏会の準備ですよ」
「「 はい 」」

シドの部屋を出て、ミリファが言った。

「釘刺されちゃったね。征司も巻き込んで、ごめんなさい」
「いいんだ。エリックは大学の時、世話になったんだ。祥子だって友達だから」
「うん」
「それに、ミリファが納得するのが一番大事だ」
「征司、ありがとう」

軽くミリファがキスをくれた。


- TO BE CONTINUED -
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