第70話 自白と記者会見の同時配信

文字数 1,648文字

プラット博士が意識を取り戻した。
貴様ら、いったい何のつもりだ!
博士に、ネット上でお話しいただきたいと思いまして。
米軍から日本の大学への資金援助のことなら、いくらでも話してやる。何のやましいこともない、純粋な学術振興への協力だ。


米軍の大学への資金援助については、第61話「米軍は日本の大学に資金援助している」をご参照ください。資金援助そのものは、新聞報道がされており、事実と見てよいと考えます。

https://novel.daysneo.com/works/episode/9af2ca19ec0b1ba29743d0f22a6694ec.html

ええ、そのように理解しています。

しかし、資金援助の打ち切りをちらつかせて、日本の大学教授をCIAの非合法破壊活動に協力させたとなると、話は違ってきます。

何の話だか、サッパリわからん。
おわかりにならなければ、それで結構。これから博士にお話しいただく内容は、私どもが用意してありますので。
慧子がパソコンを操作すると、初老の男性の英語が流れ出す。
これは、私の声ではない!
それに気がつく日本の一般市民が、どのくらいいるでしょう?
お前たちは、私をハメる気だな。そうは行くか。私は、ひと言もしゃべらない。
もちろん、そうおっしゃると思って、用意させていただいたものがあります。
「M」が目にも止まらぬ速さで注射器をプラット博士の首筋に突き立てた。
これはなんだ? 私になにをした!
気持ちよ~く、お喋りできるクスリだよ。話す中身なんか、なんでもいいんだ。ともかく、しゃべり続けてくれ。
コータローはカメラの後ろでモジモジしていた。
(心の中で)「M」さん、慧子さんはネイティブ・イングリッシュじゃないか。アオイさんは日本語なまりがキツイけど、でも、ちゃんと通じてる。しかも、宝生さんまで会話に加わって……ここで英語でしゃべれないのは、ボクだけなんだ。
待てよ? お前らは、とんでもない大バカだ。ここで私が大声で喋ればカメラのマイクが私の声もひろう。お前たちがでっち上げを配信していることが、たちまちバレる。
パソコンからネットに画像と音声を送る時、私の声だけを拾って送るようプログラムしてあります。博士がどれだけ大声を出しても、ネット配信する映像には流れません。
●●●●!(公共の小説投稿サイトに書き込むのがはばかられる四文字言葉)。ハハ、こんな羽目になったのは、霧島のせいだな。アハハ、アハハ (怒っているのに、笑いが止まらない)「基礎科学振興センター」の警備員に霧島の拉致を命じたが、失敗だったようだ。CIAの工作員に頼むべきだった。
世津奈が佐伯警視正に電話を入れる。
警視正、こちらは歌い始めました。記者会見の用意はできましたか?
(電話の向こうで)経団連の記者クラブが満員だ。クラブの幹事社に圧力をかけてテレビ局も入れさせたから、すぐに映像がネットに流れるぞ。
わかりました。では、2分後に同時スタートしましょう。
「M」さん、プラット博士の、このヘラヘラ笑ってるのは何とかならないっすか? 証言に重みがなくなっちゃいます。
確かに、困ったわね。この薬でこんなに笑い出す人は初めてよ。体質的な何かがあるのでしょうね。
あたしが、時々、後ろからドツくか?
いやいや、アオイさんがカメラに映っちゃマズイっしょ。
せっかく喋ってくれてるのに、下手なことをして黙られたら大変です。このまま笑っていても、視聴者は重大告白のプレッシャーで笑うしかなくなったと思ってくれますよ。
出たっ! 壮絶な楽観主義。
(心の中で)この笑いに合わせて告白文を読むわけね。
はい、スタートです。
アオイがカメラと接続していない別のパソコン画面をのぞき込む。夕日テレビが創生ファーマの記者会見のライブ配信を始めた。

WeTubeを開くと、プラット博士が笑いながら話している映像が配信され、初老の男性に声化けした慧子が笑いも織り交ぜながら用意した告白文を読み進めている。

(心の中で)へぇ、慧子やるじゃん。これなら声優が務まるよ。
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登場人物紹介

