第10話 突然の攻撃 

文字数 1,329文字

アオイが廊下に出ようとドアノブに手をかけた時、ドアの外から「警察です。開けてください」という男性の声が聞こえた。

アオイがドアのピープホールをのぞと、制服警官が立っている。アオイは振り向き、慧子の顔を見た。

?

(心の中で)慧子、どうする?


慧子はアオイに身振りで待てと伝え、声を潜めて和倉に話しかける。

バスルームに身を隠してください。ここは、私たちが何とかします。
コータローがやってきて、和倉をバスルームに連れて行く。
世津奈は上着の下のヒップホルスターに手を回し、拳銃の感触を確かめた。
(心の中で)これが必要になるかも。装填してあるのは非殺傷性のプラスチック弾だから、あまり心配せずに使える。

アオイ、入っていただきなさい。

アオイがドアを開けると、男性の制服警官が4人、なだれ込んできた。
徒歩でパトロール中に、気球がこの部屋を機銃掃射するのを見ました。ケガ人はいませんか?
いえ、幸い、全員無事です。
警官の一人がバスルームに向かう。世津奈がヒップホルスタ―から銃を抜いて上着の下に隠し、警官の後ろから声をかける。

お持ちの拳銃はグロック17ですよね。警視庁は、いつから制服警官にグロック17の支給を始めたのですか?

世津奈と向き合っている警官がホルスターに手を伸ばした。
このニセ警官!
世津奈が警官の急所にプラスチック弾を浴びせた。警官は股間を抱えて転がる。


残りの3人の警官が一斉に銃を抜く。

はい、正当防衛成立。
慧子が世津奈を撃とうとした警官の頭部にプラスチック弾を2発浴びせた。
残り二人は、まとめてポイだ。
アオイの身体から青白い電光が奔り、2人の警官をなぎ倒した。

それは、ちょうど、コータローが銃を手にバスルームから飛び出してきたところだった。

あっ、やっちゃった。
宝生さん、今の見ました? 稲妻ですよ。今度こそ、あのアオイって子から稲妻が奔って警官を倒すところをこの目で見ました。
コー君、ここで、何してるの! 
世津奈がコータローを叱りとばした。
えっ、だって銃声がしたから、ボク、宝生さんのことが心配で。
コー君、私のことを心配してくれて、ありがとう。嬉しいわ。

でも、それは、プロの仕事の仕方ではない。あなたの仕事は、バスルームで和倉さんを守る最後の砦になることだった。今度同じ状況になったら、プロの仕事をすると約束してちょうだい。

ごめんなさい。約束します。
わかってくれたら、いいの。

じゃ、こいつらをチャッ、チャッと、縛っちゃいましょう。

世津奈が上着のポケットから電気工事で使う結束バンドを取り出して、コータローに投げた。

二人は、警官たちを後ろ手で縛り上げ始める。

この世津奈って人、凄い勢いで、あった事をなかった事にしちゃったんだけど……
私たちにとっては、大助かりだわ。
警官たちを縛り終えた世津奈が慧子に話しかけてきた。
お二人のおかげで命拾いしました。ありがとうございます。

私たちは、これから意識のあるニセ警官を取り調べます。お二人は、どうされますか?

私たちも、彼らの正体を、クライエントに伝える必要があります。

ここに長居は無用です。地下の駐車場に私たちのクルマを停めてあります。それに乗って、一緒に取り調べの出来る場所に移動しましょう。
では、お言葉に甘えさせていただきます。
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登場人物紹介

