第34話 ハッタリ
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池辺がパソコンに向かって録画の編集を始める。
アオイが池辺の寝室から出てくる。
終わったみたいだな。
まだだ。この録画をネットに流して、初めて完了だ。
でも、毒薬を使わなくてよかったじゃん。悪趣味にならないですんだ。
池辺がパソコンを操作しながら答える。
ここには、人を殺せる毒薬なんかない。動悸を速めたり発汗作用を促すクスリはある。息苦しくさせるクスリもある。だが、人を殺すクスリは、ここにはない。
じゃ、あいつが死んじまう毒を飲ませるっていうのは？
ハッタリっす。致死性の毒だと言って飲まされると、動悸が早くなっただけでもビビッてホントのことを白状しちまうんす。
こう見えても、俺は医者だ。人の命を救うのが仕事だ。相手が悪党とはいえ、口を吐かせるために致死性の毒を飲ませたりはしない。
なんだ、だったら、あたしも見てればよかった。慧子はハッタリだって知ってたのか？
世津奈さんたちから聞かされてはいなかったけど、この人たちの今までの行動から考えると、ハッタリだろうと思った。
だったら、あたしを締め出さなくてもよかったのに。
いいえ、アオイさんに外してもらったことで、あの用心棒を脅す効果が増しました。未成年には見せられないほどの苦しみ方をすると思い込んでビビッたから漏らしたのだと思います。
そっか、あたしもハッタリに一役買ったってことか。
だけど、あいつの口からは臓器密売業者のゾの字も出てこなかったぞ。それじゃあ、臓器密売業者を牽制するほどの効果はないだろう。
そこは残念だった。彼の口から「臓器密売業者に雇われた」という言葉を引き出せていたら、これからネットに上げる動画で、臓器密売業者の動きを止めることができたのだけど。
聖命会総合病院という名前も出なかったぞ。
そこは、わざと問い詰めなかったのです。臓器密売業者に手術で摘出した臓器を売っているのは聖命会総合病院だけとは限りません。わざと病院名を出さないことで、臓器密売業者に違法に臓器を売っている全部の病院を疑心暗鬼にさせることができます。
病院側から臓器密売業者に圧力がかかって、密売業者が動きにくくなることは期待できるわね。
うーん、もうちょっとインパクトのある動画はないのか？
そうだ、コータロー、あんた備蓄庫でニセ警官を尋問した時に、スマホで録画してたんじゃないのか？
してなかったっすよ。
阿呆か！ あの時の録画をネットに流せば、チャイナ・マフィアの動きも止めることができたのに。
アオイさん、あの時は、ニセ警官を仲間の元に返してやるのと引き換えに情報を訊きだしました。尋問の録画をネットに流したら、あの男は仲間の元に戻っても裏切り者として処刑されます。
相手が悪党でも、騙し討ちはしないのね。
私たちがよほど追い詰められない限りは。甘すぎるでしょうか？
いいえ、私の趣味に合っているわ。
ま、用心棒の自白映像を流して、様子を見るんだな。思いがけないところから反応があるかもしれないぞ。
あれ、ところで、和倉はどうした？ とっくにここに着いてるはずだぞ。
あっ、ごめん。アオイに言うのを忘れてた。聖命会総合病院を叩くのを優先したので、和倉の引き取りは伸ばしてもらった。
用心棒の尋問が終わった時に近江先生に連絡したので、もうすぐここに着くはずです。
その時、インターフォンが鳴った。
和倉さんっすね。ボクが玄関を開けます。
コータローがインターフォンの画面をのぞき込む。
