第47話 勘だのみ

文字数 1,091文字

待った、待て。慧子と池辺が自信たっぷりにしゃべるから、日本政府が本当に和倉の新薬でアフリカを支援しようとしてると思い込んじまった。それが事実だって証拠は、ないじゃないか。全部、慧子と池辺の想像だ。
私は、自分の勘に自信があるけど。
俺もだ。
私みたいに、受験に数学のない私大文系卒の「ベタ文系」人間なら「勘だのみ」も分かります。だけど、お二人はエンジニアとと医師です。理系なんですよ。
そうっすね。ハードのエビデンスとソフトのロジック両方がそろわないと、納得性がないっす。
おっ、コータロー、久しぶりにしゃべると思ったら、イイこと言うじゃないか。もうひとりの理系人間も、こう言ってる。慧子、証拠を見せろ。
コータローは理系といっても、数学屋で純粋理論を扱うから頭が固い。俺たちのように科学を応用する側の人間は柔軟なんだ。
慧子、目の前で和倉を警察に持ってかれたんだぞ。カラスに「から揚げ」をさらわれたんだ。証拠のない推論を聞かされて「あぁ、そうなんだ」って納得できると思うか? できないぞ。
それ、「トンビに油揚げ」っす。
うるさい、「揚げ出し」とるな!
アオイ、それ、「揚げ足」だから。
うるさい、言葉が正しいかどうかなんて、「大事の前の小事」だ。


今度は、合ってたろ?

一応、気にはしてるのか……
確かに、世津奈さんとアオイの言う通りね。ミッションを完了できなかったのだから、その理由について、動かない事実を知る必要がある。
だけど、どうやって知るんだ? 佐伯を締め上げるか? その前にこっちが逮捕されて、あれこれ吐かされるぞ。
佐伯警視正のコンピューターに侵入しましょう。彼が本当に外務省、厚労省の役人仲間とつるんでいるなら、和倉を手に入れたことを、必ず仲間に連絡するはずです。
この部屋の俺のパソコンはダメだぞ。佐伯から見逃してもらったばかりだ。俺が奴のパソコンをハッキングしたなんてバレたら、たちまち、手が後ろに回る。
ネットカフェのパソコンを使って、ボクがやりましょうか?
コー君は、佐伯警視正に顔を知られてるからダメ。侵入元のネットカフェを突き止められて防犯カメラの映像を探られたら、一発でアウトだわ。
「機械屋」に金を積んでやらせたらどうだ? あいつ、こういうことも得意そうに見えるぞ。
アオイ、それは、あり得ない。「機械屋」さんを私たちに紹介したのは、佐伯警視正よ。
そっか~。誰か、適任者はいないのか?
うん、ひとり、いる。だが、そいつは今は「シェルター」に匿われている。
それ、もしかして、黒木 清左衛門 のことっすか?
そうだ。あいつを俺に紹介してきたのは、あんた達二人だったな。
黒木さんっすか?
黒木さん……
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登場人物紹介

