第65話 米軍は、日本の大学に研究資金を提供している

文字数 1,382文字

慧子さんは、なぜ、CIAが霧島教授と「シェルター」を結ぶ線にたどり着いたと考えたのですか?
私がなにをヒントにしたのか、産業スパイ・ハンターのあなたなら、知っているはずだわ。
米軍が、日本の大学など研究機関を資金援助していることですね。
その通り。2017年に、複数の新聞が2007年から2016年までの10年間に米軍が日本の研究機関に8億8千万円を提供していたと報じ、米軍もそれを事実と認めた。
2017年といったら、日本学術会議が防衛装備庁の「安全保障技術研究推進制度」に反対する声明を出した年よね。
2015年に防衛装備庁が民間の研究に資金援助する「安全保障技術研究推進制度」を作ったところ、軍事目的の研究開発は危険だと言う声が挙がり、大変な議論になりました。それを受けて、日本学術会議が制度の危険性を指摘する声明を出したのです。
でも、その話が巻き起こるずっと前から、日本の研究機関は米軍から資金援助を受けていた。
世津奈さんたちは、そっちがらみの産業スパイ狩りもしてきたんだろ?
いいえ。相手が警察なら、モメても歩み寄って手を打つ方法が分かってます。でも、軍関係は、何を仕出かしてくるか、見当もつかない。だから、ボクらは、軍がらみの研究開発には手を出さないんす。
賢明な判断だと思うわ。
2020年に、日本学術会議は、軍関係から資金援助を受けることについて、514の研究機関・団体にアンケートを取っています。
軍からの資金援助は受けたくないという回答が多かった……そう、思いたいけど。 
防衛装備庁の「安全保障技術研究推進制度」には否定的な意見が多かったのですが、それ以外の軍関係からの資金提供については「条件次第」という回答が主流でした。後の方の軍関係には、米軍と防衛省を含みます。
防衛装備庁の「安全保障技術研究推進制度」が一人だけ悪者にされた格好ね。
でも、現実には、「安全保障技術研究推進制度」を利用している研究機関や企業があるんすけどね。
大人どもが得意な「本音と建て前」の使い分けってやつだな。
文部科学省が研究助成金を減らし続けているから、研究機関がワラにもすがる思いで軍関係からの資金援助を受け入れる気持ちもわかる。
慧子さんは、和倉さんに「シェルター」を紹介した霧島教授が、米軍の資金援助を受けていると考えているわけね。
まだ、証拠はありません。ですが、米軍から研究資金を打ち切ると脅されてCIAの協力者になった可能性が高いとにらんでいます。
理論派の慧子らしい推理だな。だけど、ふたを開けてみたら、案外、単純なハニートラップだったりして。
ハニートラップなんて、17歳の乙女らしくないことを言うわね。
そぉですか? あたしは、そっちの可能性の方が高いと思いますよ。誘ってきた女性が実は未成年で、「こと」に及んでるところを盗撮され脅されて……なんて、すっごく、ありそうじゃないですか。
アオイ、その話は、止めなさい。
一つに決めつけないで、いろんな可能性を考えといた方がイイと思うけどね。まぁ、慧子が黙れって言うなら、あたしは黙るけどさ。
ともかく、霧島教授について調べなければいけません。
米軍から資金援助を受けてないか調べるんすか? まどろっこしいっすね。米軍に脅されたかどうかも含めて、直接会って本人に訊きゃいいじゃないすか?
えっ?
うん?
あら、それが手っ取り早くて、いいじゃない。
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登場人物紹介

