第62話 命がけの取引⇒改題:佐伯警視正、狡猾な取引

文字数 1,878文字

今頃、創生ファーマの中は上を下への大騒ぎでしょうね。
社長自ら、違法な臓器購入を白状しちゃったんすから。
あれは、金で買われたCIAの不良工作員に脅されて言ったことだ。
CIAが脅したっていう証拠はない

だけど、臓器密売業者からヒト臓器を買ったことなら、あたし達が証拠を握ってる。

和倉警視正、創生ファーマは、日本の企業と官庁が苦手な「ダメージ・コントロール」に集中しなきゃいけないんです。
「ダメージ・コントロール」だと?
ヒト臓器を違法に購入した不祥事のマイナスを最小にする具体策を立て実行するんです。
王道は、洗いざらい真実をぶちまけ謝罪し、早急に是正策を立て実行に移すこと
日本を代表する名門企業に、そんなみっともないことは出来ない!
「みっともないことは出来ない」―そのくだらないプライドのせいで、多くの組織がダメージ・コントロールに失敗してきたのです。
どうしても真実を明かしたくない時に使える手がある。それは、迅速に大量のポジティブ情報を流して、人々の関心をそっちに向けること。内政で失敗した政治家が外交で点を稼ぐ。あれだ。
和倉さんが開発したマラリアの特効薬をNGOに無料で提供し、和倉さん達研究開発スタッフをNGOに出向させる。不祥事をカバーできるポジティブ・アクションです。
貴様ら、どうしても、創生ファーマを外したいのか!
創生ファーマは、自分で墓穴を掘った。本当なら、助けてやる必要なんか、ない。

あんたが創生ファーマが大事だと言うから、創生ファーマの面子が立つ方法を考えてやっただけだ

創生ファーマが信用を失ったら、創生ファーマと癒着してる代議士先生も困るんじゃないすか?
さっきから、何度言ったら、わかる。創生ファーマと癒着している政治家など、存在しない。断じて、おらん!
佐伯警視正、私たちの誠意と知恵をご理解いただけないなら、取引に切り替えます。

どんな取引だ?
私たちは、創生ファーマが違法にヒト臓器を購入した証拠を握っています。これを公表したら、社長の自白とダブルパンチで、創生ファーマは破滅します。
貴様、日本国を脅迫する気か!
マラリアの特効薬をアフリカの子ども達に届けるためなら、あたし達は、日本だろうが、アメリカだろうが、いくらだって脅迫してやる!
貴様ら、コンクリート詰めになって東京湾に沈みたいのか!
私たちが沈むときは、警視正も道連れです。
宝生、それが、恩義あるかつての上司に言う言葉か!
私の中では、ご恩返しは、とっくの昔に終わっています。
佐伯、頭を冷やして、よく聞け。貴様が創生ファーマを説得してマラリア特効薬をNGOに無償提供させれば、俺たちは、創生ファーマが違法にヒト臓器を手に入れたことは、黙っててやる。
今、池辺先生がおっしゃったのが、私が考えている取引の中身です。
創生ファーマがNGOに無償でマラリアの特効薬を提供すれば、ヒト臓器売買での悪評を打ち消す効果があるでしょう。
駄目だ。それでは、取引にならない。創生ファーマがマラリアの特効薬をNGOにタダでくれてやったからって、ヒト臓器を闇取引したという悪評は、消えない。
消えるわけないだろ! 本当に闇取引してたんだ!
貴様らが闇取引はなかったことにしてくれるなら、創生ファーマを説得して、和倉新薬をNGOにタダで提供させる。
どうして、私たちが創生ファーマのヒト臓器闇取引をなかったことに出来るなどと、思うんですか?
貴様らなら、創生ファーマの工藤社長に自白を強要したCIA工作員をつきとめ自白の強要を告白させ、その告白をネットで公開できるはずだ。
私たちに、そんな力はありません。
そうか、だったら、取引もなしだ。貴様らが創生ファーマの臓器闇取引の証拠を公開したいなら、勝手にするがいい。我々は、創生ファーマのことは、もう見限ることにする。
警視正が創生ファーマを見捨てたら、警視正の背後にいる政治家先生が黙ってませんよ!
20年前に政界から引退しているべきだった老害政治家が何を言おうと、知るか! 創生ファーマと一緒にくたばりやがれ!
警視正、開き直りましたね。
今度は、貴様らが考える番だ。私の取引に乗らなければ、創生ファーマはつぶれる。だが、アフリカの子ども達にもマラリア特効薬は届かない。取引に乗れば、創生ファーマは生き残る。そして、アフリカの子ども達にもマラリア特効薬が届く。どっちを選ぶ?。どっちを選ぶ?
考えたわね。
金で買われた不良工作員といえども、CIA工作員を日本の警察が叩くと面倒なことになる。警察の代わりに私たち民間人に、不良工作員退治をさせようって腹ですね。
くそ、なんて卑怯な野郎だ!
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登場人物紹介

