第14話 武装する

文字数 1,913文字

1時間後……
負傷して仲間のところに戻ることにする。5万ドルでは、中国内陸部にいる家族を無事に逃がせる自信がない。

わかりました。では、質問させてもらいます。あなたが属している組織を教えてください。


チャイナ・マフィアの「クリムゾン・タイガー」だ。
「クリムゾン・タイガー」は、なぜ和倉さんをさらおうとしたのですか?
そんなことを、俺のような下っ端が知らされてるわけがないだろう。
そんなはずは、ないでしょ。ウソをつくと、あなたを無傷のまま解放しますよ。
(アオイを指して)この子は、人の心を読める巫女なの。ウソをついたら、すぐバレるわよ。
慧子、この人、ウソは言ってないよ。
ホテルのスイートルームから和倉って奴を連れ出せと命じられた。外で仲間と最後のすり合わせをしていたら、飛行船が銃撃を始め、そして墜落した。慌てて部屋に駆け付けたら、あんたらに捕まった。
世津奈はニセ警察官への尋問を続けたが、「クリムゾン・タイガーの一員であるという以上の情報は引き出せそうになかった。本当に、下っ端のメンバーなのだろう。


2時間後、男性二人組がデポに現れた。一人がニセ警官に手錠をかけ、もう一人が世津奈に話しかけてくる。

あんたたちからナイフを奪い、あんたたちを刺して逃げた。闘っている間にこいつも刺された。そういう筋書きでいいな。

それで、お願いします。このお代は、米ドルならこの場で。円がよければ、後ほど口座振り込みします。

この場で、米ドルをいただこう。
コータローがニセ警官の逃走資金に用意した米ドル札の中から男に金を渡した。男たちがニセ警官を連れて出て行こうとする時、世津奈がニセ警官に声をかけた。
ご家族のお幸せを祈っています。
ニセ警官が鼻でふっと笑って、引き出されて行った。

ここであんたたちがあの男を刺すのかと思って、ドキドキした。

コータローも私も、正当防衛以外では、人を傷つけることはできません。

そういう汚れ仕事をやってくれるお仲間は、別にいるわけね。
「シェルター」にとってのあたしたちみたいなもんだな。
アオイ!
そうやって怖い顔して叱ると、余計、「シェルター」に興味が湧いてきちゃいます。
コー君、余計なことに首をつっこまないの。私たちの仕事の原則は、「見ざる、言わざる、聞かざる」です。

そうしてもらえると、ありがたいわ。

お互い、クライエントに報告することが増えました。私たちはクライエントから電話やメールでの報告を禁じられています。

傍受されたり盗聴されやすいっすから。フェイス・トゥ・フェイスで情報伝達するのが原則なんす。
私たちも同じです。クライエントには直接会って報告しなければなりません。
乗ってきたクルマはここに乗り捨てますが、代えのクルマがあります。私たちはそれでクライエントの元に向かいます。お差支えなければ、ご一緒にいかがですか?
では、お言葉に甘えて、最寄りの駅まで送っていただけますか?
本当にチャイナ・マフィアが絡んでるから、警戒した方がいいっすよ。差し支えなければ、クライエントさんの近くまでクルマで送りますよ。
慧子が疑わし気な目でコータローを見る。
慧子、大丈夫だよ。この二人は信用していい。最初に会ってから今まで、一度もあたしの中のアラームは鳴ってない。
では、クライエントの近くまで送ってもらいます。よろしくお願いします。
ここには武器もたくさんあります。念のため、武装も強化しましょう。

それは、いいアイディアだわ。

(心の中で)おっ、慧子の目が輝いている。武器庫を興味津々で見て回ってたからな。


慧子が棚からショットガンを取る。

これにもプラスチックの散弾を使うの?

はい。他の銃に使うプラスチック弾より柔らかい素材を使っています。

近距離の乱戦になったら、これが一番重宝かもしれないわね。
街中を持ち歩くことはできませんが、立てこもって防戦する時や、敵地に乗り込む時には頼りになります。故障の恐れもあるので、8丁持っていきましょう。
いつの間にか車庫に行っていたコータローが戻ってくる。
宝生さん、拳銃、マシンピストル、アサルトライフルを10丁ずつ積み込みました。閃光手榴弾と煙幕手榴弾はどうします?
絶対、必要。ありったけ、持っていきましょう。それから、一番口径の大きい狙撃用ライフルも。

狙撃用ライフル? そんな物騒なもの使います?

