第52話 警察庁生活安全局の「スパイ大作戦」
文字数 1,167文字
創生ファーマの社長は金儲け第一主義で、和倉の抗マラリア新薬を開発中止した。それが、厚労省の役人から迫られたら「和倉抗マラリア新薬」の製造を承知するわけか。 嫌な話だ。
嫌な話？ とんでもないっす。貧しいアフリカの人たちが抗マラリア薬を手に入れやすくなるんすよ。イイ話です。
だけど、いくら厚労省が製薬企業の首根っこを押さえてるたって、なんの見返りもなしに、儲からない事業を創生ファーマにやらせることが出来んのか？
ＯDA（政府開発援助）を使えば、創生ファーマにもある程度は利益が出る。アフリカ支援にひと役買うことで会社の評判は上がる。全体として、創生ファーマに悪い話ではない。
警察庁の佐伯警視正が一枚かんでるんすよ。創生ファーマに見返りなしで抗マラリア新薬を作らせる手も、用意してそうっす。
創生ファーマの臓器密売組織との違法取引きを見逃してやる……とかね？
ええーっ！ それじゃ、恐喝じゃないか！ 警察が民間企業を脅すのか？
佐伯警視正は和倉さんから創生ファーマと臓器密売組織の関係を訊き出しているでしょうから、そういう脅しをかけることは、十分ありうるわね。
佐伯警視正は、和倉さんから訊き出さなくても、創生ファーマが臓器密売組織と闇取引しているのを知っていたかもしれない。
宝生さん、それって、警察庁が「情報網構築プロジェクト」を発動してるってことすか？
その「情報網構築プロジェクト」ってのは、なんだ？
警察庁生活安全局が企業・研究機関の中に情報収集のネットワークを構築するプロジェクトのことです。
「情報網構築プロジェクト」は2段階で構成されてます。第1段階では、企業・研究機関内に内通者を確保します。次の第2段階では、警察庁生活安全局のスパイを企業・研究機関内に潜入させます。
待ちなよ。日本では、警察が潜入捜査をするのは違法だろう？
表向きは……です。けれども、警視庁公安部が政治団体やテロ組織に捜査員を潜入させているのは半ば公然の事実です。
厚生労働省の麻薬取締官の場合は、囮捜査が法律で認められていると聞いたことがある。
おっしゃる通りです。「情報網構築プロジェクト」のヒントになったのは、内通者と潜入捜査を併用する麻取締官の捜査手法です。手の付けやすい内通者確保から手を付けるのが第一段階で、専門知識を持った潜入捜査員を育成して企業や研究機関に送り込むのが第二段階です。
生活安全局は、すでに創生ファーマ内に内通者を確保していて、そこから臓器売買の秘密をつかんでいた可能性もあるわけだな。
その可能性がかなり大きいと思います。
なんだよ、警察がスパイ活動かよ。ひでぇな。それでも、テロ組織をスパイするのは、まだ分かる。だけど、なんで、企業や研究機関をスパイしなきゃいけないんだ？
研究開発の機密漏洩と産業スパイの取り扱いについての法改正と関係があるんす。
