アオイ、世津奈、池辺の3人は、和倉を乗せた大型クルーザーが根城にしている小さな港に来ていた。港の場所は、佐伯警視正から教えられていた。アオイたちはクルーザーが利用している桟橋の15メートルほど後方にある無人のプレハブ小屋にこもって、割れた窓から外の様子をうかがう。
桟橋の手前に、様子の悪そうな連中が集まって来ました。ゴルフバッグを担いでいる奴がいます。ショットガンとかライフルとか隠し持っていそうです。
遅すぎるぞ。「機械屋」の奴、ちゃんと仕事してんのか?
「機械屋」さんなら、大丈夫です。彼は腕の確かなプロです。
世津奈が、窓の割れ目から双眼鏡を突き出して沖合に向ける。
来ました。右舷に少し傾いて、スピードも出ていません。「機械屋」さんがプロの仕事をしてくれました。
30分後、クルーザーは傾いた右舷側を桟橋に横付けする形で停船した。
アオイ、世津奈、池辺の3人は、プレハブ小屋の屋根に伏せて身を隠していた。アオイはプラスチック弾入りのショットガン、世津奈はペイント弾入りのライフル、池辺はアーチェリーに、発煙筒を先端に取り付けた矢をつがえている。
迎えの連中とクルーザーから降りてくる連中が桟橋の上でごっちゃになったら、厄介だぞ。
アオイさん、それは大丈夫です。迎えの連中の役目は陸側をガードすることです。狭い桟橋をふさいだりしません。
世津奈が屋根の上で片膝立ちになってライフルを構え、クルーザーのタラップに照準をつけた。
アオイも片膝立ちになり、ショットガンを桟橋の手前にたむろっている男たちに向ける。
ズドンと腹に響く音がして、世津奈のライフルが火を噴いた。ペイント弾は有効射程距離が短いので、大口径のライフルを使ってタラップ上の和倉まで届かせようとしている。
やった、胸に命中です。これで、煙幕を張っても和倉さんを見失うことはありません。
池辺さん、煙幕をお願いします。
和倉は身を起こし、矢を放とうとする。銃声に気づいた男たちが、プレハブ小屋に向けて発砲し始めた。
アオイがショットガンで応射する。
和倉がアーチェリーを持ったまま、屋根から飛び降りる。
逃げるんじゃない。弾の来ないところから、落ち着いて矢を放つんだ。
池辺がプレハブ小屋の陰から宙に向けて矢を放った。矢はきれいな放物線を描いてプレハブ小屋を飛び越え、銃を撃ってくる男たちの前に着地する。先端の発煙筒から、黒い煙が噴き出した。
世津奈が狙撃用のライフルから自動小銃に武器を切り替えた。もちろん、装填されているのは非殺傷性のプラスチック弾だ。
アオイは黒煙に包まれ始めた男たちに向けてショットガンを撃ち続ける。これもまた、非殺傷性のプラスチックペレットを装填している。
世津奈の自動小銃がタタタタと軽快な音を立てる。
池辺が放つ矢が次々と地面に達し、男たちの姿は黒い煙に巻かれて見えなくなる。
アオイさん、和倉さんが見えますか? 蛍光塗料のペイント弾を命中させたから煙幕の中でも見えるはずなのですが。
池辺がプレハブ小屋の陰から出て、小屋の正面に立った。アーチェリーに火矢をつがえ、クルーザーの木製甲板めがけて放つ。たちまち、クルーザーから火の手が上がった。
アオイと世津奈はショットガン、自動小銃を拳銃に持ち替え、煙幕の中に駆け込む。二人は煙幕の中でもお互いがわかるように衣服に蛍光ペイントを塗ってある。二人は行く手に現れる男たちを次々撃ち倒して、桟橋に直進する。アオイの耳元を銃弾がかすめ、すぐ近くで男性の悲鳴が上がった。
バカ、撃つな。この煙の中で撃ったら、相討ちになる。
世津奈が煙幕の中で蛍光ペイントに染まった衣服を際立たせた男の襟首をつかみ、こめかみに銃をつきつける。アオイが顔を近づけ、その男が和倉であることを確かめる。
和倉さん、またお会いしましたね。一緒に来ていただきます。
アオイがポケットからゴム製の手榴弾を取り出し、前方の海に投げ込んだ。ゴム製だから爆発しても金属片で人を殺傷することはないが、爆発音と水しぶきは男たちを脅えさせるに十分だった。
今のは投げそこなった。今度は、あんた達の真ん中に投げ込む!
人垣を作ろうとしていた連中が、クモの子を散らすように逃げ出すのがわかる。
クルマのエンジン音が急に近づき、ヘッドライトの光の筋が煙幕を貫いた。池辺がプレハブ小屋の裏に隠しておいたクルマで乗り付けたのだ。
アオイと世津奈は、和倉を両側からつかんでクルマに押し込み、自分たちも乗り込んだ。
池辺がアクセルを踏み込み、クルマをバックさせ、そのまま港に面する県道に飛び出す。池辺がハンドルを鋭く左に切りクルマ90度旋回させる。