第49話 白い猫でも黒い猫でも、ネズミを獲る猫は良い猫だ
文字数 919文字
世津奈は、池辺の運転するクルマで黒木清左衛門から指定された合流地点に向かっていた。
あんたとコータローが、俺に 黒木清左衛門 を紹介してきたのに、コータローの奴、結局、ついてこなかったな。
池辺先生にお願いして黒木さんを「シェルター」に引き取ってもらうのは、私が「京橋テクノサービス」の社長に提案したことで、コーターローは最後まで反対していました。
「人格破綻している人間を『シェルター』にお願いすることはできない」とでも、言ったんだろう。
よくお分かりですね。コータローは、まさに、その通りのことを言いました
あの数学小僧の考えることはお見通しだ。あいつは、人間の非合理性に対処するのが苦手だ。コータローがあんたと俺とはうまくやってられるのは、あんたも俺も、基本的に合理的な人間だからだ。それから、レノックス博士、彼女もコータローがつき合いやすい相手だな。
でも、私も、黒木さんを「シェルター」に匿っていただくことには、かなり迷いました。
あいつは、天才ハッカーだが、ハッキング依存症で、倫理もへったくれもないからな。あんたが関わった事件でも、たまたま「善意の内部告発者」になっただけだろう？
ええ、彼は巨大グローバル企業で製造工程のシステム・エンジニアをしていたのですが、興味本位で本社のシステムをのぞき見して、会社の不正を発見しました。それを知人のフリージャーナリストに話したのですが、自分のハッキング・スキルを自慢するネタにしゃべっただけでした。
だが、社内の不正を暴いたことには違いないから、黒木の雇い主から頼まれて機密漏洩調査をしていたあんたとコータローは、黒木を「善意の内部通報者」とみなして調査契約を打ち切りった。そして、黒木が雇い主につきとめられて命を狙われないか、観察していた。
黒木さんが会社が雇ったヤクザに命を狙われたので、気が引けたのですが「シェルター」に保護をお願いしたわけです。
それで良かったんだよ。組織の横暴から個人を守るのが「シェルター」のミッションだ。それに、「シェルター」は、奴を重宝して使っているみたいだぞ。「白い猫でも黒い猫でもネズミを獲る猫は良い猫だ」という言葉があるが、奴がよくネズミを獲る猫なのは、間違いない。
