第28話  驚きの関係

文字数 1,950文字

どぉして、あんた達が「シェルター」に人を預けたりできるんだ!

あんたらは、企業のために働く犬だろうが!

アオイ、「犬」呼ばわりは失礼です。世津奈さんたちにお詫びしなさい。
いいんですよ。私たちは産業スパイと、それに丸め込まれた不良社員を狩る猟犬です。
だが、企業機密を漏らすのは産業スパイとグルになった不良社員ばかりとは限らない。
この国には「公益通報者保護法」という立派な法律があるじゃないすか。
会社の不正や不祥事を社内の内部通報窓口に伝えた社員が会社からクビにされたり、降格されたりするのを防ぐ法律ね。
はい。この法律は、通報先に「報道機関、消費者団体、周辺住民」も含めています。
公益通報者保護法の概要は、こちらをご参照ください:

消費者庁『公益通報ハンドブック』

https://www.caa.go.jp/policies/policy/consumer_system/whisleblower_protection_system/overview/pdf/overview_190628_0001.pdf

そっか、会社の不正や不祥事をマスコミにリークするのは法的に認められてるってことだ。
機密漏洩を疑っている企業が「京橋テクノサービス」に調査を依頼してくる。調べていくうちに漏洩元が公益通報者だと分かった場合、その人間の名前をクライエント企業に伝えると厄介なことになる。
クライエント企業がその公益通報者に不利益を与えると、公益追放者をつきとめた「京橋テクノサービス」が共犯とみられる危険があります。
だけど、「機密を漏らしてる人間を見つけます」って契約してんだから、正直に伝えるしかないんじゃないの。
ボクらの契約には「免責条項」があるんすよ。
免責条項?
機密の漏洩元が「公益通報者」だと判明した場合は、「京橋テクノサービス」が一方的に契約を解消できるという条項です。契約解除した場合、公益通報者の名前はクライエント企業に伝えません。
そこまでに使った経費はいただくのでしょう?
経費もいただきません。着手金があった場合は、それも返金します。そのくらいしないと、相手企業はこの免責条項に同意してくれません。
ふぅ~ん、一応クリーンなビジネスをしてるわけだ。だけど、それと武器商人一味の残党を「シェルター」に預けたことと、どう関係すんだよ?
もしかして、「京橋テクノサービス」は危険にさらされた公益通報者を「シェルター」に紹介しているの?
「京橋テクノサービス」が契約解除した後に、クライエント企業が自力で公益追放者を突き止めて危害を加えようとすることがあるのです。
だから、ボクらは、契約解除後も公益通報者の身辺を見守ります。危険の兆候が見えたら、池辺先生が公益通報者に接触して意向を探ります。闘い続けたいと言ったら、ボクらは手を引きます。身を隠したい意向なら、池辺先生が「シェルター」に紹介します。
「京橋テクノサービス」の人間じゃない池辺が、なんで公益通報者に接触するんだ。
お前、頭わりぃな。俺が「京橋テクノサービス」の人間じゃないから好都合なんだよ。
そうか、「京橋テクノサービス」が契約を解消した後に公益通報者に接触したことを企業に知られたら、裏切りとみられるな。
企業のセキュリティ担当者同士は横のつながりがあります。私たちが裏切り者だという噂を流されたら、商売あがったりです。
それで、話をエル・リケルメの残党に戻すと……だ。「京橋テクノサービス」は、そいつを公益通報者扱いして「シェルター」に紹介したってわけか。
公益通報者とは程遠い奴だが、命の危険にさらされてたからな。
それだけじゃ、ないでしょう?
「シェルター」に預けると、あんた達の得になることがあったんだろう?
奴は、産業スパイ組織について相当な情報を持ってて、手放すのが惜しかった。でも、「京橋テクノサービス」には捕えたスパイを匿う体制がない。
そこで、池辺先生を通して「シェルター」に受け入れをお願いしたのです。「シェルター」から許可をもらって、私たちは、時々彼に会って情報を仕入れてきました。
「シェルター」がそんな汚いビジネスに手を染めてたなんて、失望。
アオイ、もう少し大人になりなさい。正しいことをするのにも、お金は必要だわ。

世津奈さん、「シェルター」は「京橋テクノサービス」から元産業スパイの受け入れ料金をいただいているのでしょう?