山科 アオイ  17歳


アメリカ国防総省が日本に設置した秘密研究所で放電能力を持つ生体兵器に改造された少女。

秘密研究所を脱出した後、国家や企業から命を狙われる個人を保護するグループ「シェルター」に拾われ、「シェルター」が保護している人々のボディガードとなる。

山科アオイは、国防総省から逃れた後に名乗っている偽名。本名は、道明寺サクラ。


《放電能力》


※非接触放電  有効射程 20メートル

・単独のターゲットに致死的な電流を浴びせる設計だったが、アオイを暗殺兵器にしたくなかったレノックス慧子が故意に改造手術をミスしたため、致死量の放電はできない。

・設計にはなかった複数のターゲットを同時に攻撃する能力が発現している。


※接触放電  対象と身体を接して放電し対象を金縛りにする事ができる。


レノックス 慧子/アオイの相棒  37歳


元は、アメリカ国防総省で特殊兵器を開発する技術者だった。

日本人の両親の間に生まれたが、両親が離婚し母がアメリカ人と結婚したため、レノックス姓を名乗っている。


慧子を含む5人を「放電型生体兵器」に改造した。そのうち4名は職業軍人で改造されることを志願した者たちだったので、設計どおり致死能力を持たせた。

しかし、国防総省に拉致された民間人であるアオイに対しては、設計上求められていた致死能力を与えなかった。このため、アオイは一度も暗殺兵器として利用されていない。

アオイが秘密研究所を脱出するのを助け、後に自らも国防総省を離脱してアオイに合流して、2人で「シェルター」のボディガード役を務めている。

M 年齢不明


「シェルター」内でのアオイと慧子の「世話役」。アオイ達と「シェルター」の関係を調整する。

「シェルター」は組織に追われる個人をかくまうが反撃はしない非抵抗主義を貫いていたが、強力な戦闘力を持つアオイが加わっったため、一定限度の自衛力を持つ方向に転換した。

しかし、アオイ達の活動と「シェルター」本来の非抵抗・非暴力主義との関係は微妙で、Mは、常に難しい舵取りを求められる。

元はロボット工学の権威で、現在でも、アオイと慧子に様々な偵察・攻撃用の超小型ロボットを提供している。

宝生 世津奈(ホウショウ セツナ) 35歳


産業スパイ狩りを専門の調査会社「京橋テクノサービス」の調査員。

以前は、警視庁生活案全部生活経済課で営業秘密侵害事案を扱っていた。


ITとクルマに弱く、この方面では相棒のコータローに頼りっきり。


ホワっと穏やかだが、腹が据わっていて、必要とあれば銃を取って闘うこともためらわない。

コータロー(本名:菊村幸太郎) 27歳


調査員。宝生世津奈の相棒。

一流大学の博士課程(専攻は数理経済学)で学んでいたが、アカデミック・ハラスメントにあって退学。2年間の引きこもりを経て、親戚の手で「京橋テクノサービス」に押し込まれる。

頭脳明晰で、IT全般に強い。空手の達人で運転の腕も一流。


アカハラの後遺症で「ヘタレ」の傾向がある一方、自分が納得しさえすれば身の危険をいとわない勇敢さも持ち合わせている。

和倉 良一  35歳


日本有数の製薬会社、創生ファーマの研究員。

創成メディカルは、公には人工的に合成した臓器を新薬開発に用いているとしているが、実は、実は手術患者から摘出した臓器を用いていた事を知り、会社を内部告発する決意をする。その直後に、何者かかに命を狙われ、「シェルター」に助けを求めてくる。

アオイと慧子の警護対象者。

近江 正一 50歳


産業スパイ専門の調査会社「京橋テクノサービス」の付属救急センターで働く外科医。NGO「国境を越えた医師団」の一員として紛争地の野戦病院経験が長く、腕は確か。ただ、スピードを重んじるあまり、仕上げが荒い傾向がある。

頭に傷を負ったアオイを会社に秘密で応急処置した後、知人の外科医、川辺憲一にゆだねる。

川辺 憲一 28歳


若き天才外科医。大学病院の医局で起こったある事件が原因で病院を追われた上に医師免許も剥奪された。しかし、本人は、「運転免許のような更新制度のない医師免許は、終身免許だ」とうそぶき、闇で医師稼業を続けている。近江医師とは、長年の知り合い。

イケメンかつ女性大好き男で、彼の自宅兼マンションには女性の出入りが絶えない。一方で、公私を厳しく分ける潔癖さも示す。

佐伯 達彦 47歳


警察庁生活案全部の特命係長。階級は警視正。

総理大臣のイスを狙う野心家で、警察庁警備部に強いライバル意識を持っている。

人間を組織内の位置づけでしか評価できない男。警察を辞めた世津奈を警察時代の階級で呼び続けて、世津奈を鼻白ませる。

ただし、世津奈の粘りと度胸は評価している。

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