第11話 二股をかけやがって
文字数 1,630文字
アオイ達は、世津奈に急所を撃たれてうめいている警官を引き立てて、地下駐車場で世津奈たちのセダンに乗り込んだ。
それにしても、無人飛行船と言い、ニセ警官たちと言い、どうやって和倉さんの居所を突きとめたのかしら？
アオイ、和倉さんから預かったスマホを見せて。
はい、これ。でも、スマホじゃないよ。絶滅危惧種のガラケー。あれ、電源が入ってる。受け取った時、電源を切ったのに。
あなたが電源を切り忘れるはずはない。ちょっと見てみる。
わかった。襲われ続けるのは、和倉さんのガラケーのせいだった。
はぁ、何を言ってるんだ？
私の相棒が電源を切ったのに、今は電源が入って、誰かに信号を送っている。
…………
これはガラケーだから、スイッチを切ってもバッテリーが完全にオフにならない。だから、タイマーで再起動させられる。そして、このガラケーから誰かに信号を送る事ができる。
それで、和倉さんも携帯にそういう細工をしたのですね。
おいおい、待ってくれ。携帯が信号を出していたことは分かった。だが、私が仕掛けたはずがない。気球からのマシンガン斉射で私も殺されるところだった。
お友達が和倉さんのことが嫌いになったのよ。今、あたしがそうなってるみたいにさ。
第三者があなたが発信している信号を傍受して襲ってきた可能性の方が大きい。
そうなの？
私も、そう思います。和倉さんは、敵が多くていらしゃっるから。
あんた、誰に信号を送って居場所を教えてたんだ？
それは……言えない。
教えてくださらないなら、ここでクルマから降りていただきます。
この携帯はお返しします。和倉さのんお友達と、和倉さんの命を狙っている誰かさん。どちらが先に来るか、楽しみですね。
世津奈が、拳銃の銃口を和倉の膝につきつけた。
この銃に入っているのはプラスチック弾です。でも、この距離から撃ったら膝の皿が割れます。その状態で、お友達でない方が先に来ちゃった場合、どのくらい速く走って逃げられるか、興味深いものがあります。
待て、撃たないでくれ。クルマからも降ろさないでくれ。私が連絡していた相手は、エウケ・レ・レだ。正確に言うと、奴が雇った傭兵の指揮官だ。
エウケ・レ・レって、誰だ？
悪名高い、アフリカの独裁者です。20年間、スラジリアの大統領に居座り、国内外の人権侵害、国内外企業からの収賄、人身売買、なんでもありの悪党です。こまったことにスラジリアは天然資源が豊富で、そこから得る収入で強大な軍隊を抱え、周辺のアフリカ諸国にも大きな影響力を持っています。
「『顧みられない熱帯病』と闘う会」の天敵です。そんな奴と和倉さんがつるんでたなんて。ショックです。
あんた、「肉屋」から逃れるために、そのエウケ・レ・レって奴とあたし達で、二股かけたのか？
というよりも、私たちは安全弁だった。違う？
あぁ、そうだ。ところが、エウケ・レ・レの奴が、日本で活動しやすいアジア系傭兵の手配に手間取った。そうこうしている間に「肉屋」が動き出した。だから、当座の護衛を「シェルター」に頼んだ。
えっ、今「シェルター」って、言いませんでした？
さぁ、聞こえなかったわ。
なるほど、和倉さんを追っている臓器密売業者は「肉屋」なのね。
そうだ、「肉屋」だ。創生ファーマが取引していた臓器密売組織は「肉屋」だ。私が創生ファーマを内部告発したことを知って、「肉屋」が、私を殺そうとしている。
クソ、あの「肉屋」か！
いくら「肉屋」が恐ろしいからって、なぜ、よりによって、エウケ・レ・レなんかに保護を求めたんですか？
宝生さん、ボクらが捕まえた産業スパイの香坂直美、まだ雇い主を白状してませんけど、もしかしたら、エウケ・レ・レなんじゃないすか？
和倉さんは、自分が開発した抗マラリア薬の情報と一緒に自分の身柄もエウケ・レ・レに引き渡すつもりだったのね。
どうして、そんな情けないことを……
情けないだと？ とんでもない。私は、マラリアに苦しむアフリカの人々を助けるために、エウケ・レ・レと手を組むことにしたのだ。