然るべき額をお支払いしています。
私たちは、世津奈さんたちに御礼しなければいけないわね。私たちの秘密を知っている人間を「シェルター」内に封印してくれたおかげで、私たちを見つけ出そうとする人間の数が、確実に減ったと思う。
あの時はそこまでの考えはありませんでしたが、結果的にそういう効果があったなら、私たちにとっても喜ばしいことです。
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登場人物紹介

山科 アオイ  17歳


アメリカ国防総省が日本に設置した秘密研究所で放電能力を持つ生体兵器に改造された少女。

秘密研究所を脱出した後、国家や企業から命を狙われる個人を保護するグループ「シェルター」に拾われ、「シェルター」が保護している人々のボディガードとなる。

山科アオイは、国防総省から逃れた後に名乗っている偽名。本名は、道明寺サクラ。


《放電能力》


※非接触放電  有効射程 20メートル

・単独のターゲットに致死的な電流を浴びせる設計だったが、アオイを暗殺兵器にしたくなかったレノックス慧子が故意に改造手術をミスしたため、致死量の放電はできない。

・設計にはなかった複数のターゲットを同時に攻撃する能力が発現している。


※接触放電  対象と身体を接して放電し対象を金縛りにする事ができる。


レノックス 慧子/アオイの相棒  37歳


元は、アメリカ国防総省で特殊兵器を開発する技術者だった。

日本人の両親の間に生まれたが、両親が離婚し母がアメリカ人と結婚したため、レノックス姓を名乗っている。


慧子を含む5人を「放電型生体兵器」に改造した。そのうち4名は職業軍人で改造されることを志願した者たちだったので、設計どおり致死能力を持たせた。

しかし、国防総省に拉致された民間人であるアオイに対しては、設計上求められていた致死能力を与えなかった。このため、アオイは一度も暗殺兵器として利用されていない。

アオイが秘密研究所を脱出するのを助け、後に自らも国防総省を離脱してアオイに合流して、2人で「シェルター」のボディガード役を務めている。

M 年齢不明


「シェルター」内でのアオイと慧子の「世話役」。アオイ達と「シェルター」の関係を調整する。

「シェルター」は組織に追われる個人をかくまうが反撃はしない非抵抗主義を貫いていたが、強力な戦闘力を持つアオイが加わっったため、一定限度の自衛力を持つ方向に転換した。

しかし、アオイ達の活動と「シェルター」本来の非抵抗・非暴力主義との関係は微妙で、Mは、常に難しい舵取りを求められる。

元はロボット工学の権威で、現在でも、アオイと慧子に様々な偵察・攻撃用の超小型ロボットを提供している。

宝生 世津奈(ホウショウ セツナ) 35歳


産業スパイ狩りを専門の調査会社「京橋テクノサービス」の調査員。

以前は、警視庁生活案全部生活経済課で営業秘密侵害事案を扱っていた。


ITとクルマに弱く、この方面では相棒のコータローに頼りっきり。


ホワっと穏やかだが、腹が据わっていて、必要とあれば銃を取って闘うこともためらわない。

コータロー(本名:菊村幸太郎) 27歳


調査員。宝生世津奈の相棒。

一流大学の博士課程(専攻は数理経済学)で学んでいたが、アカデミック・ハラスメントにあって退学。2年間の引きこもりを経て、親戚の手で「京橋テクノサービス」に押し込まれる。

頭脳明晰で、IT全般に強い。空手の達人で運転の腕も一流。


アカハラの後遺症で「ヘタレ」の傾向がある一方、自分が納得しさえすれば身の危険をいとわない勇敢さも持ち合わせている。

和倉 良一  35歳


日本有数の製薬会社、創生ファーマの研究員。

創成メディカルは、公には人工的に合成した臓器を新薬開発に用いているとしているが、実は、実は手術患者から摘出した臓器を用いていた事を知り、会社を内部告発する決意をする。その直後に、何者かかに命を狙われ、「シェルター」に助けを求めてくる。

アオイと慧子の警護対象者。

近江 正一 50歳


産業スパイ専門の調査会社「京橋テクノサービス」の付属救急センターで働く外科医。NGO「国境を越えた医師団」の一員として紛争地の野戦病院経験が長く、腕は確か。ただ、スピードを重んじるあまり、仕上げが荒い傾向がある。

頭に傷を負ったアオイを会社に秘密で応急処置した後、知人の外科医、川辺憲一にゆだねる。

川辺 憲一 28歳


若き天才外科医。大学病院の医局で起こったある事件が原因で病院を追われた上に医師免許も剥奪された。しかし、本人は、「運転免許のような更新制度のない医師免許は、終身免許だ」とうそぶき、闇で医師稼業を続けている。近江医師とは、長年の知り合い。

イケメンかつ女性大好き男で、彼の自宅兼マンションには女性の出入りが絶えない。一方で、公私を厳しく分ける潔癖さも示す。

佐伯 達彦 47歳


警察庁生活案全部の特命係長。階級は警視正。

総理大臣のイスを狙う野心家で、警察庁警備部に強いライバル意識を持っている。

人間を組織内の位置づけでしか評価できない男。警察を辞めた世津奈を警察時代の階級で呼び続けて、世津奈を鼻白ませる。

ただし、世津奈の粘りと度胸は評価している。

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