念のためよ。まだ、積める場所はあるんでしょ。

わかりました。
(心の中で)こうして各国は「念のため」軍備を拡大し、世界をますます危険な場所にしていく。人類が最初に石器で武器を作ったのが運のツキだったわけだ。
宝生さん、積み終わりました。
では、出発しましょう。
アオイ達は兵器を積み込んだ大型のバンに乗り込み、デポを後にした。
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登場人物紹介

山科 アオイ  17歳


アメリカ国防総省が日本に設置した秘密研究所で放電能力を持つ生体兵器に改造された少女。

秘密研究所を脱出した後、国家や企業から命を狙われる個人を保護するグループ「シェルター」に拾われ、「シェルター」が保護している人々のボディガードとなる。

山科アオイは、国防総省から逃れた後に名乗っている偽名。本名は、道明寺サクラ。


《放電能力》


※非接触放電  有効射程 20メートル

・単独のターゲットに致死的な電流を浴びせる設計だったが、アオイを暗殺兵器にしたくなかったレノックス慧子が故意に改造手術をミスしたため、致死量の放電はできない。

・設計にはなかった複数のターゲットを同時に攻撃する能力が発現している。


※接触放電  対象と身体を接して放電し対象を金縛りにする事ができる。


レノックス 慧子/アオイの相棒  37歳


元は、アメリカ国防総省で特殊兵器を開発する技術者だった。

日本人の両親の間に生まれたが、両親が離婚し母がアメリカ人と結婚したため、レノックス姓を名乗っている。


慧子を含む5人を「放電型生体兵器」に改造した。そのうち4名は職業軍人で改造されることを志願した者たちだったので、設計どおり致死能力を持たせた。

しかし、国防総省に拉致された民間人であるアオイに対しては、設計上求められていた致死能力を与えなかった。このため、アオイは一度も暗殺兵器として利用されていない。

アオイが秘密研究所を脱出するのを助け、後に自らも国防総省を離脱してアオイに合流して、2人で「シェルター」のボディガード役を務めている。

M 年齢不明


「シェルター」内でのアオイと慧子の「世話役」。アオイ達と「シェルター」の関係を調整する。

「シェルター」は組織に追われる個人をかくまうが反撃はしない非抵抗主義を貫いていたが、強力な戦闘力を持つアオイが加わっったため、一定限度の自衛力を持つ方向に転換した。

しかし、アオイ達の活動と「シェルター」本来の非抵抗・非暴力主義との関係は微妙で、Mは、常に難しい舵取りを求められる。

元はロボット工学の権威で、現在でも、アオイと慧子に様々な偵察・攻撃用の超小型ロボットを提供している。

宝生 世津奈(ホウショウ セツナ) 35歳


産業スパイ狩りを専門の調査会社「京橋テクノサービス」の調査員。

以前は、警視庁生活案全部生活経済課で営業秘密侵害事案を扱っていた。


ITとクルマに弱く、この方面では相棒のコータローに頼りっきり。


ホワっと穏やかだが、腹が据わっていて、必要とあれば銃を取って闘うこともためらわない。

コータロー(本名:菊村幸太郎) 27歳


調査員。宝生世津奈の相棒。

一流大学の博士課程(専攻は数理経済学)で学んでいたが、アカデミック・ハラスメントにあって退学。2年間の引きこもりを経て、親戚の手で「京橋テクノサービス」に押し込まれる。

頭脳明晰で、IT全般に強い。空手の達人で運転の腕も一流。


アカハラの後遺症で「ヘタレ」の傾向がある一方、自分が納得しさえすれば身の危険をいとわない勇敢さも持ち合わせている。

和倉 良一  35歳


日本有数の製薬会社、創生ファーマの研究員。

創成メディカルは、公には人工的に合成した臓器を新薬開発に用いているとしているが、実は、実は手術患者から摘出した臓器を用いていた事を知り、会社を内部告発する決意をする。その直後に、何者かかに命を狙われ、「シェルター」に助けを求めてくる。

アオイと慧子の警護対象者。

近江 正一 50歳


産業スパイ専門の調査会社「京橋テクノサービス」の付属救急センターで働く外科医。NGO「国境を越えた医師団」の一員として紛争地の野戦病院経験が長く、腕は確か。ただ、スピードを重んじるあまり、仕上げが荒い傾向がある。

頭に傷を負ったアオイを会社に秘密で応急処置した後、知人の外科医、川辺憲一にゆだねる。

川辺 憲一 28歳


若き天才外科医。大学病院の医局で起こったある事件が原因で病院を追われた上に医師免許も剥奪された。しかし、本人は、「運転免許のような更新制度のない医師免許は、終身免許だ」とうそぶき、闇で医師稼業を続けている。近江医師とは、長年の知り合い。

イケメンかつ女性大好き男で、彼の自宅兼マンションには女性の出入りが絶えない。一方で、公私を厳しく分ける潔癖さも示す。

佐伯 達彦 47歳


警察庁生活案全部の特命係長。階級は警視正。

総理大臣のイスを狙う野心家で、警察庁警備部に強いライバル意識を持っている。

人間を組織内の位置づけでしか評価できない男。警察を辞めた世津奈を警察時代の階級で呼び続けて、世津奈を鼻白ませる。

ただし、世津奈の粘りと度胸は評価している。

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