山科 アオイ  17歳


アメリカ国防総省が日本に設置した秘密研究所で放電能力を持つ生体兵器に改造された少女。

秘密研究所を脱出した後、国家や企業から命を狙われる個人を保護するグループ「シェルター」に拾われ、「シェルター」が保護している人々のボディガードとなる。

山科アオイは、国防総省から逃れた後に名乗っている偽名。本名は、道明寺サクラ。


《放電能力》


※非接触放電  有効射程 20メートル

・単独のターゲットに致死的な電流を浴びせる設計だったが、アオイを暗殺兵器にしたくなかったレノックス慧子が故意に改造手術をミスしたため、致死量の放電はできない。

・設計にはなかった複数のターゲットを同時に攻撃する能力が発現している。


※接触放電  対象と身体を接して放電し対象を金縛りにする事ができる。


レノックス 慧子/アオイの相棒  37歳


元は、アメリカ国防総省で特殊兵器を開発する技術者だった。

日本人の両親の間に生まれたが、両親が離婚し母がアメリカ人と結婚したため、レノックス姓を名乗っている。


慧子を含む5人を「放電型生体兵器」に改造した。そのうち4名は職業軍人で改造されることを志願した者たちだったので、設計どおり致死能力を持たせた。

しかし、国防総省に拉致された民間人であるアオイに対しては、設計上求められていた致死能力を与えなかった。このため、アオイは一度も暗殺兵器として利用されていない。

アオイが秘密研究所を脱出するのを助け、後に自らも国防総省を離脱してアオイに合流して、2人で「シェルター」のボディガード役を務めている。

M 年齢不明


「シェルター」内でのアオイと慧子の「世話役」。アオイ達と「シェルター」の関係を調整する。

「シェルター」は組織に追われる個人をかくまうが反撃はしない非抵抗主義を貫いていたが、強力な戦闘力を持つアオイが加わっったため、一定限度の自衛力を持つ方向に転換した。

しかし、アオイ達の活動と「シェルター」本来の非抵抗・非暴力主義との関係は微妙で、Mは、常に難しい舵取りを求められる。

元はロボット工学の権威で、現在でも、アオイと慧子に様々な偵察・攻撃用の超小型ロボットを提供している。

宝生 世津奈(ホウショウ セツナ) 35歳


産業スパイ狩りを専門の調査会社「京橋テクノサービス」の調査員。

以前は、警視庁生活案全部生活経済課で営業秘密侵害事案を扱っていた。


ITとクルマに弱く、この方面では相棒のコータローに頼りっきり。


ホワっと穏やかだが、腹が据わっていて、必要とあれば銃を取って闘うこともためらわない。

コータロー(本名:菊村幸太郎) 27歳


調査員。宝生世津奈の相棒。

一流大学の博士課程(専攻は数理経済学)で学んでいたが、アカデミック・ハラスメントにあって退学。2年間の引きこもりを経て、親戚の手で「京橋テクノサービス」に押し込まれる。

頭脳明晰で、IT全般に強い。空手の達人で運転の腕も一流。


アカハラの後遺症で「ヘタレ」の傾向がある一方、自分が納得しさえすれば身の危険をいとわない勇敢さも持ち合わせている。

和倉 良一  35歳


日本有数の製薬会社、創生ファーマの研究員。

創成メディカルは、公には人工的に合成した臓器を新薬開発に用いているとしているが、実は、実は手術患者から摘出した臓器を用いていた事を知り、会社を内部告発する決意をする。その直後に、何者かかに命を狙われ、「シェルター」に助けを求めてくる。

アオイと慧子の警護対象者。

近江 正一 50歳


産業スパイ専門の調査会社「京橋テクノサービス」の付属救急センターで働く外科医。NGO「国境を越えた医師団」の一員として紛争地の野戦病院経験が長く、腕は確か。ただ、スピードを重んじるあまり、仕上げが荒い傾向がある。

頭に傷を負ったアオイを会社に秘密で応急処置した後、知人の外科医、川辺憲一にゆだねる。

川辺 憲一 28歳


若き天才外科医。大学病院の医局で起こったある事件が原因で病院を追われた上に医師免許も剥奪された。しかし、本人は、「運転免許のような更新制度のない医師免許は、終身免許だ」とうそぶき、闇で医師稼業を続けている。近江医師とは、長年の知り合い。

イケメンかつ女性大好き男で、彼の自宅兼マンションには女性の出入りが絶えない。一方で、公私を厳しく分ける潔癖さも示す。

佐伯 達彦 47歳


警察庁生活案全部の特命係長。階級は警視正。

総理大臣のイスを狙う野心家で、警察庁警備部に強いライバル意識を持っている。

人間を組織内の位置づけでしか評価できない男。警察を辞めた世津奈を警察時代の階級で呼び続けて、世津奈を鼻白ませる。

ただし、世津奈の粘りと度胸は評価している。

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