第24話 「ダーティ・世津奈」
文字数 1,494文字
「シェルター」が和倉さんを受け入れるかどうか決定したら「Ｍ」から連絡がくることになっているけど、まだ来ない。こちらから問い合わせてみる。
慧子は、「Ｍ」から渡された「飛ばし」のスマホを取り出し、LINEで「状況確認願う」を意味するスタンプを送る。
まだ結論は出ていない。結論が出るまで和倉さんの保護継続と指示が来た。
そうですか。わかりました。
片瀬洋子さんは、どうするの？
片瀬さんは、私たちの会社「京橋テクノサービス」で保護したらどうかと思うのですが、慧子さんは、片瀬さんから訊き出したいことがありますか？
訊きたいことはいくらでもある。でも、和倉さんと一緒だと、片瀬さんがまた危険に巻き込まれる恐れがある。あなたの会社、「京橋テクノサービス」で保護してもらう方がベターね。だけど、あなたとコータローさんは、もう、「京橋テクノサービス」の社員ではないのでしょ？
和倉さんをリクルートする契約は、「闘う会」と「京橋テクノサービス」が結んだもので、私とコータローーは社長から担当を任せられただけです。今でも片瀬さんはクライエントですから、「テクノサービス」は新しい担当者をつけて彼女を守る義務があります。
あなたたちが言う「Ｇマター」でも？
「Ｇマター」でも、クライエントの安全第一であることは、変わりません。
「Ｇマター」になったからといってクライエントを放り出したら、会社の信用が傷ついて、商売を続けられなくなります。
なるほど。「シェルター」はボランティア活動だからリスク回避が優先だけど、あなた達はビジネスだから必要なリスクは取るわけね。
はい。では、さっそく会社に連絡します。私はもう社員ではないので、近江先生から社長に申請してもらうよう、根回しはしてあります。
そこまでしていたのに、私の意見を聞いてくれたわけ？
もちろんです。私たちは「一連托生」ですから。
世津奈、ポケベルを取り出し、数字を打ち込む。
あら、ポケベルって、もうサービスが停止されたんじゃないの？
自治体向けの防災無線サービスの提供が続いていて、「テクノサービス」は何かのつてをたどって、もぐりこんだみたいです。
「京橋テクノサービス」には、それなりの政治力もあるってことね。
みたいです。
あのぉ……一つ、余計なことをうかがってもいいですか？
いいわよ。聞きたくない話だったら無視して、なかったことにするから。
「シェルター」も、結局は和倉さんを受け入れざるを得ないのではないでしょうか？
彼は怪しい人物ですが、「シェルター」のことを知っています。野放しにしておくよりは、「シェルター」で受け入れて監視下においた方がいいような気がします。
うふ。まぁ、常識の行く着くところは、そんな感じかしら。
和倉さんのここへの移送は、どうしましょう？
こちらから迎えに行きますか？ 私たちは全員部外者ですが、近江先生がクリニックの通用口まで連れ出してくださいます。
迎えに行きたいところだけど、私たちのバンは誰かに目をつけられているかもしれない。
あなたの会社にお願いすることはできる？
医療センターから他の医療機関に患者さんを移送する特別チームがいます。
尾行を巻く訓練を徹底して受けてるから、任せて大丈夫っすよ。
片瀬さんの移送も彼らに任せます。こちらも、近江先生経由で根回ししてあります。
では、そちらでお願いします。あなたが近江先生と信頼関係を作ってくれていて、助かったわ。
私は、近江先生の上得意ですから。
つまり、ケガ人を近江先生所に診てもらうような危ない仕事をたくさんこなしてきた。
世津奈さん、社内では「ダーティ・世津奈」って呼ばれてたんすよ。
人は見かけによらないものね。
