第76話 霧島教授をチャイナ・マフィアに売り込もう

文字数 1,761文字

だけど、支援金をちらつかせるというのは、無理スジだと思うわよ。
なんでだ? あの爺さんは、国防総省からに支援金欲しさに悪事に加担したんだぞ。
アオイ、その「爺さん」という呼び方は止めなさい。人間を年齢でくくるのは個人の尊厳を無視しています。しかも、「爺さん」には軽蔑の響きがある。呼び捨てでもいいから、せめて名前で呼びなさい。
わかった。霧島と呼んでやる。

だけど、資金提供が、なんで無理スジなんだ?

慧子さんと私は霧島教授の部屋で暴力団まがいの振る舞いをしてしまいました。大学での研究にお金を出すような人間には見えないと思います。
「『顧みられない熱帯病』と闘う会」に霧島との窓口役として雇われたことにすればいい。和倉の時は、そういう仕事を請け負ってたじゃないか。
アオイさん、「闘う会」を巻き込むの、はよくない。CIAが「闘う会」を敵視して活動を妨害するようになる危険がある。そうなったら、困るのは世界の貧しい人たちよ。
「『顧みられない熱帯病』と闘う会」は、和倉が産業スパイに売った情報をタダで手に入れて使おうとしたじゃないか。グレーな連中だぞ。
状況は変わりました。創生ファーマは、日本政府の働きかけで、和倉さんの抗マラリア新薬の知的財産を「闘う会」に売ることを提案します。「闘う会」は、国際的な信用を保つために、お金を払うしかありません。
グレーになりかけていたNGOが「白馬の騎士」に戻ったのよ。
先輩方は、「多少グレーでも『世のため・人のため』を第一に活動している人たちに迷惑をかけるな」というご意見なんすよね。相手が自分の利益のためだけに不正を働いている連中だったら、話が違ってきませんか?
そうか! 「肉屋」だ。あたし達が「肉屋」に霧島を売り込むメールを送って、それをCIAに傍受させればいい。
あら、二人ともイイことを思いつくわね。
「あら」は、あたし達の優秀な頭脳に対して失礼です。「さすが」と言ってください。
さすが、優秀な二人だわ。
(心の中で)なんか、シラけるんだけど……
イイ案ですが、売り込み先は「肉屋」でない方がいいでしょう。CIAは、私たちが「肉屋」と敵対関係にあることを知っています。
それは、そうね。
湾岸IRで和倉さんを拉致しようとしたチャイナ・マフィア「クリムゾン・タイガー」に売り込みましょう。

チャイナ・マフィア「クリムゾン・タイガー」については、次の2つのエピソードをご覧ください。


第13話「取引型尋問」

https://novel.daysneo.com/works/episode/98d93061fac2e60522156616dde39471.html

第14話「武装する」

https://novel.daysneo.com/works/episode/9b11f10c18fe3f3e3f2c02e093ef34fe.html

おっ、さすが「汚れた大人」! 思いつくことが違う。
(心の中で)これって、喜んでいいのかしら?
世津奈さんは、「クリムゾン・タイガー」と連絡をつけられるの?
「クリムゾン・タイガー」は産業スバイ業にも進出しているので、私は連中のフロント企業の連絡先を知っています。
宝生さん、「知っている」なんて言っていいんすか? 「京橋テクノサービス」には、「クリムゾン・タイガー」についてのファイルがありましたよ。だけど、あれは……
「紙」のファイルね。
そうです。「電子化された情報は必ず盗まれる」が社長の持論でしたから。会社を辞めたボクらがあのファイルに近づくのは不可能っす。
会社に行かなくても、わかるのよ。
えっ、どうやって?
ここで皆さんにお見せできないのは残念ですが、身体のある場所に耐水性ペイントで書きつけてあるのです。
ええ~っ!
警察時代からの習慣です。警察官は、自分の情報屋を同僚はもちろん、上司にも明かしません。自分だけにわかる方法で、連絡先を記録しておくのです。
つまり、私たちは、そのフロント企業を通して、霧島教授を「クリムゾン・タイガー」に売り込めるわけね。
はい。
では、その企業に霧島教授の売り込みメールを送りましょう。CIAがメールの発信元を突き止めるのにある程度苦労するように工夫する必要があります。コータローさん、慧子さん、手伝ってちょうだいね。
よし、やったぞ、これで目途がついた!
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登場人物紹介