山科 アオイ  17歳


アメリカ国防総省が日本に設置した秘密研究所で放電能力を持つ生体兵器に改造された少女。

秘密研究所を脱出した後、国家や企業から命を狙われる個人を保護するグループ「シェルター」に拾われ、「シェルター」が保護している人々のボディガードとなる。

山科アオイは、国防総省から逃れた後に名乗っている偽名。本名は、道明寺サクラ。


《放電能力》


※非接触放電  有効射程 20メートル

・単独のターゲットに致死的な電流を浴びせる設計だったが、アオイを暗殺兵器にしたくなかったレノックス慧子が故意に改造手術をミスしたため、致死量の放電はできない。

・設計にはなかった複数のターゲットを同時に攻撃する能力が発現している。


※接触放電  対象と身体を接して放電し対象を金縛りにする事ができる。


レノックス 慧子/アオイの相棒  37歳


元は、アメリカ国防総省で特殊兵器を開発する技術者だった。

日本人の両親の間に生まれたが、両親が離婚し母がアメリカ人と結婚したため、レノックス姓を名乗っている。


慧子を含む5人を「放電型生体兵器」に改造した。そのうち4名は職業軍人で改造されることを志願した者たちだったので、設計どおり致死能力を持たせた。

しかし、国防総省に拉致された民間人であるアオイに対しては、設計上求められていた致死能力を与えなかった。このため、アオイは一度も暗殺兵器として利用されていない。

アオイが秘密研究所を脱出するのを助け、後に自らも国防総省を離脱してアオイに合流して、2人で「シェルター」のボディガード役を務めている。

M 年齢不明


「シェルター」内でのアオイと慧子の「世話役」。アオイ達と「シェルター」の関係を調整する。

「シェルター」は組織に追われる個人をかくまうが反撃はしない非抵抗主義を貫いていたが、強力な戦闘力を持つアオイが加わっったため、一定限度の自衛力を持つ方向に転換した。

しかし、アオイ達の活動と「シェルター」本来の非抵抗・非暴力主義との関係は微妙で、Mは、常に難しい舵取りを求められる。

元はロボット工学の権威で、現在でも、アオイと慧子に様々な偵察・攻撃用の超小型ロボットを提供している。

宝生 世津奈(ホウショウ セツナ) 35歳


産業スパイ狩りを専門の調査会社「京橋テクノサービス」の調査員。

以前は、警視庁生活案全部生活経済課で営業秘密侵害事案を扱っていた。


ITとクルマに弱く、この方面では相棒のコータローに頼りっきり。


ホワっと穏やかだが、腹が据わっていて、必要とあれば銃を取って闘うこともためらわない。

コータロー(本名:菊村幸太郎) 27歳


調査員。宝生世津奈の相棒。

一流大学の博士課程(専攻は数理経済学)で学んでいたが、アカデミック・ハラスメントにあって退学。2年間の引きこもりを経て、親戚の手で「京橋テクノサービス」に押し込まれる。

頭脳明晰で、IT全般に強い。空手の達人で運転の腕も一流。


アカハラの後遺症で「ヘタレ」の傾向がある一方、自分が納得しさえすれば身の危険をいとわない勇敢さも持ち合わせている。

和倉 良一  35歳


日本有数の製薬会社、創生ファーマの研究員。

創成メディカルは、公には人工的に合成した臓器を新薬開発に用いているとしているが、実は、実は手術患者から摘出した臓器を用いていた事を知り、会社を内部告発する決意をする。その直後に、何者かかに命を狙われ、「シェルター」に助けを求めてくる。

アオイと慧子の警護対象者。

近江 正一 50歳


産業スパイ専門の調査会社「京橋テクノサービス」の付属救急センターで働く外科医。NGO「国境を越えた医師団」の一員として紛争地の野戦病院経験が長く、腕は確か。ただ、スピードを重んじるあまり、仕上げが荒い傾向がある。

頭に傷を負ったアオイを会社に秘密で応急処置した後、知人の外科医、川辺憲一にゆだねる。

川辺 憲一 28歳


若き天才外科医。大学病院の医局で起こったある事件が原因で病院を追われた上に医師免許も剥奪された。しかし、本人は、「運転免許のような更新制度のない医師免許は、終身免許だ」とうそぶき、闇で医師稼業を続けている。近江医師とは、長年の知り合い。

イケメンかつ女性大好き男で、彼の自宅兼マンションには女性の出入りが絶えない。一方で、公私を厳しく分ける潔癖さも示す。

佐伯 達彦 47歳


警察庁生活案全部の特命係長。階級は警視正。

総理大臣のイスを狙う野心家で、警察庁警備部に強いライバル意識を持っている。

人間を組織内の位置づけでしか評価できない男。警察を辞めた世津奈を警察時代の階級で呼び続けて、世津奈を鼻白ませる。

ただし、世津奈の粘りと度胸は評価している。

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