#34 修復 <エリック視点>

文字数 895文字

「エリック、会いたいの」
()ぐ行く」

祥子からの短い電話を貰い、征司とミリファにお礼を言って、一目散(いちもくさん)にアパートの前に行った。ブザーを押す前にアパートの玄関が開いた。

「…上から見えて」

祥子が恐々(こわごわ)とだったが、俺の顔に視線を向けて言った。

「祥子、ありがとう」

階段を上がりながら言葉はかわせないでいた。
祥子の家に入ると、音が流れていた。

「この曲…」
「征司が持ってきてくれたの」

定期演奏会の曲だ。俺が祥子を掴んだ曲。

「…座って」
「あ、そうだね」

さっき征司が来てたのを感じる事が出来ない。征司とは何も無かったんだ。

(こんな時なのに、何考えてるんだよ!)

祥子がボリュームを大きくした。声を大きくしなくちゃ聞き取れない位だ。
なのに、耳に祥子の声が届く。

「ごめんなさい」

はっきりと聞こえてきた。顔を後ろに向けようとして、祥子の手が俺の顔に添えられて向けないままだ。

「エリックを傷つけてごめんなさい」
「あぁ。傷ついた」
「ごめんなさい」

後ろから祥子の腕が絡まってきた。祥子の頬が俺の首に触れた。

「ごめんなさい。エリック、ごめんなさい」
「祥子、もういい」

俺の前で合わされた祥子の手に俺の手を重ねた。一瞬、祥子の腕に緊張が走った。

「祥子、顔を見せて」

絡んでた腕が離れて、祥子が俺の横に来る。俺は立ち上がって、祥子の頬に手を当てる。ビクッと祥子の体が揺れた。揺れたけど、祥子は俺と視線を合わせてくれている。

「大丈夫か?」
「うん」
「痛くないか?」
「うん」
「俺…怖くないか?」
「うん」
「良かった」
「うん」

丁度、音が止んだ。
それを待ってたかのように祥子の頬に一筋伝う。

「キスしていいかい?」
「…うん」

ゆっくりと唇を合わせた。



俺と祥子は、ベッドではなく、クッションを積み上げた中に埋もれている。
祥子が俺の腕を掴み、体を預けてきた。俺は祥子を引き寄せて、抱き締める。

「祥子…」
「…うん」

ゆっくりと祥子に触れていったら、祥子の体が震え始めた。

「祥子、今日は抱き締めているだけでいい」
「…ごめんなさい」
「このままで、朝を迎えよう」
「…うん」

祥子を抱き締める。
祥子の寝息が聞えてきて、俺も眠りにおちて行った。



- #34 F I N -
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