山科 アオイ  17歳


アメリカ国防総省が日本に設置した秘密研究所で放電能力を持つ生体兵器に改造された少女。

秘密研究所を脱出した後、国家や企業から命を狙われる個人を保護するグループ「シェルター」に拾われ、「シェルター」が保護している人々のボディガードとなる。

山科アオイは、国防総省から逃れた後に名乗っている偽名。本名は、道明寺サクラ。


《放電能力》


※非接触放電  有効射程 20メートル

・単独のターゲットに致死的な電流を浴びせる設計だったが、アオイを暗殺兵器にしたくなかったレノックス慧子が故意に改造手術をミスしたため、致死量の放電はできない。

・設計にはなかった複数のターゲットを同時に攻撃する能力が発現している。


※接触放電  対象と身体を接して放電し対象を金縛りにする事ができる。


レノックス 慧子/アオイの相棒  37歳


元は、アメリカ国防総省で特殊兵器を開発する技術者だった。

日本人の両親の間に生まれたが、両親が離婚し母がアメリカ人と結婚したため、レノックス姓を名乗っている。


慧子を含む5人を「放電型生体兵器」に改造した。そのうち4名は職業軍人で改造されることを志願した者たちだったので、設計どおり致死能力を持たせた。

しかし、国防総省に拉致された民間人であるアオイに対しては、設計上求められていた致死能力を与えなかった。このため、アオイは一度も暗殺兵器として利用されていない。

アオイが秘密研究所を脱出するのを助け、後に自らも国防総省を離脱してアオイに合流して、2人で「シェルター」のボディガード役を務めている。

M 年齢不明


「シェルター」内でのアオイと慧子の「世話役」。アオイ達と「シェルター」の関係を調整する。

「シェルター」は組織に追われる個人をかくまうが反撃はしない非抵抗主義を貫いていたが、強力な戦闘力を持つアオイが加わっったため、一定限度の自衛力を持つ方向に転換した。

しかし、アオイ達の活動と「シェルター」本来の非抵抗・非暴力主義との関係は微妙で、Mは、常に難しい舵取りを求められる。

元はロボット工学の権威で、現在でも、アオイと慧子に様々な偵察・攻撃用の超小型ロボットを提供している。

宝生 世津奈(ホウショウ セツナ) 35歳


産業スパイ狩りを専門の調査会社「京橋テクノサービス」の調査員。

以前は、警視庁生活案全部生活経済課で営業秘密侵害事案を扱っていた。


ITとクルマに弱く、この方面では相棒のコータローに頼りっきり。


ホワっと穏やかだが、腹が据わっていて、必要とあれば銃を取って闘うこともためらわない。

コータロー(本名:菊村幸太郎) 27歳


調査員。宝生世津奈の相棒。

一流大学の博士課程(専攻は数理経済学)で学んでいたが、アカデミック・ハラスメントにあって退学。2年間の引きこもりを経て、親戚の手で「京橋テクノサービス」に押し込まれる。

頭脳明晰で、IT全般に強い。空手の達人で運転の腕も一流。


アカハラの後遺症で「ヘタレ」の傾向がある一方、自分が納得しさえすれば身の危険をいとわない勇敢さも持ち合わせている。

和倉 良一  35歳


日本有数の製薬会社、創生ファーマの研究員。

創成メディカルは、公には人工的に合成した臓器を新薬開発に用いているとしているが、実は、実は手術患者から摘出した臓器を用いていた事を知り、会社を内部告発する決意をする。その直後に、何者かかに命を狙われ、「シェルター」に助けを求めてくる。

アオイと慧子の警護対象者。

近江 正一 50歳


産業スパイ専門の調査会社「京橋テクノサービス」の付属救急センターで働く外科医。NGO「国境を越えた医師団」の一員として紛争地の野戦病院経験が長く、腕は確か。ただ、スピードを重んじるあまり、仕上げが荒い傾向がある。

頭に傷を負ったアオイを会社に秘密で応急処置した後、知人の外科医、川辺憲一にゆだねる。

川辺 憲一 28歳


若き天才外科医。大学病院の医局で起こったある事件が原因で病院を追われた上に医師免許も剥奪された。しかし、本人は、「運転免許のような更新制度のない医師免許は、終身免許だ」とうそぶき、闇で医師稼業を続けている。近江医師とは、長年の知り合い。

イケメンかつ女性大好き男で、彼の自宅兼マンションには女性の出入りが絶えない。一方で、公私を厳しく分ける潔癖さも示す。

佐伯 達彦 47歳


警察庁生活案全部の特命係長。階級は警視正。

総理大臣のイスを狙う野心家で、警察庁警備部に強いライバル意識を持っている。

人間を組織内の位置づけでしか評価できない男。警察を辞めた世津奈を警察時代の階級で呼び続けて、世津奈を鼻白ませる。

ただし、世津奈の粘りと度胸は評価している。

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