山科 アオイ  17歳


アメリカ国防総省が日本に設置した秘密研究所で放電能力を持つ生体兵器に改造された少女。

秘密研究所を脱出した後、国家や企業から命を狙われる個人を保護するグループ「シェルター」に拾われ、「シェルター」が保護している人々のボディガードとなる。

山科アオイは、国防総省から逃れた後に名乗っている偽名。本名は、道明寺サクラ。


《放電能力》


※非接触放電  有効射程 20メートル

・単独のターゲットに致死的な電流を浴びせる設計だったが、アオイを暗殺兵器にしたくなかったレノックス慧子が故意に改造手術をミスしたため、致死量の放電はできない。

・設計にはなかった複数のターゲットを同時に攻撃する能力が発現している。


※接触放電  対象と身体を接して放電し対象を金縛りにする事ができる。


レノックス 慧子/アオイの相棒  37歳


元は、アメリカ国防総省で特殊兵器を開発する技術者だった。

日本人の両親の間に生まれたが、両親が離婚し母がアメリカ人と結婚したため、レノックス姓を名乗っている。


慧子を含む5人を「放電型生体兵器」に改造した。そのうち4名は職業軍人で改造されることを志願した者たちだったので、設計どおり致死能力を持たせた。

しかし、国防総省に拉致された民間人であるアオイに対しては、設計上求められていた致死能力を与えなかった。このため、アオイは一度も暗殺兵器として利用されていない。

アオイが秘密研究所を脱出するのを助け、後に自らも国防総省を離脱してアオイに合流して、2人で「シェルター」のボディガード役を務めている。

M 年齢不明


「シェルター」内でのアオイと慧子の「世話役」。アオイ達と「シェルター」の関係を調整する。

「シェルター」は組織に追われる個人をかくまうが反撃はしない非抵抗主義を貫いていたが、強力な戦闘力を持つアオイが加わっったため、一定限度の自衛力を持つ方向に転換した。

しかし、アオイ達の活動と「シェルター」本来の非抵抗・非暴力主義との関係は微妙で、Mは、常に難しい舵取りを求められる。

元はロボット工学の権威で、現在でも、アオイと慧子に様々な偵察・攻撃用の超小型ロボットを提供している。

宝生 世津奈(ホウショウ セツナ) 35歳


産業スパイ狩りを専門の調査会社「京橋テクノサービス」の調査員。

以前は、警視庁生活案全部生活経済課で営業秘密侵害事案を扱っていた。


ITとクルマに弱く、この方面では相棒のコータローに頼りっきり。


ホワっと穏やかだが、腹が据わっていて、必要とあれば銃を取って闘うこともためらわない。

コータロー(本名:菊村幸太郎) 27歳


調査員。宝生世津奈の相棒。

一流大学の博士課程(専攻は数理経済学)で学んでいたが、アカデミック・ハラスメントにあって退学。2年間の引きこもりを経て、親戚の手で「京橋テクノサービス」に押し込まれる。

頭脳明晰で、IT全般に強い。空手の達人で運転の腕も一流。


アカハラの後遺症で「ヘタレ」の傾向がある一方、自分が納得しさえすれば身の危険をいとわない勇敢さも持ち合わせている。

和倉 良一  35歳


日本有数の製薬会社、創生ファーマの研究員。

創成メディカルは、公には人工的に合成した臓器を新薬開発に用いているとしているが、実は、実は手術患者から摘出した臓器を用いていた事を知り、会社を内部告発する決意をする。その直後に、何者かかに命を狙われ、「シェルター」に助けを求めてくる。

アオイと慧子の警護対象者。

近江 正一 50歳


産業スパイ専門の調査会社「京橋テクノサービス」の付属救急センターで働く外科医。NGO「国境を越えた医師団」の一員として紛争地の野戦病院経験が長く、腕は確か。ただ、スピードを重んじるあまり、仕上げが荒い傾向がある。

頭に傷を負ったアオイを会社に秘密で応急処置した後、知人の外科医、川辺憲一にゆだねる。

川辺 憲一 28歳


若き天才外科医。大学病院の医局で起こったある事件が原因で病院を追われた上に医師免許も剥奪された。しかし、本人は、「運転免許のような更新制度のない医師免許は、終身免許だ」とうそぶき、闇で医師稼業を続けている。近江医師とは、長年の知り合い。

イケメンかつ女性大好き男で、彼の自宅兼マンションには女性の出入りが絶えない。一方で、公私を厳しく分ける潔癖さも示す。

佐伯 達彦 47歳


警察庁生活案全部の特命係長。階級は警視正。

総理大臣のイスを狙う野心家で、警察庁警備部に強いライバル意識を持っている。

人間を組織内の位置づけでしか評価できない男。警察を辞めた世津奈を警察時代の階級で呼び続けて、世津奈を鼻白ませる。

ただし、世津奈の粘りと度胸は評価している。

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