山科 アオイ  17歳


アメリカ国防総省が日本に設置した秘密研究所で放電能力を持つ生体兵器に改造された少女。

秘密研究所を脱出した後、国家や企業から命を狙われる個人を保護するグループ「シェルター」に拾われ、「シェルター」が保護している人々のボディガードとなる。

山科アオイは、国防総省から逃れた後に名乗っている偽名。本名は、道明寺サクラ。


《放電能力》


※非接触放電  有効射程 20メートル

・単独のターゲットに致死的な電流を浴びせる設計だったが、アオイを暗殺兵器にしたくなかったレノックス慧子が故意に改造手術をミスしたため、致死量の放電はできない。

・設計にはなかった複数のターゲットを同時に攻撃する能力が発現している。


※接触放電  対象と身体を接して放電し対象を金縛りにする事ができる。


レノックス 慧子/アオイの相棒  37歳


元は、アメリカ国防総省で特殊兵器を開発する技術者だった。

日本人の両親の間に生まれたが、両親が離婚し母がアメリカ人と結婚したため、レノックス姓を名乗っている。


慧子を含む5人を「放電型生体兵器」に改造した。そのうち4名は職業軍人で改造されることを志願した者たちだったので、設計どおり致死能力を持たせた。

しかし、国防総省に拉致された民間人であるアオイに対しては、設計上求められていた致死能力を与えなかった。このため、アオイは一度も暗殺兵器として利用されていない。

アオイが秘密研究所を脱出するのを助け、後に自らも国防総省を離脱してアオイに合流して、2人で「シェルター」のボディガード役を務めている。

M 年齢不明


「シェルター」内でのアオイと慧子の「世話役」。アオイ達と「シェルター」の関係を調整する。

「シェルター」は組織に追われる個人をかくまうが反撃はしない非抵抗主義を貫いていたが、強力な戦闘力を持つアオイが加わっったため、一定限度の自衛力を持つ方向に転換した。

しかし、アオイ達の活動と「シェルター」本来の非抵抗・非暴力主義との関係は微妙で、Mは、常に難しい舵取りを求められる。

元はロボット工学の権威で、現在でも、アオイと慧子に様々な偵察・攻撃用の超小型ロボットを提供している。

宝生 世津奈(ホウショウ セツナ) 35歳


産業スパイ狩りを専門の調査会社「京橋テクノサービス」の調査員。

以前は、警視庁生活案全部生活経済課で営業秘密侵害事案を扱っていた。


ITとクルマに弱く、この方面では相棒のコータローに頼りっきり。


ホワっと穏やかだが、腹が据わっていて、必要とあれば銃を取って闘うこともためらわない。

コータロー(本名:菊村幸太郎) 27歳


調査員。宝生世津奈の相棒。

一流大学の博士課程(専攻は数理経済学)で学んでいたが、アカデミック・ハラスメントにあって退学。2年間の引きこもりを経て、親戚の手で「京橋テクノサービス」に押し込まれる。

頭脳明晰で、IT全般に強い。空手の達人で運転の腕も一流。


アカハラの後遺症で「ヘタレ」の傾向がある一方、自分が納得しさえすれば身の危険をいとわない勇敢さも持ち合わせている。

和倉 良一  35歳


日本有数の製薬会社、創生ファーマの研究員。

創成メディカルは、公には人工的に合成した臓器を新薬開発に用いているとしているが、実は、実は手術患者から摘出した臓器を用いていた事を知り、会社を内部告発する決意をする。その直後に、何者かかに命を狙われ、「シェルター」に助けを求めてくる。

アオイと慧子の警護対象者。

近江 正一 50歳


産業スパイ専門の調査会社「京橋テクノサービス」の付属救急センターで働く外科医。NGO「国境を越えた医師団」の一員として紛争地の野戦病院経験が長く、腕は確か。ただ、スピードを重んじるあまり、仕上げが荒い傾向がある。

頭に傷を負ったアオイを会社に秘密で応急処置した後、知人の外科医、川辺憲一にゆだねる。

川辺 憲一 28歳


若き天才外科医。大学病院の医局で起こったある事件が原因で病院を追われた上に医師免許も剥奪された。しかし、本人は、「運転免許のような更新制度のない医師免許は、終身免許だ」とうそぶき、闇で医師稼業を続けている。近江医師とは、長年の知り合い。

イケメンかつ女性大好き男で、彼の自宅兼マンションには女性の出入りが絶えない。一方で、公私を厳しく分ける潔癖さも示す。

佐伯 達彦 47歳


警察庁生活案全部の特命係長。階級は警視正。

総理大臣のイスを狙う野心家で、警察庁警備部に強いライバル意識を持っている。

人間を組織内の位置づけでしか評価できない男。警察を辞めた世津奈を警察時代の階級で呼び続けて、世津奈を鼻白ませる。

ただし、世津奈の粘りと度胸は評価している。

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